命の選抜
戦いの中で、ニーナは選択を強いられる。
弦音がこだました。
「チッ…」
トワの手には狩猟用の弓矢が握られていて、彼はその矢をユアンへ向かって放ったのである。
「…っ…ちっ…」
矢は、ユアンの肩へ突き刺さっていた。
「…」
「…あぁ…うぜぇ…っ」
そう言ってユアンは自身の肩に突き刺さった矢を抜きとり自身の足元へ落とすと、それを踏み潰した。
「まだいたのかよ…ったく…ガキが多いことで…」
ユアンは苛立ったように首を鳴らすと、トワの方へ向かって歩き出した。
「…っ…」
「あ…?」
ユアンの行手にニーナが立ちはだかった。
「…」
「ニ、ニーナちゃん……っ」
「…クク…ククク…おいおい…勇者さんよぉ…?」
「そんなことしていいと思ってんのかぁ……?」
ニーナのその行動にユアンは嘲笑う。
「…」
「あの女の傷が増えるだけだぜ…」
彼がそう告げた瞬間。
「…っ…」
ルェンの叫び声が響いた。
「か、母ちゃん!!!!」と、トワはすぐにルェンの元へ駆け寄る。
「…おばさ…」
「よそ見すんなよ!!!!」
ユアンは再びニーナへ攻撃を向ける。
「…っ…」
彼の攻撃を、ニーナは剣で受け止めた。
「ククク…そのまま…動くなよ…?」
「…くっ…」
「さっきも言っただろぉ…お前が動いたらぁ…あの女の傷が増えちまうってなぁ…?」
そう言ってユアンは笑った。
「もっとも…お前が動かなければ…残りのガキどもが死んじまうがなぁ…」
「はっ…」
「トワ!!!」と、ニーナが叫ぶ。
「おばさんから離れろ!!!」
「え…?」
「……」
その瞬間、ルェンの身体が動いた。
手に握られた短剣がトワへと向けられる。
「ダメだ…ダメだおばさん!!!!」
「……」
「その子は……」
「あなたの大切な子供だよ!!!!」
ニーナの声に反応するように。
ルェンの身体が震えた。
彼女は操られる体をなんとか止めようとしていたのである。
「…おばさん!!!!もうこれ以上!!!こんな男に操られちゃダメだ!!!せめてトワだけは…っ…絶対に手をかけるな!!!!おばさん!!!!!」
ルェンの瞳から涙が溢れる。
「ニーナ…ちゃん…っ…私はいいから……!!!」
「…っ…」
「お願い…っ…子供達を救って……!!!」
「…」
倒れている子供達の手が、まだ微かに動いていたことにニーナは気づき、彼女は拳を握る。
「…」
そしてニーナは、おもむろに立ち上がると倒れている子供達の元へ向かう。
「…」
「させるかよ…!!!」
ユアンが攻撃を仕掛ける。
「…」
しかし、ニーナはそれを弾き返した。
「…っと…危ねぇ」
「…どけろ…っ…」
剣を構えるニーナ。
「…ふっ…おいおい…そいつぁなんの真似だ…?」
ニーナのその姿を見てユアンは笑いながら、問いただす。
「まぁいい…そんなことよりよぉ…?勇者様ともあろう者が…命を天秤にかけていいのかよ…?」
「…卑怯者が!!!!」
「ほらよ」
ユアンがいとも簡単にルェンの身体を操った。
「…っ…やめて…お願い…っ!!!!」
ルェンの意思とは裏腹に、彼女はトワへ短剣を振りかざす。
「…っ…」
トワはなんとか必死に避けていた。
ニーナはトワの元へと行こうとするが、ユアンに攻撃を向けられそちらへ行くことができない。
「…っ…だめだ!!おばさん!!!トワを殺しちゃダメだ!!!!」
「…っ…」
ニーナの声に、ルェンなんとか自我を保とうとするものの操られてしまった体はいうことを効かなくなってしまっていた。
「か、母ちゃん…っ」
「…おばさん!!!!!その短剣を捨てて!!!!」
「ニーナちゃん…お願…」
「…」
「私を…殺して…っ…」というルェンの言葉に、目を見張るニーナ。
「…っ…」
「嫌だ…っ…母ちゃん!!!」
その言葉を聞いたユアンはひどく楽しそうに笑ったのである。
「そうだ…そうだよ…そうやって苦しめぇ…ククク…っ…」
ユアンは指先を動かし、ルェンを操る。
「…」
光を失ったルェンの瞳を見つめ、トワの声が震えた。
「母…ちゃ…っ…」
「…」
「…っ…」
そして、部屋に響いた剣が振り下ろされる音。
凍りついたニーナの表情。
「…」
「…」
静寂の中聞こえたのは「ニーナ」と叫ぶこえなのだった。




