着実な成長と捨てた潜在能力
ニーナは一つ一つ思い出しながら、これまでの出来事を振り返り、モアに伝えた。
「結局…私によくしてくれた人たちには…挨拶も何もできなかったけどね。」
「辛かったね…ニーナ…」
モアは涙を流し、ニーナの手を握った。
「…もう家に帰りたい…静かに暮らしてたい…」
「…」
痩せこけ、ニーナが憔悴しきっている理由がわかったモアは彼女の肩を優しく叩いた。
「うん…そうだよね…それでいいよ、ニーナ…」
「…」
「剣の勇者が君なのはわかった。私は旅を続けるよ、君のためにも頑張るから!!」
「…」
「君は強いね、やっぱり」とニーナは笑った。
「まぁね」
「そういや…炎の英傑には会えてないの?」
「うん…」
「あのね、ルノーピア帝國の皇帝が言ってたんだけど」
「ん?ん?ん?何何…何語?」
「ん?」
すると痺れを切らした三人が横にやってきた。
「流石にちょっと、こっち来ていいか?」
「え?あ、ごめんごめん!!!」
「…」
ニーナはモアとシンの2人を見つめ、何かを感じたのである。
「ねぇ、ニーナ」
「はい?なんでしょうフィル」
「どうしてあんたの光は見えないの?」
「…」
「…あー…どうしてだろう…辞めたからじゃない?」
バルドはその言葉に反論する。
「お前の意志で辞めれるものなのか?それがお前の生まれた意味だとしたら…辞めれるに辞めれないだろ」
「…まぁ、確かにそれはそう…」
「あんた私に言ってくれたじゃん、自分のやりたいことやって他人を救えるんだったらそれで良いって」
「そうね」
「あんたも宿命なんだったらそのうちやりたくなるわよ」
「…勇者としてはちょっと…怖がりがすぎるけどな、私は」
「…ニーナ…」
「ん?」
「何か…苦しいとか、辛いとか…ないの?」
「…」
「無いよ」と、ニーナは笑った。
しかしモアは気づいていたのだ、彼女から発せられる何か嫌な気配を。
「…ニ…」
「…そういや、話戻すけど君らにも教えとくか、炎の英傑の居場所をルノーピア帝國の皇帝に教えてもらったよ」
「は!?お前あんな寒いとこにいたのか!」
「マジで凍るかと思った。」
「その真っ黒な服着てても寒いんだな…俺らやばくね…?」
「今聞くところはそこじゃねぇよ。」とバルドにお叱りを受けるシン。
「ニーナ、炎の英傑はどこにいるの?」
「ルノーピア帝国の南の島って言ってたよ。」
「バルド、地図!!」
「指図すんなクソ女。」
バルドは地図を広げる。
ニーナはその地図を指差し、場所を示す。
「ここ…だね、おそらくここ」
「へぇ…ここにいるの?」
「そうみたい、あのおじさん、顔怖いけど良い人だからほんとだと思う。」
「そうか!!じゃあみんな行ってみようぜ!」
「そうね!!」
「あぁ。」
「…」
モアはその言葉に頷くことはなかった。
「モア…?どうした?」
「あぁ…あの…私、一回…故郷に帰っても良い?」
「…」
「ニーナとも再会できたし…流石に一回は帰らないとお母さん達心配してると思うから」
「おお、おおおお!そうだよな!?元々旅の目的はそれだったんだよな!?忘れるところだったわ!!!!」
「…」
「ニーナ」
「…んー?」
「私は、勇者として進むから。」
「うん」
「そして、本来の旅の目的であるニーナを探し出すっていう目標は達成したけど、私たちの冒険はこれからも続きますよ!!」
「「うおおおおお!!!」」
「結束力がすごいな君達。」
「んじゃあ一旦…オメェらの故郷まで行くぞ。」
「「うおおおおおお!!!」」
モア達は士気を高めるために声をあげ、再び歩き出した。
「…」
「なぁ、ニーナ!」
「はい」
「お前は今までルノーピアに居たんだろ?英傑に会わなかったのか?」
「私が居たのはルメイナだけど……英傑…雷が居た」
「雷!!!雷の英傑か!!!」
「癒しき龍に跨り、雷の矢を持っての雷だ!!」
「あとは…空」
「大地を流れし水、天に昇りし風、の天か!!」
「なんでその歌知ってんの?」とニーナは怪訝そうな表情を浮かべる。
「その歌…他の国の人間に知られちゃいけないのに」
「私が教えたの!!!!」
「は!?あんた自分が私に…」
「あのね!英傑の力というか、その歌が彼らの力と関係があることに気づいたの!!!!」
「…あ、そう、なんだ…その歌詞に乗せられてるのか…じゃあ…あいつはなんだ…」
「あいつって?」
「…明らかに英傑とは思えないやつがいたけど…」
「は!?」
「そんな奴がいるのか…?」
ニーナはユアンを思い出した。
しかし同時に、レイナの「あの子はちょっと特殊で」という言葉が引っかかる。
「…特殊…もしかしたらあいつの力はまた別の力なのかもしれない。だからまだそいつを入れるのは待って」
「うん、わかった」
「…女子供を嬲り殺すのが悦びって言ってたから、会う時は気をつけて、金色の髪で狂った表情浮かべてるやつがいたら特に」
「は!?!?なんだその胸糞悪い男は!?」
「ただムカつくくらい顔が綺麗な野郎」と、ニーナは告げた。
「ニーナは大丈夫だったの!?」
「…殺されかけましたよ…もう…恐ろしかったわ…」
「こいつはこんなに平和に物語が進んでるのに、お前はどん底にいたんだな。」
バルドの言葉を聞いたモアは、自分のせいで苦しむ羽目になってしまったニーナに引け目を感じてしまう。
「ちょっとバルド…!!!」
「…あ、悪い。」
「モアが無事だったんだから、それでいいんだよ」
そう言ってニーナは笑うと再び歩き出した。
その時、シンが口を開く。
「…きっと」
「ん?」
「…お前達が逆の立場でも、お互いに同じこと思うんだろうな?」
「はは、そうかもね。だから引け目に感じなくていいよ。」
「ニーナ…」
「それでも引け目に感じるなら、まぁ…なんだろう、強いていうなら鈍臭いところは直せよ。」
「それは勿論そうしたい!!!」
「…因みに貴方は…なんの勇者なんだっけ。」
「弓です!!!ゆーーみ!!!」
「えぇ…大丈夫…?君ほんっとに下手くそだったよね…」
「「…」」
英傑達の気まずそうな表情に、凡その事情は察したニーナ。
しかし、その腕や指先には無数の傷や痣がついており人知れずモアが鍛錬をしていることに気づく。
「弓は?」
「あ…バルド君が作ってくれた弓がある!!」
「構えてみ」
「はい!!!」
そう言ってモアは力一杯腕を広げたが、「違う」とニーナに腕を叩かれる。
「痛い!?な、何!?何が違うの!?」
「腕で広げようとしない!!この辺!!この肩とか背中の辺りを使うんです!!!」
「は、はぁ!!なるほど!?」
「基本姿勢は一定!!綺麗に立つ!!的を狙う時は片目じゃなく両目!!!」
「はい!!!」
「じゃああの飛んでる鳥に向かって打て!!」
「えぇ!?そ、そんな…」
「命は大事だ!!けど!明日生きるための飯も私らにとっては大事だ!!尊い命をいただき!今日も私達は元気に生きる!!!」
「おおお!!!!」
「アレが食物連鎖の頂点に立つ人間の姿か。」とバルドは呟くと、シンとフィルは深く頷いた。
「世の中は弱肉強食…打て!!!!!」
「…っ…」
放った矢は、まっすぐ鳥にめがけて飛んでいく。
「行ったか…!?」
「…」
まだモアには動く的を射抜くことはできず、外してしまう。
「諦めるな!!!もう一回!!!」
「…っ…」
間髪入れずに打った矢は見事に命中する。
「やった…やったぞ!!!!!モア!!!」
「すげぇ…あんなにできなかったのに…」
「実践あるのみ…って感じね…」
シンは嬉しさのあまり、モアを抱き上げ身体を回転させた。
「わわっ!?シ、シンちゃん!!!」
「すげぇじゃん!!さすがだよモア!!できる様になったじゃんか!!」
「…っ…」
自分よりも嬉しそうにするシンの笑顔を見つめたモアは、つられて笑みを浮かべた。
「私より嬉しそう…」
「あはは!モアができる様になって嬉しいんだよ!」
「ありがとうシンちゃん…!」
そんな2人を見つめ、ニーナは満足そうに笑った。
ビギナーズラックだったのか、その後は中々命中することはできなかったが、それでも、コツを覚えてからはメキメキ上達する自分に自信が漲っていくモア。
5人は火を囲みモアが取った食料を使って腹を満たす。
「なんだかいつもよりご飯も美味しいですなぁ!」
「弓矢ができる様になって調子づいてきたんじゃねぇのかぁ?」
「それはあるかも!!!!美味しい!!」
「…」
4人の声を聞きながら、ニーナは揺れる炎を見つめていた。
「…」
「ニーナ?食べないの?」
「あぁ…いいよ、私の分も食べて」
「でも…」
「焦げちゃうから。」
「そっか…」
「じゃあ遠慮なくいただくね」と、ニーナの分も腹を満たすモア。
「…っ…」
外套の中で、鼓動がするたびに痛みが走る胸元を抑えるニーナ。
「ニーナ…どうした?」
「…っ…いや…」
「酷い汗だ…どこか痛むんじゃねぇか。」
「…気にしないで…大丈夫…っ…動きすぎて身体が悲鳴を上げてるだけ…」
バルドはニーナを見つめ「そうか…」と呟いた。
「本当に…?」
「ん?」
「本当にそうなの、ニーナ…」
「…うん…あ、ていうかモア覚えてる?」
「ん?」
「私らの国の、誰も登らなくなった丘に誰かが祀られてて…そこはなんでも浄化してくれるって言い伝えあった所」
「…あー…でもあそこは誰も入っちゃいけないって王様が言ってたよね?」
「…そこに行って、この剣を浄化してもらいたいんだよ…」
地面に置かれた自身の剣を見つめるニーナ。
「え?この剣?」
そう言って、剣に触れようとモアは手を伸ばすが、ニーナにその手を掴まれてしまう。
「…」
「…ニー…ナ…?」
「…」
ニーナはモアの手を離すと、剣を背負い立ち上がった。
「やっぱ君はこのまま旅を続けた方がいい。」
「え?どうして!?」
「おじさん達には伝えておくから、私はもういくね。」
「何でよ!?ちょっと待って!?」
「…」
足早にその場を去ろうとするニーナの腕を掴むモア。
「私だって家帰りたいよ!?」
「旅続けろよ!?」
「そしたら貴方もきなさいよ!?!?」
「やだよ!!!行きたくない!!!!」
「ヘタレか!!!」
「3人にヘタレで紹介してんだろ!?英傑達に!!!!ヘタレなんだよ私は!!」
「開き直んないでよ!?」
シンは慌てて2人の間に割って入った。
「ちょちょ!?お前ら!!!!喧嘩すんなって!!」
「久々の再会なんでしょ?落ち着きなよ二人とも」
「…」
「何かこの剣にあるのか、ニーナ」とバルドは告げた。
「…何も無い…」
「そうか。」
「…」
「オメェと同じ…帰りたいっていう思いを抱えているモアに全責任をなすりつけるのはちがうだろ。」
「…そう、だね…ごめん。」
「ううん…」とモアは首を横に張った。
「とりあえず私も家帰りますから、一緒に行こう」
「…わかった。」
大地の英傑、水の英傑、風の英傑、弓の勇者に加え、剣の勇者も加わった一行は、始まりの国ベルゼウ王国に向け足を進めたのだった。
これから起こる壮絶な試練が、彼女たちに襲い掛かるとも知らずに。
モア達の故郷ベルゼウには誰も近づかない丘があるという。




