目覚め始めたニーナの力
ヴァルドはゆっくりと瞳を閉じ、再び開けると先ほどまでの穏やかさは失われ、鋭いものに変わった。
「…ニーナ殿。」
「誰かが、自分かヴァルドを狙っている。」
そう思ったニーナはヴァルドの近くまで行き、彼を庇うように目を凝らした。
「誰か…っ…だ、誰か…ジュノさん!!!」
「ニーナ殿…落ち着いて。」
「誰か陛下を守って!!!私の力じゃ…まだ…っ…」
「…」
ゆっくりと玉座の間に入ってくる男達。
ニーナの瞳に最初に映った人物はやはりアルヴィスだったのである。
「勇者様、お迎えにあがりました。」
「国へ帰りましょう。」と、アルヴィスはニーナに告げる。
「…突然陛下の部屋に入っちゃダメなんじゃないの…大陸の王様と国民の決まりなんじゃないの…?」
「…」
「恐らくは勇者様を一人この間に呼び、ここで二人きりになったところで…その腰についている銃であなたを撃つつもりだったのでしょう。」
「…え…?」
「…」
「この人は…何もしてないよ!?何もしてないのに…それなのに命を奪おうとするのは間違えてるよ!!」
「貴方の命が狙われた…それだけで十分に制裁を加える理由になる…」
「こちらへ戻れ…ニーナ…」とアルヴィスに言われるニーナ。
しかし彼女はその言葉を聞き入れることはなかった。
「この人はいい人だよ!たとえ私の命を狙ってたとしても!私はまだ死んでない!!!」
「…」
「ニーナをこちらに連れて来い」というアルヴィスの言葉で兵士は動き出す。
「なっ…ちょっ…触んないでって!!!何!?陛下!!!早く逃げて!!!」
「…」
ヴァルドはアルヴィスを鋭い瞳で見つめていた。
「…些か無礼が過ぎるのではないか…ルメイナの兵団長よ…」
「…無礼なのはそちらの方では無いか。まぁいい…貴様には死んでもらう。皇帝陛下…」
アルヴィスはレイピアを抜き、ヴァルドへと向ける。
その様子を見たヴァルドは何を思ったのか笑い始めたのである。
「…何がおかしい…」
「ふ…私は知っているぞ。お前の全てを…」
「…なんのことだ。」
「シラを切るつもりか…そうか。」
「…」
「死ねぇ…!!!!」と、玉座から突然現れたユアンはヴァルドに向け双剣を振りかざした。
「やめろ!!!!!!!!!!!」
「…っ…」
ニーナの声に、ユアンは体の動きを止めたのである。
「…っ…ちっ…何…だ…。」
「…ニーナ殿に感謝をするんだな…」
「愚かな兵士よ。」と告げるや否や、ヴァルドはユアンの肩を銃で撃った。
「ぐぁっ…っ…!!!」
すると、騒ぎを聞きつけたであろうジュノ達ルノーピアの家臣たちが、一切に玉座の間に集まってきたのである。
「陛下…!!!!」
「案ずるな。余は無事だ。」
「…っ…」
ジュノは体を抑えられているニーナを見つめ目を見張る。
「ニーナ様…」
「…っ…」
「…貴様ら何をしている!!!」
「お前達は寄らずとも良い。」
そう言ってヴァルドは銃に触れながらそう告げた。
「…しかし…」
「さて。一つ教えといてやろう。」
ヴァルドはユアンの額に銃を押し付ける。
「チッ…」
「…」
「貴様の殺気に気づかないとでも思ったのか。」
「…へへ…っ…いいねぇ…だが、ジジイが調子付いてんじゃねぇよ!!!!」
「…」
ユアンはヴァルドの銃を蹴り飛ばし、再び双剣を振りかざす。
「陛下!!!!!」
「…っ…」
ジュノの声が響き渡る中で、剣戟がこだました。
「…」
「…」
ヴァルドが剣を抜くより先に、ユアンの攻撃を止めたのはニーナだったのである。
「…はっ…仲間よりも…優しくしてくれたおっさんがいいってわけかぃ…」
「…」
「なんとか言えよ…テメェのせいで怪我したお前の大事な仲…」
「…」
ニーナは何も言わずに、ユアンの双剣に触れた。
「なっ…っ…」
日録に書いてあったヒューストと双剣のこと。
確証はなかったが、ニーナはユアンの双剣に触れたのである。
「うっ…頭が…ぐっ…ぁ…!!!!」
「…その双剣には…先人の想いが込められている…」
すると、穢れに満ちていた双剣が光を取り戻し、ユアンは苦痛に顔を歪めた。
「あぁ…っ…あ…ああああ!!!!!!」
「使い方を間違えてる…ユアン…」
「うぅ…っ…ぅ…」
「…」
ユアンが持っていた双剣に宿る禍々しい赤黒い殺気の中に、一片の光が差し込んでいた。
ーーその時、ニーナは気づいたのである。
ユアンの持つその双剣が日録に書いてあった「ヒュースト」の愛剣であるということに。
「そうか…やはり貴方に見せてよかったようだ…」
「え…?」
ヴァルドはニーナを見つめ微笑む。
「ニーナ殿…最初に会った時…貴方には迷いがあるように見えた…」
「…っ…」
「だが、私を守ってくださろうとした貴方の瞳には…一切の迷いも見えなかった…」
「…」
「その心に…思いに、貴方の持つ剣や彼の双剣が応えたのでしょう…貴方には貴方にしかできないことがある…今は苦しくとも、きっと貴方を導く者が現れる…」
「…」
「それまで…どうかそのお優しい心を…貴方自身がお守りください。」
ヴァルドの温かな言葉に、ニーナは涙が溢れそうになった。
「私の勇者様に…あらぬ戯言を吹き込まないでいただきたい。」とアルヴィスは告げた。
ニーナはアルヴィスに腕を強く引き寄せられる。
「…っ…」
「ふっ…私の勇者様…か。」
「…」
「なんと愚かな…」というヴァルドを鋭い瞳で見つめるアルヴィス。
「…」
「その者達を捕らえよ!」というジュノの声が響き渡った。
「成らぬ。」
「陛下…!!!何を仰って…」
「…」
ヴァルドはニーナを見つめた。
「…ニーナ殿の顔を立てて、貴様らの愚行はなかったことにする。」
「…」
「陛下!!」
「黙れ。どうやら死人は出ていないようだ…外のものは皆恐らく気絶しているのだろう。よく考えたな。最悪の事態を想定したか?」
「うつけが。」と、ヴァルドはアルヴィスを嘲笑うかのような表情で見つめた。
「…」
「陛下よろしいのですか…貴方殺されかけてたんですよ…」
ジュノはヴァルドに耳打ちをした。
「良い…私が決めたことだ。」
「そうですか…貴方がそういうのなら…」
「誰も、私を指図することは…死に値する。いいか。」
「「はっ。」」
「さて…勇者殿…」
「…」
「そんな悲しそうな顔をするな。簡単にやられるようなオヤジではない。貴方には命を救われた。感謝しよう。」
「またいつでも遊びにおいで、ニーナ殿よ。」
そう言って自身の頭を撫でるヴァルドに、ニーナは父を感じたのであった。
ユアンの持つ双剣は太古の英傑ヒューストのものであることが決定付けられた。




