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本当の仇

バルドが怪しむ中で、ユアと共に行動を続けていたモア達。

ーーしかし、彼の変化した姿に酷い見覚えを感じてしまう。

見晴らしのいい浜辺まで、移動してきた一行。

歩いている途中に彼から「ユア」と名前を聞く。



「ユア、大丈夫か…?顔色悪いぞやっぱり…」

「…ご迷惑をおかけしました…」


「いえいえ!!!!気にしないでください!私たちは貴方の光を見つけたので!!」


「光…?」

「俺らの光が見えないのか?」

「…いえ…」



「貴方達の光は…とても温かい…」と瞳を閉じるユア。



「けれど…私の心に…光が見えているのですか…」

「…」



その言葉を聞いたバルドを眉を顰めた。



「見えるよ!!もちろん!!」

「とりあえず私たちと一緒に…」

「だめだ。」



モアの言葉をバルドが遮った。



「…え?」

「なんだよ!どうしたんだよ?バルド!?」

「光が見えるからって…簡単に信用すんな。」

「…だ、だけどさ…」


「おい。俺らは一度信じたものから裏切られた。新参者は信用しない。わかったか。」


「…そんな…」



「一つ聞かせろ。」

そう言ってバルドはユアの胸ぐらを掴み上げる。



「…っ…」

「てめぇはなんであそこにいたんだ。」


「…私、は…あそこにあったこの剣を持ち去った者なんです。」



そう言って彼は、バルドの手をやんわりと退けると、美しい双剣を取り出した。



「綺麗だね、その刀」

「心服していた主人からの贈り物だそうです。」

「心服…?」



ユアから聞くには、彼がいた街には遥か昔に英傑がいたと言う言い伝えがあったそう。



「英傑!?」


「はい、当時その英傑様が心服していた自分の主人が亡くなり、深く傷つき、その後闇に堕ちた英傑様だそうです」


「そんな英傑が…」

「そうだったんだな…」

「お前の服には見覚えがある。」



バルドは淡々とユアに尋問していく。



「…あぁ…今は…ルメイナ帝国にいます…」

「ニーナという人間を知っているか。」

「バルド…!!」


「はい…勿論知っています…私が深くお慕いする勇者様の1人です…」


「そうか…だったらその居場所を吐いてもらおうか。」

「…」



ユアは不思議そうにバルドを見つめていた。



「何故…同じ英傑である貴方が、そんな瞳で私を見るのですか…ニーナ様は…とてもお優しい人です…」


「ふざけんなよ…」

「居場所は!?どこにいんの!!あいつは!!!」



ユアにつかみかかるバルドとフィルを止めるシンとモア。



「お、おい…!!やめろって!!!」

「そうだよ二人とも!!!!そんな無理には…」

「…ニーナ様は…とてもお優しいお方です。」


「優しい…?彼奴は…こいつの…自分の友達の家族を殺したんだぞ!!!」


「…」



バルドはユアを見つめ、見たことのあるその顔つきに目を見開いた。



「…おい。」

「…はい…?」

「…」



バルドは再びユアの胸元を乱暴に鷲掴んだ。



「つっ…っ…」

「おい!!バルド!!!」

「バルド君やめて!!一旦落ち着いて!」

「…」


「お前…髪の毛の色と髪型と雰囲気でわかりづらかったが…あの時彼奴といた奴だよな…?」


「…は…?」



その言葉を聞いたユアは戸惑うようにして眉を下げた。



「…覚えていないんです…ごめんなさい…」

「あぁ…?覚えてねぇだ…?」

「バルド君!!一回落ち着いて!」


「…こいつは信用できねぇ。話も聞くな。そいつを置いて旅を進めるぞ!!!」


「だめだよ!!!そんな…頭ごなしに押さえつけないで!!」


「おめぇらなぁ!?人が良すぎるんだよ!!!」


「ちょっとあんたね…いくらニーナのことがあるからってユアに当たりすぎよ?」


「おめぇこっち側だったろうがよ!?」

「なんか…可哀想になってきたのよこの顔見てたら!!!」



そう言ってユアを指差すフィル。



「はぁ…?」

「バルド落ち着けよ…こいつの話を聞くだけだからさ」

「ちっ…」



「知らねえ!!!」と声を荒げたバルド。



「俺はもう一人で龍を探す。お前らだけで友達ごっこでもしてろよ!!!!」


「あ!!ちょっと!!バルド!!!」

「…」



バルドに見向きもしないモアに、フィルは焦りを浮かばせた。



「モア…ねえモア!!バルド行っちゃうよ!?」


「大丈夫…頭を冷やしてるだけだと思うから…バルドくんはきっと戻ってきてくれるよ」



「彼…優しい人だから」

そう言って笑うモアに、フィルは従う事にした。



「ねぇユア君…?」

「はい、なんでしょう、モアさま…」

「私たち今ね?仲間を集める旅をしてるの」

「そうだったんですね…」

「貴方は…こう言う書物を持ってたりしない?」



そう言ってモアは書物をユアに見せる



「これは…この双剣をあの石碑から取った時に…」

懐から書物を取り出したその時、ユアは突如頭を抱え蹲ったのである。



「ユア君…?」

「…っ…」

「おい!!?どうした!?ユア!!!」

「頭が…かち割れそうだ…っ…」



"何故なんですか!!!何故!!!何故あの人を助けてくれなかったのですか!!!!"


"うるさい…っ…何故…何故なんだ!!!!"



記憶の彼方で、自分であり、自分でないような人物が、亡骸を抱きしめ泣いている仲間に詰め寄っていたのが見えた。



"俺たちがそばにいたら…"



「アレンはもっと早く死んでいた。」

その言葉を聞いたユアは、ひどい頭の痛みにもがき苦しみ始めた。



「う…っ…あ…あぁ…っ…!!!!」



ユアは痛みに耐えきれず、自分の頬に爪を立てる。



「ユアくん!!しっかりして!!自傷しちゃだめだよ!」

「どうして…」

「…え?」

「"どうして…っ…私を置いて…死んでしまったのですか…"」

「え…?」

「…」

「どうしたの!!!!ユア!しっかりして!!」

「…はっ…く…ゔぅ…っ…」

「ユア君…前世の記憶を思い出してるのかも…」

「でもよ…苦しそうだぞ!?」


「はっ…はぁ…思い…出さなきゃ…っ…私は…一生…覚えていなければ…いけない…っ…」



そう言ってユアは苦しそうに頭を掻きむしる。



「ユアくん!!無理に思い出さなくていいの!!わたしたちが無理矢理聞き出そうとしたから…ごめんなさい…!!」


「…っ…」



頭を抱え、何かに抗うようにもがき苦しむユア。

次第に変わっていく彼の姿に、3人は目を見張った。



「お、おい…なんだよ…これ…」

「…」



"おいおい…許してくれよ…勇者様…俺はあんたに…指示された通りに…彼奴の家族を殺したんだぞ…?"



「うそ…こいつ…あの時の…ニーナと一緒にいたやつじゃない…!?」


「ユア、くん…??」



苦しそうに呻き声を上げる彼は、やがて黒く美しい髪を金色に染め、優しく光る瞳はすっかり濁り切っていた。



「…はぁ…っハハ…ククク…っ…あぁ…」

「…あ、貴方…っ…」



それはモア達にとって

モアにとって、許し難い行いをした人物と同じだったのである。



「…ちっ…あーあ…長い間あの格好でいたわけか…気持ち悪ぃ…」


「…」



白く美しい双剣が、瘴気を帯びた禍々しい双剣へと姿を変える。



「…」


「なんだよぉ…?さっきまで…偉く優しくしてくれたじゃねぇかよぉ…?」



シンはモアとフィル守るように彼女達の前に立つ。



「なぁにがユアだよ…笑わせんな…俺の名前はユアンだっつーの…覚えておけよぉ…?」



「まぁ…もうすぐ死ぬような奴らに覚えられても意味ねぇけどなぁ…?」と卑しい笑みを浮かべるユアン。



「最初に殺されてぇ奴から、前に出なぁ。女はまぁ…楽しみにとっておきてぇからよ…」


「…ふざけんなよ!!お前…平気で俺らの前に現れやがって!!!!」


「まさか…っ…そんな…」

「人格が変わるって…こんななの…?」


「まぁまぁ待てヨォ…俺は何もしちゃあいねぇんだぜ…?ぜーんぶあの勇者様が悪いんだぜ…?」



「俺らはさぁ…仲間なんだろぉ…?」と告げるや否や、シンに飛び掛かるユアン。



「チッ…こいつ…っ…」



ユアンの剣を受け止めたシンは、そのままユアンの頬を殴った。



「フィル!!!!モアを連れて逃げろ!!!」

「でも!!!」

「さっさと行け!!!!!」

「…っ…」



シンはユアンに向けられた双剣を蹴り捨て、ユアンの体を押さえつける。



「へ…へへ…俺にぃ…そんな触れてると…てめぇ死ぬぜ…?」


「は…?」



「うっ…っ…」

突如、締め付けられるほどの胸の痛みに襲われ始めたシン。



「はは、ざんねぇん…俺の体はな…あの腑抜けと違って瘴気に塗れてんだよぉ…ばぁか!!!!」



そう言ってシンの顔面に回し蹴りを入れたユアンは、そのまま彼の腹部に双剣を突き刺した。



「かはっ…てめ…っ…」


「おめぇさん随分…かてぇなぁ…?安心しろよ…?俺は男は一瞬で殺すタチなんだよ。同じ男の嘉だ…苦しまずに済ませてやる…」



「よかったなぁ…男で…!!!!」

そう言って、双剣を振り上げたその時。


光を浴びた矢がユアンの頬を掠めた。



「…っ…」



睨みつけるようにしてそちらへ視線を向ける。

掠った頬は清められたかのように蒸気を発していて、ユアンがいかに汚れているかがわかる。



「それ以上…シンちゃんを傷つけるなら許さないから!!!!!」


「…」



「あー…うぜぇ…」と、首を鳴らすユアン。

モアはシンの元へと行き、傷口を抑えた。



「…っ…あ…くっ…」

「シンちゃん!!!嘘…嘘嘘…死なないで!!!

「…」



「いい声で鳴くねぇ…そっちの勇者さんは…」と薙刀を構えるフィルを見つめながらユアンは告げた。



「許さない…許さないわよあんた!!!」



不気味に笑いながら近づいてくるユアンに強風を突きつけ、彼の頬に傷を入れた。



「へぇ…威勢がいいなぁ…そう言う女も…嫌いじゃねぇ。そう言う奴ほど死に際は弱々しく泣くからなぁ?」


「うるさい!!!!」



フィルは風を起こし、ユアンに攻撃を向けた。

ーーしかしユアンは身軽にフィルの攻撃を受け流していく。



「くそ…くそ!!!なんで…なんで当たんないのよ!!」



風を巻き上げ攻撃を続けていたフィル。



「…っ…あれ…」



そこにはユアンはいなかった。



「…どこに…っ…」

「フィルちゃん!!!」

「…っ…」



「はいおそーい…ざーんねん…」

同時に、掴んだフィルの腕をユアンは真反対に折り曲げたのである。



「…っ…」



フィルは泣き叫ぶ声を上げた。



「フィルちゃん!!!!!!」



モアは矢を放つも、ユアンに切り捨てられてしまった。



「おめぇは後であそんでやっから待ってろよ…」

「…っ…」



フィルは痛さのあまりに涙を流す。

その表情に、嬉しそうにユアンは笑う。



「あぁ…いいねぇ…その泣き顔…もっと苦しんでから…死なせた方が良さそうだぁ…っ…」



そういってユアンはフィルの首を持ち上げる。



「…」


「苦しいなぁ…?痛ぇなぁ…もっとだよ…もっと泣けよ…怖いって…助けてくださいって言え…」


「うぅっ…うっ…っ…」

「お願い!!やめて!!!」



モアは必死で声を上げた。



殺すか殺さないかギリギリの線引きでフィルを痛めつけているユアンはあまりにも異質で「例え難い恐怖」という鎖でモアの心を捉えて離さなかった。



「お嬢ちゃん…まだ…死ぬなよ…?」

「…ぐっ…」


「そんなに涙を流して…可哀想になぁ…可哀想で…堪らない…」


「…ふっ…ざけんじゃないわよ!!!気持ち悪い!!!」



首を掴まれていたフィルは、そのままユアンの顎を蹴り上げた。



「チッ…てめぇ…俺の顔に傷つけやがってぇ…!!」

ユアンはフィルを地面に叩きつけた。



「…くっ…」

その反動でフィルは吐血してしまう。


しかしユアンは、地面に倒れ込んだフィルを蹴り飛ばした。



「フィルちゃん…お願い…お願いやめて!!!」


「はっ…オメェは泣き叫ぶだけでぇ…何にもできねぇんだな…?」


「ニーナさんはそんな顔しねぇぞ…?怒りに塗れた手で…俺を殺そうとしやがった…そういや…涙を流す時はどこかに感情を置いてきたみたいだった…あぁ…あの時もそうだった…」


「…」

「俺がお前らの国の連中を殺したときもな。」

「…っ…」



そう言って笑うユアン。

ーーモアは許せなかった。



「許さない…許さない許さない…!!!!ニーナを傷つけて…国の人を殺して…私の大切な…家族まで…っ」



モアの光り輝く魂に、一片の影ができてしまう。



「…私の…大切な仲間まで…っ…」

「おやおや…勇者さんがそんなに心が汚れてていいのか?」

「…っ」



ユアンはフィルを乗り上げ、目にも止まらぬ早さでモアの元へと移動する。


モアの二本に結われた髪の毛を力の限り引っ張りあげた。



「痛い…お願い…やめて…っ」

「なんか…オメェ…弱ぇや…」



「つまんねぇ。」

そう言ってユアンは、双剣をモアの胸元に突き刺した。



「…」

「なんだこいつ…さけばねぇのか」



そう言ってユアンは背後から滅多刺しにした。



「…」



激痛が走っているのに、意識を手放すことを許してはくれない。



「教えといてやる…オメェの命は…俺が預かってる…」

「…はっ…っ…」



歪む視界の中で、ユアンは三つの光を双剣の上で転がしていた。


ーーシン、フィル、モアは、ユアンに命の灯火を抜かれていたのである。



「…おめぇの母ちゃんは…あんなに泣き叫んでたのによぉ…」



「ほらぁ、ほらぁ!!!」

そう言ってモアを蹴っ飛ばすユアン。



「…」



そのうちにモアは動かなくなってしまった。



「なぁんか…手応えのねぇつまんねぇ女。」

「…」


「もう飽きたから、おしまいにしてやるよ。仲間も信用できない馬鹿な勇者ども。」


「…」



モアは薄れ行く意識の中、ユアンの心の闇を見た気がした。

ユアとは違うドス黒い魂、しかしその中にはわずかに光が差していることを確認したのを最後に、モアは意識を手放したのだった。

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