出会い
シン
ホアンクルム王国の村に暮らす少年。
明るく人懐っこい性格で、困っている人を放っておけない。
少々大雑把で調子に乗りやすいところもあるが、面倒見がよく、いざという時には頼りになる。
モアとは偶然出会ったことをきっかけに、行動を共にすることになる。
日差しが差し込み、眠っているモアを照らす。
「…なんだ…ここ…」
気づけば白く光る何もない空間に佇むモア。
彼女はそのまま歩き出した。
「…ニーナー!ニーナさーーーん!!!!!」
暫くある当ていると、モアの視界にはある2人が入ったのである。
「…」
「え?」
その人物は定かではないが、勇ましい姿で戦う剣士、そしてその後ろで息を合わせるように矢を打つ射手が居らという情報だけは掴んだモア。
「…」
その2人を見たモアに、不思議な感覚が襲ったのである。
「なんだろう…なんだか…」
「私とニーナに似てる気がする…」と、小さくつぶやいたモア。
そんな呟きを浮かべていると、先ほどまで剣を振り回していた人物が倒れ、そのまま動かなくなってしまっている事に気づく。
「…え?何かあったのかな…」
モアは思わず駆け出し、顔の判別できない2人の元へ向かう。
そんな中でモアは、倒れた人物を見つめ動かなくなる射手に目を向けた。
「…」
「貴方達は誰!?」
「…」
モアがよく見ると、横たわっているその人物は真っ赤な血を流し倒れている事に気づいたのである。
「ねぇ!!その人血まみれだよ!?倒れてるよ!?」
声をかけてもただ立ち尽くしているその人物に、若干の苛立ちを覚えたモアは、代わりに倒れた人物の元へと向かおうとするが、段々と身体が鉛の様に重くなり、その場で蹲るほどに動けなくなっていってしまった。
「…っな…なんか身体が…重い…っ…ちょっと!!!!聞いてるのそこの貴方!!!!」
「…」
「その人大切な人なんじゃないの!?」
その人物は、モアの必死の呼びかけに応答することはなかったのだ。
「ねぇ!!その人!!!血を流して倒れてるよ!!!助けてあげてよ!?」
「…」
「ねぇってば!!!!!」
「…」
その時、その人物がこちらを向くそぶりを見せる間もなく。
少し遠くにいたはずのその人はモアの目の前に立ち、思わず声を上げた。
「…ひぃ!?きゅ、きゅうに…ていうかこっちにくるんじゃなくてさ…」
「…」
「…え?」
その人物は涙を流していた。
初めて見たその人物に、モアは言葉を失う。
自分でないはずなのに、他人な気がしないその女性の表情に。
美しいハニーブロンドの長い髪は、吹いていないはずの風に靡き、物悲しげに揺れていた。
その姿はあまりにも美しくモアの瞳に映る。
しかし、いつまでも言葉を失ってはいられないため、モアは気を取り直し女性に声をかけた。
「…」
「どうして…泣いているの…?」
「…」
その女性は再び涙を流すと、初めて口を開いた。
「目覚めなさい…勇者よ…」
まるで、鈴の音の様に優しい声がモアの耳に触れた。
「…へ????」
「その…強く、曲がらないそのまっすぐな心で…救えなかった我が友の魂を救ってほしいのです…」
「…え?」
その女性はモアの胸に手を当て、微笑み、消えていってしまう。
「あ…」
追いかけようにも、自分を包む心地の良い温かさに身を委ねることしかできなくなるモア。
まるで陽だまりの様に、モアの体を優しく包んで行くのだった。
ーーーーーーーー
「…ん…?」
陽だまりの様な温かさに包まれていたはずのモアは、目の前の少年がいることさえ、不思議に思わなくなってしまっていた。
「おい…おい!!大丈夫か!?起きたのか!?」
「…誰でしょう…っ…なんだかすごく温かいです…」
「何寝ぼけたこと言ってんの…?」
「…んー…」
再び目を瞑り、厚い胸板に体を委ねようとしたらモア。
「ん????」
「…」
「厚い…胸板…???」
そう言って、頬擦りをした胸板を叩くと自分が今陥っている状況に驚き慌ててモアは起き上がった。
「殿方ぁあぁあ!殿方だったあ!!ひいいいいいい!!大変申し訳ございません!!!不可抗力というか!私的には優しい陽だまりの様な女性の腕の中で眠っていたつもりが…!!!」
「はは!元気だな?大丈夫か?」
「…え?頭が…ですか?」
「え?あ、いや…まぁ頭打ったならそこは心配するけど…俺がちゃんと受け取れなかったってことだから…」
「受け取れなかった?とは?」
「驚いたよ、この道通ってたら急にあの木から落ちてきたんだからさ」
「え!?」
「俺がいなかったらお前即死だぞー?」
「怪我はー…うん!無さそうだな!」と笑う少年。
「…あ…ありがとう…は!!!」
「うお…な、なんだよ?お前本当に頭打ってないのか?」
心配する少年をよそに、モアは辺りを見渡す。
「どうした?」
「あ、あのね…もう一人女の子がいたの!!!髪の毛が短くて…黒髪でヘタレの…」
「……?お前しか知らねーぞ?」
「え…」
「お前やっぱり頭でも打ったのか?なんかさっきから支離滅裂なことしか言ってねえんだけど?」
「…ごめん…」
「まぁいいけどさ!お前、この村のやつじゃねぇだろ?どっからきたんだ?送ってってやるよ、危ねぇからな!」
「ベルゼウからきたの…」
そう言ったモアの言葉に、人懐っこい笑顔を向ける少年の顔がみるみる険しいものになる。
「…は?」
「ベルゼウ!!!」
「デッケェ声出すなよ!?ベルゼル…??」
「違う違う!ベルゼウ!」
腕を組み、考え込む様な仕草を浮かべる少年。
「しらねぇな…本当にそんな名前なのか?」
「うん…」
「そうか…ごめん…俺も知らない地名だった。」
「その…友達も一緒なの…ベルゼウ王国ってとこ…」
そのモアの言葉に少年は納得したように呟く。
「…じゃあ…お前はやっぱ国のやつじゃねぇのか…」
「え!?どういうこと!?」
「ここは、ホアンクルム王国ってとこだ。」
「そ、そんな…」
ニーナとはぐれ、どことも知らない国に来てしまったモアは、不安から涙を我慢することができなかった。
「…」
その様子を見た少年は驚いた様に目を見開く。
「お、おいおい!!どうした!?何も泣くことなんて…」
「…だって…知らない土地きて…知ってる人も友達も誰もいないし…はぐれた友達も見つからなくて…」
「な…あー…どうしよう…あ!!!おい、あんた…名前!」
「…」
「名前は!」
「…ぐすっ…モアだけど」
「モアか!可愛い名前じゃんか!俺はシン!!もう友達だ!!だから泣くな!!!」
「泣きやめ!!な!」と乱暴にモアの涙を拭うシンの手を慌てて振り払うモア。
「痛い痛い…っ…あ、あのねぇ!?乙女はそんな簡単じゃないのー!!!」
さらに泣いてしまうモアと、その状況に困り果てるシン。
「わー!!!なんだよ!乙女って何だよ!!母ちゃんみてぇなこというなよな…泣くなよ…どうすっかな…あ!!!」
思いついた様に声を上げたシンは、矢庭にかけ出すと土を掘り出しモアを呼ぶ。
「…なに…?」
「見とけよー…?俺急に変な技使える様になったんだけどよ!!」
「…」
シンは掬い上げた土を見つめ、何か力を込めたような表情を浮かべる。
すると手元が緑色の光を放つや否や、ダダの立場だったそれは芽を出し、その芽が蕾に変わり、最後は花を咲かせたのである。
「わぁ…っ…」
植物の工程を一瞬にしてモアに披露した。
「何これ!!!すごいね!?」
「すごいんだよ!?ほんとすごいよな!!!」
披露したシンもこの表情である。
「な!?な!!!!すげーだろ!?」
「すごい!!!どうやったの!?もう一回やって!」
「知らん!それは無理だ!一回しかできない!」
「えー!けちー」
「あはは!ほら、この花あげる。」
「だから元気出せ…な?」
そう言って、咲いたばかりの白い花を簪のようにしてモアの髪にさした。
「ありがとう〜!!」
いつしか満面の笑みを浮かべるモア。
笑みを浮かべたモアを、シンは見つめる。
「…」
「なに?私の顔になんかついてる?」
「いや…お前笑った顔お花みたいだなって思って」
「え?!」
「泣き顔よりもそっちの方がいいよ」
「ありが…ん?ちょっと待って?それは泣き顔が不細工って言いたいと?」
「そんなことは言っていない!!!!!ただちょっと面白いなと思っただけ!!!」
「酷いね!?初対面の女性にそんなこと言うなんて!?」
「お前!?さっき自分のこと乙女って言ったよね!!?」
「乙女も女の子ですが!?」
「女性は大人に言う言葉だろ!?今自分のこと女の子っつったな!!!」
「女は女なんだから一緒でしょうに!!!」
道端でギャーギャーと言い合う男女に、通行人は恐る恐るその場を去っていた。
「んなしょうもないこと言ってる場合じゃないだろ?お前家帰れねぇんだぞ?」
「あ…そうだった…でもベルゼウって本当に知らない?」
「んー…しらねぇな…父ちゃんなら知ってるかもしれねぇから行ってみようぜ?」
「うん…あ。」
「ん?」
「…」
森の中で、ゆっくりと目を凝らす。
するとフードを被った何者かが、此方を見ていた気がした。
「なんだよ?なんかいたの?」
「あの身のこなし…ニーナかも!?」
「ニーナ?ニーナがお前の友達なのか!?」
「ちょっと待て!1人で行くな!!!」とシンはモアに声をかける。
「シン君ありがとう!!モアの友達見つけた!!!」
「は!?お、おい!?そっちは崖だぞ!!!おい!!!!」
モアはフードを被った何者かをニーナだと確信し、その跡を追いかけていく。
足が速いと評判のモアだったが、そのニーナと思わしき人物を見失ってしまう。
「くそう…あの子本気出すと足速いんだった…くそーーー…ニーナ!!出て来なさい!!!!」
そう叫ぶものの、森の中にモアの声が吸い込まれていき、それに応えるかのように小鳥の鳴き声、そして子供の叫び声が聞こえた。
「んー…小鳥の囀り…子供の鳴き声…子供の鳴き声…?子どもの泣き声!?!!!!」
モアは「助けて」という声を頼りに、足をすすめる。
生い茂る草を掻き分け、たどり着いた先にいたのは子供を縄にかけようとする大柄な男。
「こら!!!その子を離しなさい!!!!」
「…あ?」
「お、おばさん!助けて…!!」
「せめてお姉さん!?!まだ成人の儀は迎えていないのよ!!!」
「へぇ…じゃあちょうどいい…お前もまとめて一緒に来い!!!」
そう言って男はモアの腕を掴み上げ、捕まえていた子供諸共引きずっていく。
「痛いな!!!ちょっと!やめて!!離してください!!!!」
「ピーピー喚くな!!大人しくついてこい!!!」
「この子を離しなさい!!!!」
「ちっ…うるせぇがきだな!!!」
「おめぇはいらねぇよ!!!!」
そう言って男は、モアを突き飛ばした。
「あだ!!!」
地面に尻餅をつき、そのまま次の手を考えていると目の前に木で作られた簡易的な弓を見つけた。
「…なんて…都合のいい…これは使えってことでは?」
モアは先ほどの夢を断片的にだが思い出した。
「さっきのは巫女様で…私に託したってことだよね?てことは私は巫女様ってことじゃん…救うという使命があるってことじゃん…!!」
そして、自分にさだめられた宿命を察した。
「…」
徐に立ち上がったモアは、狙いを定めると矢を放とうと弓を引く。
「くらえ!!」
「な!!なに!!!」
「巫女様…!!我に力を…」
そう言ってモアは祈りを込め、弓を思い切り弾いたのだった。
「…」
「…っ…」
それは、まるで弓を以つ勇者のように。




