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濁流となる怒りと清流となる祈り

【登場人物】

龍の島の謎の青年。

光を放つ青年。しかし青年と呼ぶにはあまりにも儚い容姿をしている。


アル

ニーナの母

バルドは貧困街を抜けた先の町の人々から龍の噂を聞き集め、結局モア達がいるであろう浜辺に向かっていた。



「ちっ…誰も迎えにこねぇじゃねぇかよ…!!!あ!?なにか!?俺がおめぇらを見捨てねぇとふんだわけか!腹立つわ!!!」



「拳骨だけはさせろタコども!!!!」

そう言ってバルドはきた道を戻っていく。



波もなく、穏やかな海岸を眺めるバルド。



「…」



何故か無性に胸騒ぎがしたバルドは、モア達と別れたところへ走り出した。



「…」



いつものように、笑って迎えられると思っていた。

いつものように、憎まれ口を叩かれると思っていた。

いつものように、肩を組まれ笑われるかと思っていた。



「…っ…なんだよ…これ…」



血だらけの砂浜、絆が深まった仲間が血だらけの状態で倒れていたのである。



「おい…冗談だろ…どうしたんだよ…!!!!おい!!!おめぇら!!!何したんだよ…何が…」



バルドは急いで倒れている2人に駆け寄った。



「モア!!フィル!何したんだよ!!!!返事しろよ!!!おい!!!」



そこにはシンがいなかった。



「シン…おい!!!シン!!!」



しかしシンの血であろうものが砂浜に点々とつけられていたのだ。


点々とつけられていた血の跡を辿っていったバルドは、大きな血溜まりを見つけ、そこにシンがいた場所であるということ確信する。



「ここに…シンがいたのか…」



「せいかぁい」と言う声と共に自分に斬りかかる音が聞こえた。



「ちっ…テメェ…」



モアの傷口から流れる血をなんとか止めようと、自身のヘアバンドで止血するバルド。



「…おっと…お前は厄介なやつか。」



斬りつけたはずのバルドの体は、水を斬ったように感覚がなかった。


真っ二つ切られたはずのバルドの体は雫に包まれ、ゆっくりと再生する。



「うわ、ククク…気持ち悪ぃ…」

「やっぱりテメェだったんだな…」

「…お前は能力を割と使えるわけだ?」

「黙ってろ…クソやろう…」

「おいおい怒るなよ?短気は損するだけだぜ?」

「…俺の仲間をこんなにしといて…っ…」



バルドが振り向くと、ぐったりと動かなくなっているシンがユアンに引きずられ連れられているのが見えたため、彼は言葉を失ってしまう。



「あぁ…こいつも仲間か。」



そう言ったユアンはシンの体に剣を突き刺した。

ーーバルドは強い怒りに苛まれる。



「…テメェ…テメェだけは…」



途端に海が引いていく。



「…あ?」

「…っ…」



白波が立ち始めたそれは次第に大きな波を作り始めたのである。



「は…っ…はは…すげぇ…」

「テメェ…殺す…!!!!」

「…」



いつしか彼らを照らす太陽を覆う分厚い雲を作り、叩きつけるような雨を降らせる。


穏やかだと言われているホアンクルムの海は波を荒げ、今にもこちらに向かって襲い掛かってきそうなほどだった。



ーーーーーーー



その頃ホアンクルムでは、バルドが持っていた水の英傑の書物を解読を進めていたロベルトが心配そうに海岸沿いを見つめていた。



「…」

「ロベルトよ。」

「巫女様…いかがなされたので」

「…海が騒がしい…」

「…そう…思いますか。」


「水晶に映っていたのは濁流だ…彼女達に…水の英傑に何かあったのかもしれない」


「…」



ロベルトは解読した一文を見つめる。


生命の源たる水の力を受け継ぎし其方。

乾いた大地を潤し、渇きに苦しむ民へ恵みを与えん。

その流れは優しく、多くの命を育み、人々を救う希望となるだろう。

されど憎しみに心を染めし時、その水は濁流となり、全てを呑み込み破壊する災厄へと変わるだろう。



ーー解読文を見つめたロベルトは、再び鉛色に染まる海岸の空を見つめるのだった。



ーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーー



英傑達は怒りに苛まれると、災厄の後押しをしてしまうと言うこと。


彼らは決して怒りを力に変えてはならないのだ。



「テメェだけはゆるさねぇ!!!!」

「…オメェの力が…自然を動かしてるんじゃねぇのか?」

「関係ねぇ!!!!」

「まぁ遊んでやるよ。」

「テメェの死に様を見てやるよ…ゆっくりなぁ!!!!」



そう言ってバルドはユアンに襲いかかろうとした。



「バルド…っ…やめろ…」

「…っ…」



シンは、呻き声を上げながらもなんとか立ち上がる。

身体中は傷だらけで、何度もユアンの攻撃を受けたことがわかった。



「…すげぇなぁ…お前まだ死んでなかったのか。」


「うるせぇよ…俺は人より頑丈にできてんだよ…ばーか…!!!!!」



シンはユアンの顔にむけ拳を当てた。



「…つっ…く…くそがぁ!!!!!」

「シン離れろ!!!」

「…」



ユアンはシンの傷だらけの身体に新しく傷を入れる。



「…っ」

「男の呻き声は好きじゃねぇんだよ…さっさと消えろ」

「呻き声なんか…あげてねぇだろうが…っ…」

「…シン!!!」


「バルド…!!!俺はいいから…っ…早くこいつらを連れて…あの島に行ってくれ…!!」



ユアンの剣を掴み、動きを封じたシンは再びユアンを殴りつけた。



「なんでお前…倒れねぇんだよ!!!!」



何度も何度もシンの腕を切り付けるが、彼はそれを受け止めただユアンを殴ったのだ。



「うるせぇな…お前が…ユアと同じなんだったら…目覚まさせてやるよ!!!!!なぁ!!ユア!!こんな男に負けてんじゃねぇよ!!!」


「シン…」


「バルド!!!俺は頑丈にできてる!!!だから…こいつらを連れて…早く行け!!!!!!」



シンはユアンに馬乗りになり、何度も頬を殴った。



「ふざけんなよお前…っ…その腐った根性叩き直してやるよ!!!!!」


「…うるせぇ!!!その汚い手で俺にさわん…っ…」


「黙れ馬鹿野郎が!!!人を傷つけていいと思ってんのか!!!!!殺しを楽しんでるんじゃねぇよ!!!女を痛めつけるのが趣味だ…?笑わせんなよ!!その痛めつけてる女から…」


「…っ…」



「お前は生まれてきたんだぞ!!!!」と言ったシンの胸元に剣を刺したユアン。



「ぐっ…っ…」

「おい…シン!!!!!」

「あーうぜぇ…!!!!」



ユアンは自身に倒れ込んできたシンを蹴り上げる。



「…」


「…友情ごっこなんかしてんじゃねぇよ。何も見えてねぇ奴らがな…っ…!!!!」



彼らを嘲るように笑ったユアンは黒い闇に自分を包み、その姿を消した。



「…」

「おい…おい…シン!!!おい!!!」

「…」


「おい…強いんだろ…!!ふざけんなよ!!!!テメェは口だけなのかよ!!!ちげぇだろ!!おい!!!」


「…」



シンを揺さぶっていたバルド。

すると突然ゆらゆらと"何か"が漂い、モア、フィル、シンの前を泳ぐように浮遊しているのがみえたのだ。



「…なんだ…これ…」



そのゆらゆらと漂う何かは、バルドの肩に止まり頬擦りをする。



「これ…っ…まさか…龍…か…?」



不思議とバルドの心が穏やかになる。



「…助けてくれ…俺じゃねぇ…その…3人を…っ…助けて…くれ…っ…」



沢山現れた小さい龍の穏やかな光に包まれ、バルドは瞳を閉じたのだった。



ーーーーーー



ーーーーーー



小川のせせらぎ、小鳥の囀り、心地よい風、鼻を掠める優しい香り。


平和の全て存在するこの島。


他の島と違うのは、人が一人もいないということ。

それがこの場所を神聖で美しい島に作り上げている要因なのだろうか。



「…あれ…っ…」

「どうやら…目覚めたようですね」

「…っ…な…は…??あれ俺…砂浜にいて…で…」

「…」



優しく微笑むその青年は、人間と呼ぶにはあまりにも瞳が澄んでいて、まるで世界の全てを知っているような眼差しをしていた。



「おめぇ…まさか…」

「この島自体に、体を癒す力が込められている…」



「…皆無事でいる…安心しなさい。」

二人の英傑たちは森の中で光を浴び、傷を癒しているのがみえ、バルドは安堵する。



「…その力を持つ者は…例えどんなことがあろうとも…怒りに苛まれてはならない…」


「…」

「お前も少し…ここで休みなさい。」

「あぁ…悪い…感謝する…」



彼は怒りに支配された心を、穏やかな光によって癒されていた。



「…モアを抱えてどこに行くんだ…」

「彼女と少しお話がしたい…宜しいですか。」

「…あぁ…モアを…守ってくれんなら…」



青年はバルドに微笑むと、モアを抱きかかえたままゆっくり深い森に入っていった。


ーー青年の体からは儚く美しい光が発せられていた。



「…」



傷だらけになっていたはずのモアの体は、青年の手によって回復し、心にできてしまった穢れの破片を浄化して行った。



「寝台に…このお方を寝かせておきなさい。」



小さい龍にそう伝え、モアを寝台に寝かせた。



「…可哀想に…とても傷ついている…」



モアの額に手を当て、青年は涙を流した。

その涙は宙に浮かび、温かい光を帯びてモアの胸元に落ちる。



「…この方の願いだ。叶えてあげよう。」



「我が命に替えても」そう言った青年は龍の姿に形を変え、大空へと飛んでいった。



ーーベルゼウの地には勇者の光を持つ青年、ルーク、そしてレイナの姿があった。



「まだ痛い…?」

「…すま、ねぇ…っ…」

「大丈夫…もうすぐきっと…」

「…はっ…」



ベルゼウの民は、傷だらけの中で暗闇に浮かぶ翡翠の光を見つけた。



「…なんて…綺麗な光だ…」

「ニーナ…モア…すまなかった…っ…」


「ニーナちゃん…は…母ちゃんから…俺たちを助けてくれたんだ…」


「…っ…」



ルークとレイナは幼い子供達の叫びを聞く。



「みんな…みんな勘違いしてた!!お兄ちゃん…ニーナちゃんは俺達を助けてくれたんだよ!!!なのに…っ…ニーナちゃん…」


「トワ…っ…」



ニーナの母、アルはトワを抱きしめた。

青年はトワの元に跪くと、微笑みを向ける。



「その事実に…必ず彼らは気づく…トワ…お前は強く生きろ…姉上達を追い越すくらい…お前は強く生きていかねばならぬ…」


「…っ…」


「今、お前がしなければならないことは…ニーナが救ったお前の弟や妹を…母上、父上、姉上の代わりに守るのことだ。」


「…」

「できるか…トワ。」

「…」



トワは涙を拭き「うん!!!」と声を上げた。



「そうか…さすがは勇者の血を受け継ぐ者だ。」

青年はトワの頭をそっと撫でる。



レイナはその言葉に違和感を覚えた。


ーー暗闇に舞う翡翠の光を放っていた龍。

温かい光を放ちながら、モア、そしてニーナの故郷、ベルゼウ王国の地へ癒しの光を注いだのだった。

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