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貴方が貴方であるために。

冷えた露台で柱を背に瞼を閉じるニーナ。



「…」



彼女は傷ついてしまったルークと、そんなルークを連れ龍の島へ行ったレイナの帰りを外で待っていた。



「…」


「ニーナ、そろそろ中に入った方がいい。ここは冷えるぞ。」


「…大丈夫だよ!!2人のこと…待ってたいんだよ」

「…そうか。」

「リヒトは入ってていいよ?」

「…」



リヒトはニーナの隣に座る。

ーーふと、ニーナはリヒトに思っていたことを告げた。



「…リヒトってさ」

「ん?」

「なんか…行動が読めないよね。」

「…そんなこともない。」

「いや…人に平然と雷撃つの…やめてもらえません…?」

「あぁ、ごめん。多分今後もやる。」

「おい。」


「お前も見ただろ…その剣に閃光が走った時のあの美しさ。」


「違う違う、私見えてないのよ。」

「そうか、なら見てろ」



そう言ってニーナの剣に触れたリヒト。

ジリジリと電磁波のようなものが光り、剣の色を染めていく。


それは、リヒトの言うようにとても美しかった。



「うわぁ…!?本当だ…綺麗…!!」

「だろ」


「綺麗…っ…じゃない!!いや綺麗だけども、違うのよ、別にいいけど急に背中に痛み走るから。死んだかと思うわけよ。殺そうとしてます?」


「ごめん…今度はもう少し痛さを和らげるから」


「違う違う。そういうことじゃない。背負ってない時にしてくれない?」



「まぁいいけどさ…」と笑うニーナ。



するとフラフラとした足取りで、自分たちを横切るユアを見つけた。



「あれ…おかえりユア。」

「…はぁ…っ…」

「…」

「ユア?」

「はぁ…はぁ…っ…」

「どうしたの!?」

「…」



リヒトは膝から崩れ落ちるユアを立ち上がらせた。



「どうした…しっかりしろ…!!!」


「…っ…リヒト…私は…っ…何故…血だらけなんだ…何故…っ…何故血だらけなんだ!!!!」


「…っ…」


「お前は知っているのか…私が何をしているのか…知っているのか!!!」


「ユア…今のお前に…全てを受け入れる強さはない…」

「…」



ニーナはユアを見つめる。



「はっ…はぁ…私は…っ…何故覚えていない…っ…」

「ユア。」

「…っ…ニーナ、様…」

「…」



ニーナはユアに複雑な思いを抱えていた。

ーーしかし、彼の心に寄り添うことを決める。



「…っ…」



ニーナはユアを抱きしめた。

それを見たリヒトは彼女の腕を掴む。



「ニーナ…」

「ん?」

「…いや…すまない、なんでもない…」



ニーナはリヒトに笑いかけ、ユアの背中を優しく叩いた。



「…無理に…思い出そうとしなくていい…お前も苦しいんだろ…大丈夫だよ…今は一旦…休んだほうがいい…そこから考えよう…」


「ニーナ様…っ…ニーナ、様…っ…」



ユアはニーナにしがみつき涙を流す。

ーーすると彼はあることに気づいたのである。



「ニーナ様…お身体がとても冷たい…っ…」



「どうなされたのですか…?」

そう言って、ニーナから体を離すユア。



「あぁ…ずっと外にいたから…」

「何故?」


「ルークが団長に傷つけられて…レイナちゃんが龍の島に連れて行ったのね?だから、その帰りを待ってる…」


「そうだったんですね」

「うん…だから、また外で待って…っ…」



ニーナは突如強い胸の痛みに襲われた。



「ニーナ?」

「ニーナ様…」

「…っ…いや…なんでも、ない…っ…」



リヒトはユアの魂を見つめる。

穢れ切っていたはずの彼の魂は光を取り戻していた。

ーーニーナが彼の穢れを吸収したことが分かる。



「大丈夫か…ニーナ…!!」


「…はぁ…っ…はぁ…っ…いや…大丈夫…なんかちょっと…急に…苦しくなった…だけ…っ…」


「…」



リヒトはニーナの肩を掴む。



「ニーナ…よく、聞いてくれ…」

「…それ今じゃなきゃ…だめ…?」

「今聞いておいた方がいいことだ…」

「…何…」


「お前の勇者の力は、この世界に蔓延るあらゆる闇を吸収する力なんだ。」


「…」


「人の心の闇、苦しみ、恨みつらみ…人の負の感情や、"瘴気"という呪いによって生まれた負のエネルギー…それらをお前は吸収する力を持っている。」


「それが…この痛みと関係あるの…」


「あぁ…お前は吸収することはできるが…それを浄化することはできない…浄化するには弓の勇者様が持つ浄化の力が必要なんだ。」


「リヒト達は?」


「俺たちはニーナが来てくれたおかげで、胸の痛みや闇のエネルギーから解放された…それは城の者も同様…だがお前は」


「そっか、じゃあいいよ…」

「…どう言う、意味だ…」

「…リヒト達は苦しんでないんでしょ?」

「…あぁ…ニーナの力のおかげで…俺たちは守られている…」

「それならいい…誰かの役に立てて…私は嬉しいから」


「でもそれじゃあお前の命に危険が及んでしまうんだぞ…!?」


「…リヒト…っ…」



ニーナは自身の肩を掴むリヒトの手を握った。



「私は…大切な友達の…お母さんをこの手で殺した…そんな奴でも…誰かの役に立ってるなら…嬉しい…」


「ニーナ、お前は何か勘違いをしている…」

「…」


「お前は救わなければならない命を優先したんだ…!!いた仕方ないことだ…っ…」



「違う!!!!」とニーナは声を荒げた。



「もっと私が強ければどっちも守れたかもしれない…あの日の光景がずっと脳裏に焼き付いて、離れないんだよ…っ…」


「ニーナ…」


「こんなかっこいいことを言ってても…私がしたことは正しいって誰かに言って欲しくて…」


「そうだよ、お前は…」


「でも…モアのお母さんを殺したことを正しいことにするのは…モアへの裏切りだとも思う…っ…私が…殺された立場だったら…っ…きっと… 許すことはできない…っ…」



ニーナは膝から崩れ落ち、涙を流した。



「それなのに…私は自分がした事を許して欲しいと思ってる勝手な人間なんだよ…」


「そんなことない…ニーナ…お前は何も悪くない…」

「…」


「こんな奴…こんな自分のことしか考えていないようなやつが…なんで勇者なんだよ…!!!!なんで…っ…なんで…っ…なんで私が勇者なんだ…っ…クソ…ぉ…」


「…っ…」



ユアは2人の会話を聞き、断片的な記憶が想起していた。



"ニーナ…お前は何も守れねぇんだよ!!!!"


自分が言うはずのないその言葉を言い放った記憶が蘇り、ユアは頭を抱えた。



「…っ…」

「ユア…!!!」

「…はっ…」

「今は…自分ではなく…ニーナの事を優先してくれ…」

「すまない…っ…」



ユアはニーナの元に跪く。



「…」

「あまりこんなことをしたくは無いのですが…」

「…え…?」

「…」



ニーナの頬に手を当てなんとか口角をあげるユア。



「ゆっくりお眠りください…」

「…」

「…」



次第に瞳を閉じていくニーナの瞳。



「…」



彼女はリヒトの肩にもたれかかり眠りについた。



「すまないリヒト…私が運びます…」

「…あぁ、頼む。」



ユアは眠るニーナを抱きかかえ、リヒトと共に広間に向かった。



「…」

「…ユア…大丈夫なのか。」

「リヒト…」

「どうした。」



ユアはニーナの寝顔を見つめ、涙を流す。



「私は…彼女を傷つけたのか…」


「…お前に言わなければいけないことはあるが…今のお前の精神状態では、伝えることはできない。」


「…っ…いい…言ってくれ…先ほどから身に覚えのない記憶が…馬鹿みたいに蘇ってくる…っ…」



ニーナを抱きしめる力を強めるユア。

それに気づいたリヒトは、ユアに変わりニーナを抱えた。



「少し…休んでからにしろ…」

「頭が…っ…」

「…」



リヒトはニーナをおぶると、座り込んでしまったユアを脇に抱え広間へと戻った。



「しっかりしろ…ユア…」



ユアを放り、ニーナを寝台に寝かせるリヒト。



「…っ…」

「…」



這いつくばるようにして眠るニーナの元へ行き、彼女の手を握りしめ、涙を流すユア。



「ニーナ様…っ…私は…貴方に…何をしてしまったんですか…ニーナ様…っ…ニーナ様…」


「…」

「ユア…お前は彼女から離れろ。」

「嫌だ…嫌だ…嫌だ…っ…戻りたく、ない…っ…」



頭を抱え、涙を流す。



「ユア…!!!」



美しい黒髪が金色に染まっていく。

精神を乱されると忽ち姿を変えてしまうユア。


気持ちの弱さの表れだろうか。

必死に何かに抗い、苦しむ姿が、リヒトの心を痛める。



「…ユア…」



「また苦しんでるの?」

そういって現れたのはレイナとルークだった。



「…お前達…」


「ううっ…う…ワタ…シは…っ…何を…っ…うゔっ…!!!!」


「ユア君…記憶が…」


「ユアン君に…戻りたくないんだね、ユア君…だったら打ち勝たなきゃ…ユアン君に。」


「やめろ…やめろ!!!」



頭を抱え大声で叫ぶユア。

しかし、顔つきはどんどんユアンへと変わっていく。



「…」

「…っ…ごめん!!ユア君!!!」



そう言ってレイナはユアに手刀を入れた。



「…っ…」


「…貴方はユア君だよ…ちゃんと真実を受け入れなきゃいけないよ。」


「…」

「自分が何をしたか…ね?」

「…」



ユアはすでに意識を失っていた。



「…」

「ニーナに…」

「ん?」

「ニーナに勇者の力を教えた…」

「そっか…」


「ユアを抱きしめて…闇を吸収し、苦しみ始めたから伝えたんだ、そしたら…」



"私は…大切な友達の…お母さんをこの手で殺した…そんな奴でも…誰かの役に立ってるなら…嬉しい…"



その言葉を聞いたレイナはニーナの元へ行き、彼女の頬に触れた。



「ニーナ…殺した、なんて…貴方はどうして…ユアン君のことも守ろうとしているんだろうね…っ…」


「…」

「貴方は本当に…優しすぎるよ、ニーナ…」



レイナは涙を流した。



「もっとたくさん…責めていいのに…ユア君のことだって責めない…記憶なくしてるとは言え、平然と自分の前でヘラヘラしてるユア君のことなんて…絶対に許せないよ…っ…」


「…」


「ごめんね…ニーナ…っ…あの時…そばにいてあげられなくて…ごめん、ね…っ…」



ニーナの手を握り、涙を流すレイナ。



「信じて欲しかった仲間に、信じてもらえなくて辛かったよね…?私達は何があっても貴方を信じるからね…大好きだよ、ニーナ…」


「…」



リヒトとルークは2人を見つめていた。



「俺も同じ気持ちです…」

「そうだな…」



リヒトは、横たわるユアを再び脇に抱える。



「ニーナは露台でお前達を待っていた。」

「…え?」


「体が冷たくなってもあそこに居続けた…今にも死にそうだったユアが通り掛からなければおそらくずっとあそこに居ただろう。」


「そう、ですか…」

「…あいつが目を覚ました時に…そばにいてやれ…」



眠っている時は穏やかな表情でいるニーナを見つめるルーク。


自分を待っていた健気な彼女に、胸の奥を強く掴まれたような感覚におそわれる。



「レイナちゃん」

「ぐすっ…なに?」


「ニーナが俺を待っててくれた露台に、彼女と行ってきてもいいですか。」


「え!?何言ってんの!?寒いよあそこ!?」

「…」


「俺をずっと待っていてくれたんですから、待っててくれていた場所でもう一度会いたいんです」



そう言って微笑み、ニーナを抱きかかえたルークは露台に向かった。




ーーーーーーーー



ーーーーーーーー



吹雪くルメイナの地。

ただそこにいるだけで凍傷を起こしてしまいそうなほどの寒さのこの場所で、ニーナはルークとレイナを待っていた。



「…」

「…」



ルークは瞳を青く染め、炎を手元に灯す。

彼女を温めるように、炎の英傑の能力を使った。



体に突き刺すような寒さが襲う。



「…」

「こんなところに長い時間いたんだね…」



ルークはニーナを抱きしめた。



「…ん?」

「…あ、起こしてしまったね」

「あぁ…ルーク…おかえり…」

「ただいま」

「ルーク…おかえり…おかえり???」



「ん?」ともう一度瞼を開きルークを見ると、ニーナは嬉しそうにルークを抱きしめた。



「…ルーク…!!」

「あはは…ただいまニーナ」


「あれ!?レイナちゃんは!?ていうかなんで私抱きかかえられてるの!?」



「あはは」と笑ってルークはニーナを下ろす。



「俺が頼んで、2人きりにしてもらったんだ。」


「そっか…ルーク、もう怪我は平気なの?大丈夫?痛くない?」



そう言って再びルークを抱きしめるニーナ。



「…っ…」



ニーナにとって、いつもそばで守ってくれるルークは心の支えとなっていたのである。



「うん…」

ルークはまるで愛しい人に触れるように優しく、ニーナの頭を撫でた。



「もうなんともないよ」

「ごめんね…私が弱かったから…もっと強くなるからね」

「ニーナ」

「…もっと強くなってみんなを守るから…っ…絶対…強く…」



まるで自分に囚われているかのように、自分自身に暗示をかけるようにその言葉を呟き続けるニーナの肩をルークは揺さぶった。



「…ニーナ…!!」

「…」


「…ニーナは弱くなんかない…ニーナはずっと強い…だから…もう強くなろうとしなくていいから…」


「…」



そう言ってルークはニーナを抱き寄せた。



「君が辛かったら俺も辛い…」

「うん…」


「俺はいつもニーナの味方だから…ニーナは一人じゃないから…お願いだから自分を追い詰めないで…」


「ルーク…ありがとう…」

「…」



ルークはニーナを強く抱きしめ、心にできている長年塞がらない穴を埋めようとしていた。



「ルーク…?」

「…」



勇者の影として生きている自分をとても誇っている。

反対に、時として自分が何者であるかわからなくなってしまうことがあった。



誰かの力を借り、誰かの姿を写し、誰かのために戦う。

その中にいる「自分」とは何なのか。


「自分」という存在自体が居ないのではないか。

不安とは違う、虚無感が襲っていたのである。


闇に当てられたのだろうか、それともニーナと関わる中で別の感情が込み上げてきてしまったからなのだろうか。


ーーそんな思いをニーナにぶつけるわけにもいかず、ルークは彼女から体を離した。



「…っ…ごめ…俺…なんか…」

「…」



ニーナはルークの頬に触れた。



「ルーク…ルークはルークだからね」

「…え…?」

「…不安そう…何か心にあるなら言ってみて?」

「…」



ニーナに見つめられたルークは、少し戸惑いながら自分の思いを口にしていく。



「…俺は何者にでもなれる…それは何者でもないことの裏返しだ…自分の意思で動いているのかもわからない…」



「最近…自分が何者かわからなくなってしまう時がある…」

そう言って瞳を伏せるルーク。



「自分が何者かわからなくなったとしても…私はルークを見失ったりしないよ。」


「…え?」


「今ここにいる…仲間を思い、私を思ってくれるルークがルークなんだよ。私のためにこうして炎を出してくれたり、傷を癒してくれたり…」



「どんな時も私の味方でいてくれる…それがすごく嬉しい」とルークに笑いかけたニーナ。



「それは俺が勝手にしていることで…」


「そう…?私が勇者だからじゃなくて…みんなが英傑だからとかじゃなくて…ルークの意思で動いてるんだね?」


「…俺の意思で動いてる…俺がしたくて…動いてる。」


「それが…答えなんじゃない?」

「…っ…ニーナ…」


「自分がわからなくなったら、私がいくらでもルークを探し出してあげるよ、見つけてあげる!」


「ありがとう…ニーナ…君は俺の光だ…」



ニーナは頬を染め、俯いた。



「必ず君を…守るから」

「…っ…なんか…告白、みたい…」

「え?」



ニーナは気まずさから逃げるように、ルークと距離を取り広大な景色を見つめた。



「リヒトに言われても別にドキドキしないのに、ルークに言われると…なんか…っ…」



「ルークが好きだから、かな…っ…」と、ルークに聞こえないように呟いたニーナ。



「ニーナ。」

「…っ…」



ルークはニーナを引き寄せ、彼女に口付けを落とした。



「え…っ…ぇ…」


「…大切なのはみんな同じでいい。でも、その気持ちは…俺にだけ持っててほしい…っ…」


「…っ」



ニーナは理解するのに、時間がかかった。


なぜルークがそんなことを言ったのか。

なぜ自分に口づけをしているのか。


その答えを、言葉にして伝えて欲しかったニーナ。



「…」



ーーしかしルークは言葉ではなく、行動で答えた。



「…」

「…寒いから入ろうか。」

「うん…」



そう言ってルークは微笑み、手を差し出す。

ニーナは戸惑いがちに彼の手を握り、二人は城内へ戻っていったのだった。


ニーナの力:この世界に蔓延する闇を吸収すること。

しかしそれは浄化することでも、消し去ることでもなく、自身の身体に取り込まれていってしまう。

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