涙光
モアはカイルスと別れ、龍の島内を駆け抜けていた。
ーーすると。
「…わっ!!?」
「…っ…ご、ごめんなさい!!!!」
モアは誰かとぶつかってしまった。
「おっ…とっと!あれ!?貴方…」
「あ…あ!!!急いでるので!!!すみません!!!」
「あ!!!」
声をかけられた気がしたモアだったが、そんなことよりも仲間達に会うために振り返りはせずその場を走り去って行ったのだった。
ーーその人物が、仲間達と似た光を放っているいることに気が付かずに。
景色の変わらない道を駆けて駆けて駆け抜けていたモア。
木漏れ日差し込むその場所に、二人の英傑が姿を現す。
そして一人の英傑が眠るように倒れていた。
「みんな!!!」
「モア…」
「モア!!!!!!!」
バルドとフィルと熱い抱擁を交わすモア。
「二人共…生きててよかった…本当によかった…」
「ゔんんんんん…!!モアも生きててよかったね…!!」
「おめぇら…ほんっと、無事でよかったな。」
熱くなる目頭を隠すように、バルドは2人から体を離し木漏れ日を見つめる。
「ていうか…あんた!!!助けに来なさいよね!!」
「あ!?俺の忠告聞き入れなかったテメェらが悪いんだろ!!!」
「うっ…」
正論を言われ、ぐうの音も出なくなるフィル。
「珍しく認めんだな。」
「うっさい!認めてないわよ!!ばぁか!!!」
「なんだとコラァ!!!!」
「何よ!!!!」
「ストップ!!!!!そこまで!!!」
「…」
「バルド君が…戻ってきてくれなかったら…死んでたかもしれない」
「…」
「ありがとう、バルド君…助けてくれて」と瞳に涙を浮かべるモアの頭を、バルドはガシガシと撫でた。
「ぎゃぁぁあ!?髪の毛が!!」
「無事ならそれでいいんだよ。」
「何よ。私にはそんなこと一言も言ってないじゃない!!!」
「テメェにはいわねぇ、ぜってぇな!!!」
「なんですってぇ!?」
「うるせぇな馬鹿女!!黙ってろ少し!!!」
「ちょっといい加減にしてよ!!!!」
「ね、ねぇ!」
「「あ!?」」
「シンちゃんは…?」
「…」
「あぁ…ここにいるよ」
シンは横たわったまま、動かなかった。
「ここの主…みてぇなやつはみんな無事だって言ってたが…こいつだけは起きねぇんだ…」
「…うそ…」
「…」
モアはシンの元に座り込む。
「シンちゃん…ねえ…シンちゃん…」
「…」
ホアンクルムに来てから、不安なモアのそばにずっと居続けたのは他の誰でもないシンだった。
ニーナが見つからない時も「俺が必ず見つけてやるから心配するな」とモアを鼓舞し、どんな時も自分を信じてついてきてくれていたシン。
「死んじゃったの…?ねぇ…シンちゃん…」
「…」
「嫌だよ…シンちゃん!!!シンちゃん!!」
モアは涙を流した。
一緒にいることがいつのまにか当たり前になっていたシンの存在が、モアにとって何にも変えられない大きなものになっていたことに気づく。
「死なないで…シンちゃん…シンちゃん…」
「お願い…シンちゃん…っ…」
そう言って彼の胸に耳を当て涙を流し続けるモア。
ーーすると、何か異変に気がついたのである。
「…」
「ぐす…あれ…モア…どうしたの?」
「…」
鼓動が聞こえる、自分の鼓動とは違う、ゆっくりと、穏やかなリズムで流れる鼓動。
「…」
「ぐー…っ…がっ…ふー…」
「…」
「…」
「…」
「「…」」
島中に「鉄拳」「蹴り」「平手打ち」の音がこだました。
「ふが…あ…?な、なんだ!!!敵か!?」
「テメェが敵だわ!!!!呑気に寝てんじゃねぇタコ野郎が!!!!」
「涙返せ馬鹿!!!」
「なんか気持ち良くてさぁ…お前ら待ってるうちに…寝ちまってたわ…」
「はは!!悪い悪い!」とケロッとするシンの顎にアッパーカットを入れるバルド。
「ほぁが!!!!いってぇ…」
「テメェぶちのめすぞ!!!」
「まぁまぁまぁ!!むかつくけど!!そんな怒らないのバルド…」
「…」
「…ったく…モアからもなんとか言ってやれ」
「…」
「モア?」
拳を強く握り、怒りに震えているように見えるモアを見つめ恐怖のあまり3人は身を寄せ合う。
「おめぇ…完全に怒らせたぞ…」
「謝ってきな。」
そう言ってバルドとフィルに背中を押されるシン。
「モ、モア…!!悪ぃって…眠くてさ…気持ちよかったんだよ…生きてんだからさ?何もそんな怒ること…」
「怒るよ!!!!」
そう言ったモアは涙を流しシンに抱きついた。
「おお、これは…熱い抱擁?」
「そうだな。」
「な!!なんだよモア!!どうしたんだよ…」
「もう!!死んだと思ったじゃん!!!」
「…ごめんな…ちゃんと守ってやれなくて…」
そう言ってモアを強く抱きしめたシン。
「ううん…っ…いいんだよ、そんなこと…貴方は私たちを守ってくれたよ…」
「モア…」
そんな2人を見つめていたバルドとフィル。
「バルド、ちょっと遠く行こ?」
「あぁ、そうだな。二人にしてやるか。」
二人はモア達を見つめ笑い合うと、その場を後にする。
ーーモアはシンの腕の中で、涙を流した。
「やっと…泣けたんだな…よかった。」
「もう我慢すんな…」とシンはモアの頬に伝う涙を拭う。
「シンちゃん強いのに…一瞬でやられちゃって…怖くて」
「ごめん…不安にさせて…」
「弱い自分がすごく嫌になった…」
「そんなことねぇよ…お前はもう十分強い」
シンはモアの頭を撫でると、再び彼女を抱きしめた。
「この島で弓をもらったの」
「お!ついに勇者らしくなるんだな?」
「強くなってみんなを守りたい。」
「おう。おまえについてくぜモア。」
「信じてくれる?」
「あぁ。お前のいうことはいつも信じてるよ。」
「…」
その表情を察したモアは、追憶の泉の話をシンに伝えた。
「そうか…そうだったんだな…」
「うん…」
「お前が信じてるなら…俺もニーナを信じる。」
「シンちゃん…」
「でも…」
「あいつらの気持ちもわかるから…なんとも言えねぇな…」と困ったように眉を下げた。
「わかってもらうまで…私は諦めない。」
「そうか、なら俺もわかってもらうまで…一緒に説得するよ。」
「うん、ありがとう」
「んじゃ!とりあえず!」
「あいつら待ってるから、行こうぜ?」と差し出された手を握り、モア達は龍の島を後にするのだった。




