誰より優しい貴方へ
空の英傑レイナは空が飛べ、心が読める。
その上英傑の中で、一番腕っぷしが強い。
ルーク、リヒト、ユアが居ない広間ではニーナとレイナによる穏やかな時間が流れていた。
ーー俗にいう「女子会」である。
「ねぇねぇ?ニーナ?」
「ん?」
「ニーナってルークのこと好きだよね」
「は!?あ、いや…まぁ、そう、だけど…」
「そういや、心読めるんだったね」とニーナは笑った。
「レイナちゃんには嘘つけないよなぁ…つくつもりもないけどさ」
「…心が読めて気持ち悪いって…思わないの?」
「…」
ニーナは笑った。
「あー!今、言葉にしてほしいんだなって思ったでしょ!?」
「あはは!まぁ、ね…でも…言葉にして伝えてほしいよね?わかるよ」
「…」
「気持ち悪いなんて…思うわけないじゃん。なんでそんなこと思う必要があるのよ」
「…ずっとそう言われてきたからさぁ?それが当たり前だって思うじゃん!」
「そんな奴ら…当たり前にしちゃダメだよ。レイナちゃんにそんなこと言う奴…私がぶっ飛ばしてやるよ」
「あはは!」とニーナは笑った。
そんな彼女を、レイナは抱きしめる。
「うわっ!?強い…」
「私ねー…?ニーナのこと大好き…」
「あはは!ありがとう…心読めるってすごいけど…君の心は、口にしなきゃ伝わらないのがやるせないなって思うよ」
「え?」
「…いつもレイナちゃんは、私の気持ちに気づいて助けてくれるのに…私にはそれができない…それが悔しい」
「ニーナ…」
「だからちゃんとレイナちゃんは、私に気持ちを伝えてほしい、いつも貴方飄々としてるからさ。中々辛いとか、苦しいとか…そう言うの感じてても、気づいてあげられなくてごめんね」
「そんなことないよ!?あのね、本当に辛いとか苦しいとか思ってないの!!!」
「そんなことあるの?ないでしょ」
「うん、それは嘘!!」
「嘘かい!?」
「厳密に言うと…ニーナが辛いのに笑ってると苦しくなる…ニーナが一生懸命強くなろうとしているところを見ると苦しくなるよ」
レイナは、ニーナの手を握りしめた。
「もっと…素直に感情をぶつけて良いんだよ、ニーナ…ユア君に複雑な気持ち抱いてるのだって…あたり前だよ…だって記憶がないとはいえ、ムカつくもん」
「…あはは!なんで君が怒ってるの?」
「本当に!!」
「レイナちゃん…」
ニーナは少し俯き、再び顔を上げる。
「確かに…少し複雑だけど…でも、あれは全部私の落ち度だ。」
「ニーナ…!!」
「それでいいんだよ、だって…どんな理由があっても…」
「私が殺したのには変わりないからね」とニーナは告げた。
「チビ達に…憎まれても仕方ないことをした」
「そんなこと…あの子達は思ってなかったよ。」
「え?」
「私ね…貴方の故郷に行ってきた…貴方が救った命は…沢山あった…」
「沢山…って…トワしか…助けられなかったんじゃ…」
「勿論亡くなった子もいたよ、だけどお母さんに攻撃されて…ショックで気を失ってただけの子もいた…」
「…っ…」
「貴方は…3人の命を救ったの。」
「…」
「だから…自分を責めないで…お願い」
「…」
レイナの言葉を聞いたニーナは悲しげに笑った。
「…そうだね」
「嘘ついてる。」
「…ごめん…責めないようにはするわ」
「それも嘘、貴方は自分を責め続ける。」
「…わかったわかった!頑張るから!!」
「それも嘘!!全部嘘!!!私たちには優しいのに!!自分にも優しくしなさい!」
「はい!!はいわかりました!!」
「こいつぅ!!!」
レイナはニーナに飛びつき、肩に腕を回した。
「…ねぇニーナ…」
「んー?なに?」
「…リヒトから勇者の力を聞いたんでしょ…」
「あぁうん、レイナちゃんは今苦しくないの?」
「ほら、また他の人のことばかり気にする。」
「いやいや…」
「貴方は苦しくないの!?」
レイナはそう言ってニーナの首を軽く締め上げた。
「ぐはっ!?く、くるしい…今、今苦しい…っ…」
「あ!ごめん…」
「危ない…落ちるところだった…」
「あのね、ニーナそれとはまた違うんだけど…」
「ん?」
「ニーナには、英傑や、他の勇者様の魂の光が見えるはずなの…て言うかそもそも私たちには人の魂を見れる力があるの、たとえばあの人…穢れてるなみたいな」
「あの人穢れている。」と言う言葉は中々のパワーワードであるとニーナは思ってしまう。
「なんか、捉えようによっては凄まじい悪口なんだけど…」
「悪口とかじゃないの!!今、貴方はそれを知らないで…その汚れを吸収してるのね?」
「はあ、なるほど?」
「だからとりあえず…その魂を見る練習…してみようよ?」
「はい…」
「じゃあ私の魂を見て!!」
「…」
ニーナはレイナの胸元をじっと見つめる。
「なんか…大丈夫…?」
「ん?」
「絵的になんか…キモくない…?人の胸凝視してるの…しかも女の子の…」
「何言ってんの!貴方も女の子でしょ!!!!世界を救うための勇者が!そんな小さいこと気にしない!!!!」
「は、はい!!!」
ニーナはレイナの胸元を凝視した。
時折空色の光と丸い光を浴びたシルエットが見えてくるようになる。
「…あぁ…!なんか見えた…空色の…光で…すごく綺麗…」
「そうでしょそうでしょ?ルークとか、リヒトとか!ユア君も見える」
「へぇ!」
「で…これがまた瘴気や闇に染まってると、ちょっと黒がかってたり、紫っぽく見えたりするの」
「紫…団長も、紫の空気みたい奴を出してたから…多分それが瘴気なんだよね」
「そう…団長は…瘴気を生み出した張本人だから…」
「え?」
「まぁとりあえず!ルメイナ兵士達が、機嫌悪かったりしたのは、魂が穢れてたからなの!今すごく穏やかなのは貴方がここにいるからだよ」
「へぇ…」
「でも…その分貴方に蓄積されてるから、リヒトは心配してニーナに伝えたんだと思う。」
「…モア…弓の勇者の存在が、私には必要ってことだよね」
「そう…彼女も彼女で貴方がいないといけないの。だから…今こうして離れてる現状がとても危険なんだよ」
「…そうだね…でも、私はあの子達に許してもらえないと思う。」
「…どうして…そう思うの…?」
「彼女達の目の前で…もう何人も人を殺してるからね」
「ニーナ…」
「…」
「それは彼らが…貴方の力の意味を知らないからだよ」
「力の意味…」
「貴方は生の秩序を守るために…命の選別をしなければならないってこと。」
「…っ…」
「…たとえどんなことを言われたとしても…私達は貴方の味方だからね、ニーナ…」
「レイナちゃん…ありがとう…」
溢れそうになる涙をグッと堪えた。
「まぁ…ニーナは?ルークに一番味方してほしいんだろうけどね」
「ぶっ…い、今とても感動的な展開だったんじゃないのかい…」
「ふふ…ルークのこと…好き?」
「うん…」
「…どこが好き?なんで好きになったの?」
「えぇ…んー…なんだろう…不安だったんだよずっと…団長怖いし…でもそんな時…何も言わずにずっとそばにいてくれて…それがすごく…心地よかった…」
「…そっか?うんうん…うん!ニーナが好きなら私は応援するよ!!ルークに意地悪されたらぶっ飛ばしてあげるからね!!」
「可愛い顔して物騒なこと言うな!!」
他愛無い会話をしていた2人。
ーーニーナには一つ気になることがあったのである。
「あ、そういえばレイナはちゃん」
「ん?なに?ニーナ?」
「ルークの傷どうやって治したの?」
「…あ。」
そう言われたレイナは、龍の島に行った時に言われたある言葉を思い出した。
ーーそれは、ルークの傷を治しに行ったあの日のこと。
「カイルスー?いるー?なんか今!勇者様みたいな綺麗な光を感じたんだけど!!」
「レイナちゃん…もしかしたらカイルス君…体調を崩してしまったのでは…」
「えー?ったくー…まぁ、それもそうか…」
「あと…少しこの抱えられている感じが情けないのでおろしていただけると…」
「今更何言ってんの!!!ニーナに心配かけた時点で情けないの極みだよ。」
「は、はい…すみません…でも少し…痛みが和らぎました…この島に来たおかげですかね」
「そうだね…まぁカイルス…ベルゼウのみんなの怪我も治したし、ちょっと休んでるのかもね、ルークここでゆっくり怪我治してて?」
「私探しに行ってくるから!!」
そう言ってレイナは空へ飛び立った。
龍の島の中枢に立つ、どこまでも伸びている大樹。
それは「生命の大樹」とよばれ、始まりの勇者の歴史以前から生えている樹だった。
そこでカイルスが休んでいると見たレイナは辺りを飛び回る。
「お、小龍発見…!」
小さな龍が数多く漂っていたため近くにカイルスがあることを察するレイナ。
「カイルス!!ねえカイルスー?休んでるところ悪いんだけどさぁ!ルーク連れてきたの!!!!ちょっとだけ力を貸してほしいなぁ!」
「…」
大樹の木の枝に座り、瞳を閉じているカイルスの姿を見つけたレイナ。
「いたいた、ごめんねカイルス、おはよ!」
「…レイナですか…お前はいつも元気で感心します。」
「あはは!どーもね!相変わらず儚さに全振りしてるけど…体調どーお?」
「…そうですね…今日は気分がとても良いです…思わず眠ってしまうほど…」
「それはそれは!良いことがあったんだねぇ?」
「…ふっ…えぇ…そうですね…ルークなら…私の力がなくとももうすぐ…傷も癒えることでしょう…」
「この島は…全部貴方の力なんだろうけど?」
「…ところで…こんな場所まで私を探しにきた…本当の理由は?」
「あー…光を感じたなって思ったんだよ、貴方の言葉聞いてなんとなく理解したから大丈夫。」
「…」
「勇者様が弓を見つけたんだね」
「えぇ…」
「とても…美しい人だった…」とカイルスは告げた。
「あははー!それだけ!ごめんね!ゆっくり休んで!」
そう言ってレイナは地上へ降りようとすると、カイルスに呼び止められたのである。
「んー?なにー?」
「お前の穢れなき魂に…勇者様の光を感じる…」
「…剣の勇者様が見つかったんだよ」
「そうですか、なら…」
"その方を連れてきていただけるとありがたい。彼女の心は瘴気で、汚れてしまっている。彼女の穢れを、少しでも癒してあげたいんです。"
そう言ったカイルスの言葉を思い出したレイナ。
「あれ、レイナさん?どうされました?」
「ねぇニーナ?」
「はい?」
「私の背に乗って空飛ばない??」
「え?急に??」
「うん!行くよー!」
「え!?」
レイナはニーナの手を引き露台へ向かうと、そのままニーナを背負い、空高く飛び上がった。
ニーナの叫び声がルメイナ帝国に響き渡る中で、レイナは龍の島へと彼女を連れていったのだった。




