正解の行方
バルドの怒号を背に感じながら、里へと入っていった三人。
真っ赤に染まる木々達が、モア達を迎え入れる。
「綺麗〜…」
「島の外は寒かったけどここは割と涼しいくらいなんだね」
「なんで島の周りに炎なんか焚いてたんだよ?」
「この里は昔からずっとこうなんだ、小さな島だからね…北へ行けば大きな大陸があり強い権力を持つ国がある。攻められたらひとたまりも無いし、里を守るために先人が考えたことなんだよね。」
「へぇー…そうなのか」
「そういえば、地図には炎の里…って書かれてるものね」
「そのままの意味ってことだな?」
「そう言うことだね。」
「君たちにも改めて自己紹介するよ、俺は炎の力を持ってる、レイです。」
「よろしくお願いします」と無邪気な笑顔をむけるレイにつられてシンやフィルも自然と笑顔になる。
「俺はシンだ!よろしくな!」
「よろしく、シン。」
「あたしはフィルよ、フィルって呼んで?」
「うん、よろしくフィルちゃん」
「ちゃんなんかつけなくていいって!」
「あはは、いやいや」
「ちなみにあっちで捕まってんのはバルドだ!」
「そっか、後で改めて自己紹介をしよう」
レイはそう言って笑った。
「レイ君!私のことはモアって呼んでいいし、痒いからみんな敬語もなしで通ってるから!!英傑のみんなと同じで喋ろう!!」
「しかし…」
「いいの!私もこの前まで勇者だってこと知らなかったし!!!!」
モアの言葉にレイは少し考え、戸惑いながらも頷いた。
「わかった…じゃあせめてモアちゃんでお願い。」
「あはは!うん!」
その後3人はレイの案内の元、炎の里に咲く赤黄橙に染まる葉が連なる木々を見つめながら歩いていた。
「ねぇレイくん!この赤い葉っぱはなんて名前なの?」
「これはもみじと言います、他の国では秋から初冬にかけての短い期間だけ赤色をつける葉と言われていますが、この里はずっとこの葉が色付いています。」
「へぇ…綺麗…こんなの見たことない…フィルちゃん!綺麗だね!」
「うん!綺麗…って言うかレイあんた、敬語よ」
「あ。ごめん…ところでモアちゃん」
「はい?」
「貴方様は、三種の神器剣、盾、弓のどの勇者様でいらっしゃいますか?」
「…え???」
「ん?」
「レイ…弓と剣と…なんだって?」
「盾です、三種の神器の剣、盾、弓」
「「最後の一個!!!!!」」
「え?」
「最後の神器がやっとわかった!!!いや!なんとなくそんな気がしなくもなかったけど!!!」
「いやぁ!とりあえず一旦…バルドに報告するか?」
「そうね?そろそろ許してあげて?レイ。」
「あはは、そうだね」
そう言って4人は一旦バルドが捕らえられている里の入り口付近に戻る。
「ん?」
すると、子供達の笑い声が聞こえてきたのだ。
よく見ると、バルドが子供達と仲良く話しているのがみえた。
「なぁバルドぉ!!さっきのやってよ!」
「さんをつけろさんを…ったくしょうがねえガキどもだな。行くぞ?」
そう言ってバルドは空に水を放った。
バルドが放った水は弧を描くように飛んでいき、そこからは虹が出ていた。
「うわぁ!!すっげぇ!!もう一回!!」
「あぁ?ったく…ほらよ」
子供達はその能力に目をキラキラと輝かせていた。
「…」
子供に優しく笑いかけるバルドを見つめるフィル。
「…」
「ほら、行こうぜフィル?」
「…あ、うん!」
「ごめんごめんバルド君お待たせしました!」というモアの声を聞いたバルドは、優しい笑顔を豹変させ一気に眉を顰める。
「なんなんだよおめぇらよ…俺が一体なにしたっていうんだ!?」
「オメェらって言うかオメェだよ!!優男!?」とバルドはレイに指を差した。
「俺の名前はレイです、よろしくね?バルド君」
そう言って差された指を優しく掴み、握手をするレイ。
「あ!?あぁ、まぁよろしく。」
「里の子供達と遊んでくれてありがとう」
「あぁ…別にいいよ。」
「いやでも、流石だねバルド君、子供たちの心を一気に掌握するなんて…俺にはできないよ」
「おお、まぁそうだろうなぁ??」
「「…」」
その様子を見ていた三人。
明らかに機嫌が良くなっているバルドを見つめ言葉を失っていた。
「…馬鹿ね…」
「褒められて嬉しそう…」
「あいつが掌握されちゃってるじゃない」
「な…意外と…単純だよな…バルドって…」
「「そうだね…」」
その後、ひとしきり気分が良くなったバルドは最後の勇者の神器が盾であることを告げられる。
「盾…か…そいつで最後か。」
「そいつで最後ってことは…剣の勇者様に会ったことがあるの?」
その言葉を聞いたシンとフィルは、俯いてしまう。
「…あ…っ…」
モアは龍の島で起きたことを踏まえた上で誤解を解こうとしたが、先にバルドが発したことによりそれは敵わなかった。
「剣の勇者の話は…したくねぇ。」
「どうして?」
「どうしてもだよ。聞くな。」
「俺には知る権利がある。」
「知らなくてもいいことだってあるんだよ。」
「それは君の勝手な意見じゃないのか」
「…あ?」
「まぁまぁ!」とシンはレイとバルドの肩に腕を回した。
「喧嘩は無し!!な!」
「…」
「…」
彼らの表情から、何かがあったと察するレイ。
「モアちゃん…さっき何か言おうとしてたよね」
「え…?」
「バルド君と少し被ったから君は口を閉じたけど…何を言おうとしたの?」
レイはモアを見つめた。
モアは決心し、龍の島で起こったこと伝える。
ーーしかし、やはりフィルとバルドの理解は得られなかった。
「…」
「おめぇのことは…信じているが…あの女は信用できねぇよ。」
「私も同じ…モア…信じたい気持ちはわかるけど…そんなの受け取り手で考え方は変わると思うよ?だって…勇者ともあろう人が…人の命を残虐的に奪ったのよ?」
「それは…」
「それが…彼女の使命だとしたら…」
「あ?」
「命の選別をすることが…彼女の使命だとしたら…君たちが責めてることは間違いになるよ。」と、レイは2人に告げた。
「てめぇ…何が言いたいんだ…?」
「…人は…そんなに綺麗なものじゃない…憎しみ、恨みを抱えて生きている人もいる…」
「それはわかるよ、でも勇者なんだよ!?モアはたとえ罪を犯した人間だったとしても、人を殺したくないって考えてる…私たちだってそう!!!それなのにあいつは…」
「それは君の、君たちの考え方だ。」
レイはそう言った。
「…その考え方で救われる人と、救われない人がいる。」
「そんなやついねぇだろ!!!」
「…罪を犯した人間から被害を受けた人…」と、モアはつぶやいた。
「…っ…」
「…モアちゃんや君たちは…たとえ何があろうとも…人の命を奪うことは間違いだと考えている…でもそう思うことができない人だっている。」
「…」
「そう言う…苦しみと戦ってる人のために…彼女は剣を奮ったんじゃないのか。」
「誰かのために…人を殺すってのがあいつの使命だって…?そんなの勇者って言えんのか?」
「誰かに嫌われてでも使命をまっとうする…そんな辛い気持ちを抱えた人を支えるのが俺たち英傑の役目であって…責めたてて傷つけるのは役目じゃない。」
「主人の間違いを正してやるのも英傑の役目だろうが。」
「そうだね、でも…その剣の勇者様がしたことは、間違いなのかな。」
「んだとてめぇ…」
バルドはレイの胸ぐらを掴んだ。
「ま、まって!!お願い、聞いて!!」
「…」
「…」
バルドはレイの襟元を掴む手を緩める。
「私は…あの時、ニーナが初めて作った短剣をお母さんが握ってたことに気づいたの…それはあの子のお父さんが…宝物だって教えてくれたものだった。」
「それを…お母さんが握ってたの…!!」
そう言ったモアの声が震えていた。
「おじさんから剣を奪って…レオたちを傷つけたのは…お母さんだった…だから…」
「…っ…」
「ニーナのしたことは正しいって…?」
「…」
「それじゃ…お母さんを殺されて仕方ないっていってるのと一緒じゃない!!!」
「おいフィル…!!」
シンがフィルを見ると、彼女は涙を流していた。
ーー彼女は苦しかったのだ。
モアが自分の母親を殺したかもしれない友人を信じようとしていたから。
「どんな理由があったのかは…わかんないよ…でも!!あんたお母さん殺されてるんだよ!?」
「…っ…もう死んでたんだって!!!」
モアは堪えていた涙をこぼしながら叫んだ。
それはニーナを庇うための言葉ではなく、あの日見た光景を、受け入れたくない現実を、自分自身に言い聞かせるような叫び。
「…っ…」
「…は…?」
「操られてたんだと思う…」
「お父さんが操られてた時と同じだった。」
モアの言葉に、シンは目を見張る。
「動き方も…目も…あれは本人の意思じゃなかった…ニーナは…ずっとお母さんを止めようとしてた。」
「トワ達を守るためにやったことなの…っ…」
「…ニーナが操ったって可能性はないのか。」
「ない…」
「…理由は。」
「ホアンクルムの海岸であったあの人が言ってたから… 」
「俺がお前らの国の連中を殺したときもなって」と、モアは震える声でそう告げた。
「それに…」
「待て、モア。」
バルドはモアの言葉を静かに遮った。
「…おめぇが言ってることはわかった。」
「母ちゃんが操られていた可能性も…ニーナが止めていた可能性もな。」
「だが、それだけで決めつけるにはまだ情報が足りねぇ。」
そう言って、バルドは強く拳を握りしめた。
「そんなことないよ!!だって…」
「ならどうしてニーナは認めたんだ。」
「あの子はそういう子なの!!!」
「モア…」
「それに私は見たの…」
モアはユアンに攻撃を受けた時、歪む視界の中で、ユアンは三つの光を双剣の上で転がしていたのを見ていた。
「あの人…ユア君は…自分の気まぐれで人を殺したり、生かしたりすることができるのかもしれない…だから私達…あんなに刺されてたのに死ななかったんだと思う。」
「いや、それはちげぇよ、モア」
「…え?」
「…あの時、俺らのところにその龍みてぇな小さな龍が飛んできて、俺たちを龍の島まで運んでくれたんだ…」
「…」
「その龍自体に癒しの力がある…だからおめぇらは命を繋いだんだ。」
「…っ…」
「それに、後少し遅かったらお前らは間違いなく死んでたともあの島の兄ちゃんが言っていた…」
「おめぇの両親達が操ってたのとあの双剣野郎の力の関係を決めつけるのには…まだ早すぎる。」
「どうしてそんなにニーナを疑うの!?」
「友達を信じちまう気持ちがわかるからだよ!!」
「…っ…」
「おめぇ…この旅で何度裏切られてきた…」
「それは友達じゃない人で…」
「そうだな、だが、長年の友人に裏切られるのと、しらねぇ人間に裏切られるのとでは、気持ちも違うだろ。」
「…っ…」
「そんな手放しで信用して…後々おめぇが苦しむのは見てられねぇよ。」
「私には確証があるの!!!!」
「それは私たちだって同じだよ!!!」
「…っ…」
「ニーナは…全部の事実を認めた…その言葉が全てだよ。」
「違うよ!!!ニーナは!!!」
「信じたくない気持ちはわかるよ…でも…あんただって危ないめにあったじゃん!!彼奴らぐるだったじゃん!!それでもまだ信じるっていうの!?」
「信じるよ!!だって…っ…」
「もし本当に裏切られたら…あんたどうするの!?」
「…っ…」
「おい、フィル…」とバルドはフィルの肩を掴む。
「お前の言ってる事を疑うつもりはねぇんだよ…ただあの双剣野郎の行動と言動の辻褄があわねぇ限り…俺らはおめぇみてぇに手放しでニーナを信じることは出来ねぇ…」
「現に彼奴は認めてるわけだしな。」とバルドはモアに告げた。
「違う…違う…っ…ニーナはそんなことする人じゃない!!!」
「そう思ってるのはあんただけなんだよ!!モア!」
「…っ…」
「もうやめろって…!!!」
シンが声を上げた。
「…お前たちの気持ちはわかるよ…モアは突っ走るし…人をすぐに信じるし、危なっかしいから、心配して言ってるって…でも」
モアを抱き寄せたシン。
「モアを責めてるように聞こえるよ。」
「責めてないよ!!!?彼奴が全部悪いんだよ!?」
「モアは違うって言ってるだろ!?」
「じゃああんたはあいつを信じるわけ!?!?」
シンは奥歯を噛み締め、強く拳を握る。
「…っ…モアの母ちゃんを殺したとしたら許せねぇよ…けど…守られた命があることは確かだろ…」
「…っ…」
「とにかくだ。」とバルドはシンとフィルの肩を叩く。
「モアの言ってることは理解はできる…だが、あの双剣野郎が言ったこととモアが泉で見たと言うニーナの記憶…フィルがみた事実の整合性がとれない限り…ニーナのことは信じられねぇって言ってんだ。」
「どうして!?なんで信じてくれないの…?」
「あたしらは…!!」
三人の声が重なる。
誰も、自分が間違っているとは思っていなかった。
モアはニーナを信じたいと思っている。
フィルは自分のみたものが真実だと思っている。
バルドは信じたい気持ちとモアを守りたいという気持ちで揺れている。
だからこそ、皆が納得する答えが出なかった。
ーーそんな中
「信じるよ」と告げたのはレイだった。




