目を覚ました英傑
剣に呑まれそうになっていくニーナ。
そんなニーナを止めようとリヒト、ルークそして、ある人物がついに動き出す。
ニーナが向けた剣は、アルヴィスの心臓を貫くことはなかったのである。
「…」
「ニーナ…」
「…」
「やめるんだ…ニーナ。」
「…」
ニーナにそう語りかけたのはリヒトだった。
ルークはニーナが掴むグリップごと彼女の手を握る。
「…ニーナ…目を覚まして…君の純粋な思いが悪い形になって剣が反応してしまっている…」
「やめろニーナ。自分を見失うな。お前がしたことは間違えていなかったんだ…だから自分を責めるな…」
リヒトとルークの問いかけに瞳の奥で、葛藤を滲ませるニーナ。
「守らなきゃ…いけないんだ…皆を…」
「…ニーナ…!!!目を覚ませ!!」
「“いっそ世界ごと…変えてしまおうか…“」
ニーナならざる者が、ニーナの心を支配していた。
「ニーナ…っ…」
ルークはニーナを抱きしめた。
ルークの温かさに包まれたニーナはなんとか自我を保とうと、せめぎ合う。
「ニーナ…目を覚まして…お願いだから…」
「…」
「君は救うべき命を救ったんだ…だからもうこれ以上…自分を責めちゃいけない…っ…」
「…でも…っ…でも私は友達の…家族を…っ…」
ニーナの悲痛な叫びを聞きリヒトはきつく瞳を閉じる。
「私は殺し…」
「ニーナだから子供達を救えたんだ…ニーナじゃなかったらきっと…誰も救えないまま、助かるはずだった命も助からなかった…」
「だから闇に呑まれちゃいけない…」
まるで、泣き喚く子供をあやす様に、優しく、ゆっくりとニーナに言葉をかけるルーク。
「…」
ニーナは大粒の涙をこぼした。
黒く怪しく光っていた剣は元の色へと姿を変える。
「…」
ーーすると、ある人物が姿を現したのだ。
その人物の登場に、リヒトは目を見開く。
「お前…」
「…」
「…目が覚めたのか…」
「…えぇ…」
「なんとか戻ってこれました…」
そう言って穏やかに微笑む、その人物。
以前の様な殺伐とした瞳をしていない彼は、ルークに抱きしめられているニーナの元に跪いた。
「…どうか…どうか…今度こそは…貴方の心をお救いしたいのです…」
涙を流すニーナの手を、自分の頬に添える。
「貴方を師として慕い…心服致します…我勇者様…」
「…お…前…っ…」
ニーナはその青年の笑顔を最後に意識を失った。
「…」
リヒトは安堵し、アルヴィスの元へ向かう。
彼は、まるで何かを思い出したかのように頭を抱えていた。
「…」
「…団長、傷の手当てを…」
そう言って差し出したリヒトの手を、アルヴィスは払いのける。
「…要らぬ。」
「…」
「お前達の服従する心には頭が上がらん…ニーナを連れさっさと部屋を出ろ。」
「御意。」
ルークはニーナを抱きかかえ、リヒトともう1人の青年と共に部屋を後にしたのだった。
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目を覚ますと、暗い場所に佇んでいることに気づいたニーナ。
「あれ…ルーク…?リヒト…?」
そこにはルークやリヒトはおらず、ニーナは慌ててその場から去ろうと歩き出す。
「…ここは…」
その場所は、モアを助けた際吸い込まれたあの場所に似ていた。
「…」
以前と違うのは巨大な蜘蛛の姿はなく、たくさんの死体が転がっていることである。
握られている、眩い光を放ったその剣で奪った命達。
その中にはモアの母ルェンの姿も。
「…っ…」
『勇者よ…剣の勇者…ニーナよ』
「…誰…」
周囲には自分と話せるような姿をした者はいなかった。
ふと、己の握る剣をニーナは見つめた。
「剣…お前…なのか…私に話しかけてるのはお前か…?」
「そんなわけないか…」と瞳を閉じるニーナ。
「守れる力が欲しいか」と言う頭の奥で響く言葉に力無く頷く。
「欲しい…誰も傷つけたくない…失わせたくない…っ…誰も失いたくない…っ…」
ーー『救いたいか』
「救いたい…」
ーー『失いたくないか』
「だからそう言ってるって…!!!!!強くならなきゃ…もっと強く、ならなきゃ…団長の言った通り私は誰も救えない…っ…」
『お前の思いが剣に乗る、そしてそれは力になるのだ。ニーナ。』
「え…?」
『お前が強く願えば、思えば…力になる…』
「全てを守る為に、世界ごと闇を消し去ることができる。」と響き渡る声。
「違う…それは救ったことにはならない…でも…そうすれば…誰も傷つかないことは確かだ…」
「苦しむのは…傷つくのは私だけでいいから…っ…目の前の命を救える力が欲しい…っ…」と、膝から崩れ落ち涙を流すニーナ。
『これを受け取るが良い。』と言う声が響き渡り、顔を上げると目の前に血に塗れた短剣が姿を表したのである。
「…要らない…もう剣は…いらない」
「…」
朧げな景色を見つめていたニーナ。
そんな彼女の前に現れたのは以前見たことのある人物だった。
「…」
その人物は俯いていて、どこか酷く傷ついているように見える。
「どうして…人は同じ過ちを繰り返すのだ…っ…」
その人物の横には自分と同じ剣が置かれていたため、ニーナは目を見張った。
「…誰…?ねぇ、前も会ったよね…?確か…私が変な蜘蛛みたいなやつに吸い込まれてすぐに…その時は貴方の言葉が読み取れなかったんだよ…」
「…」
「貴方は誰?」
「…」
「…ただ…静かに暮らしていたかった…」と言う消え入りそうな声が確かに聞こえた。
「…え?」
『命を奪い合うことのない、戦のない世の中で…大切な人たちと生きていたかった…』
「…え…?」
『愛する者に…ただ愛していると…ただ愛して欲しいと言いたかった…』
「剣の勇者を知る全ての者に…自分を認めて欲しかった…」その声はどんどん小さくなっていく。
憔悴しきっているその人物に、ゆっくり近づいていくニーナ。
ーーすると
「ニーナ!!!!」
「…え?」
「そっちへ行ってはダメ!!!お願い!!!戻ってきて!!!」
「え?なにが…?」
モアに似た声が聞こえ、振り返ると同時に彼女は清い光に胸を射抜かれた気がした。
「…なんだこれ…」
その光はとても温かく、何かを思い出すかのような感覚に襲われる。
「温かい…涙が出てくるくらいに…温かい…」
ニーナは白い光に包まれながら、静かにその濡れた瞳を閉じたのだった。




