登場!ヴァルド・グラディウス・ルノーピア
【登場人物】
ヴァルド・グラディウス・ルノーピア
ルノーピアの皇帝、威厳のある見た目とは対照的に可愛いもの集めに没頭している。
ジュノ
ヴァルドの忠臣。いつもやる気がなくデリカシーがないが、顔がいい上仕事ができる。
「…」
ニーナは、城内に並んでいる絵画や骨董品、歴史的書物などが並ぶそれらを見つめていた。
「はぇー…大陸に住む人の道楽はよくわからないな…」
「ジュノ様」
「勇者様をお連れしました。」と言った屈強な兵士を不思議そうに見つめるニーナ。
「…そうですか。他の連中は。」
「奴らは城外に…」
「承知しました。下がってください。」
「はっ。」
屈強な兵士はジュノと呼ばれる人物とニーナに頭を下げる。
「あ、ここまで…ありがとうございました!」
「…」
兵士は彼女の言葉に笑みを浮かべ、先ほどよりも深々と頭を下げてその場を後にする。
「…」
「…」
あたりは静寂に包まれ、ジュノの視線を感じたニーナは気まずさのあまり口を開こうとする。
「いやぁ…しかし…本当にいらっしゃったのですね…」
「え????」
「ほぉ…なるほど、貴方様が…剣の勇者様ですか…」
「い、いやあの?」
「ごほん、失礼。私の名はジュノと申します。お名前は?」
「…ニーナです…」
「ニーナ様、可愛らしいお名前ですね。」
「え!?あ、あぁどーも…あはは…」
「お連れの方は?」
「あぁ…外で…」
「…」
「ああ、そういう意味ではなく。」とジュノは言う。
「…あ…英傑…ですか?」
「左様でございます。」
「…姿が…見えなくて…皇帝様が会いたいのは私だけだと…外にいる団長に言われたので…」
「なるほど…つまり貴方は、あの鉄仮面のような男に脅されてきたと言うわけですね。」
「え!?いやいや…っ…あの…決して脅されたわけでは、ないのですが…」
「お辛かったでしょう、心痛お察しします。」
「いや…聞いてる??人の話…」
「申し訳ありませんがあまり聞いていません。生産性が無さそうなので。」
「あぁ…そうですか…じゃあ黙ります…」
「陛下が貴方様に会いたくて死にそうなので、あの歴史バカ…ゴホンゴホン。生き字引の陛下に会ってあげてくださいませ。」
「…」
「今完全に歴史バカって言ったじゃんこの人…」と呟きながら、ニーナはジュノの後ろをついていく。
見渡す限り石碑や、和が描かれている壁紙が施されていて、ルメイナ帝国の王宮よりも遥かに温かみのある宮殿。
「…へぇ…すごい…」
「そういえば…ニーナ様。」
「はい!!!」
「我が陛下は見かけによらず御伽噺がお好きな、可愛らしいお方なのです。」
「見かけによらず?」
「ええ、戦闘狂だの狂人だのなんだのと謳われているようですが、実はそんな事はなくて、我々にもお優しい方なんですよ。」
「見かけによらず」と何度もその言葉を発する。
「へぇ…なんだ…そうなんだ…たしかになんか城にも…国民にもそれが出てる気がする」
「貴方様はやはり勇者様の風格がありますね」
「え!?そんなことないですよ!?」
「いえいえ、陛下の仰る通り…剣の勇者様は聡明なお方なのですね」
「…どこか!?どの辺が…???」
「真面目な顔してテキトーなこと言ってんじゃないよ」とジュノにツッコミを入れるニーナ。
「ご謙遜なさらず、陛下がお待ちです。あ、一つ大事なことをニーナ様にお話しいたします。」
「はい?」
「陛下は本当に、見かけによらずとてもお茶目で可愛らしいお人です。」
「それ…聞きました…」
「しかし、その見た目から恐怖に腰を抜かす方もいらっしゃいますのでお気をつけ下さい。」
「え?」
「さぁ、勇者様、お入り下さい。」
「…」
ニーナは恐る恐る、玉座の間に足を踏み入れた。
「…はっ…」
遠くからでも伝わる圧倒的オーラと重厚感。
1人しかいないにも関わらず、何とも感じたことのないほどの張り詰めた空気が漂っていた。
「…っ…」
「そんなに怯えなくても良い。」という低く響く声が聞こえ、思わず背筋が伸びるニーナ。
「…」
「此方へおいでなさって下さい、勇者殿。」
「…は、はい…」
長い通路を、若干小走りで進み、皇帝の前へ立つ。
「…」
「見かけによらず」とジュノが何度も言っていた理由が、なんとなくわかった気がしたニーナ。
「…お初にお目にかかる、勇者殿」
「我が名はヴァルド・グラディウス・ルノーピアだ。」と目元を細め微笑む人物が、ルノーピア帝国皇帝。
ニーナはルメイナで起こった大失敗を教訓に、頭をぎこちなく下げる。
「あ…えっと…はじめ、まして…皇帝陛下…」
「はっはっは…そんな硬くならなくても良い。」
「えぇ…そう…ですか?なんか見た目がものすごく怖いので、何か間違えたら殺されるのかと…」
恐怖のあまりいらない言葉まで発してしまうニーナ。
「…はっっ!!!!す、すみません!悪気は!!!」
慌てて頭を下げるニーナ。
「…」
するとヴァルドは肩を震わせ大笑いをしていた。
「…面白いお方だ、どうかお座り下さい。」
「は、はぁ…?」
「じゃあ遠慮なく…」
用意された高価そうな椅子に座り、少し見渡すと、神聖な絵画が天井、壁に所狭しに描かれていた。
「えっと…陛下の趣味?」
「おお、わかりますか?可愛いでしょう?」
「世界中のものを集めてきたんですよ」とヴァルドはどこか嬉しそうに言った。
「すごい可愛いです、全部初めて見ました。」
「後でジュノを連れ見て回って下さい。」
「え?いいの!?」
「勿論」
「えー!!すごー!!ありがとうございます!」
ニーナはキラキラとした笑みを浮かべ、楽しそうに辺りを見渡す。
ヴァルドはそんな彼女の様子を見つめ悲しげに微笑んだ。
「神はこのような少女に…どれほど大きなものを背負わせたのだろうか」と小さく呟く。
「…して…勇者殿」
「あ。は、はい!!」
「余は御伽噺が大好きでな、それは先代から受け継がれし血筋なのだが、そのお陰かこの宮殿には各地の古の書物が保管されている…」
「へぇ、そうなんですね」
「そこにはその剣の場所を示す書物や、勇者様の伝記、日録なども保管されているのですよ。」
「…へぇ…」
「どうやら…剣の示す場所は…私では見つけられなかったようですが。」
そう言って、ニーナが背負っている剣を見つめるヴァルド。
「じゃあ陛下はこの剣が欲しかったの?」
「そんなそんな…滅相もございません」
「え?」
「欲しいと言うわけではなく、いつか古の勇者様と同じ魂を宿した方のために…即ち貴方様のために、保管しておこうと思っていたのです。」
「闇を統べる者が目を覚ますその前に…」とヴァルドは告げた。
「…そうだったんだ…」
「因みにその剣は…何処で?」
「あ、いえ…私はわかりません…」
「ほう?」
「これを見つけたのはおそらく外にいる団長です…それにこの剣は元々は木の棒だったらしいので…多分文献があったとしてもわかんなかったと思います…」
「なるほど…木の棒…ですか…それは確かにわからなかったかもしれませんな…」
「そんな中で、団長がどうやって見つけたのかとかはわからないです、すみません…」
「いえいえ、構いません。ただ…やっと謎が解けました。」
「え?」
「実は剣の在処を示した文献がございまして、それを見てその地へ足を運んだのですが…その時落ちていた…いや置かれていたその木の棒が…まさか剣だったとは…」
「流石は勇者様を守っていた英傑様の文献なだけある…」と、古びた文献を幾つかめくり、感心するように見入っていた。
「…」
「…っは!!!失礼。」
「いえいえ!気が済むまで見て下さい!!」
「いやいや!その話には続きがありまして」
「へ?」
「私は最初、剣は刺さっているものかと思っていまして…しかしなかったものですから、もしかしたら剣は土に眠っているかと考え、私は掘ればいいと考えたのです。」
「はぁー!なるほど!!名推理!!流石皇帝様!!」
「いやいや!それほどでも!!実際のところは掘っても剣が出て来ることはありませんでしたが…代わりにこれが…」
そう言ってヴァルドが出したのは、土で汚れてしまってはいるが何かの書物のように見えるもの。
「それは?」
「勇者様の日録です。」
「日録…ですか?」
「えぇ、これには…剣の勇者様の想いが綴られております。」
「どうか、その穢れなき魂を受け継がれし貴方がこの書物をお読みください。」
見た目に反して腰が低い皇帝に、ニーナも思わず頭を下げてしまう。
「い、いやいや…陛下…!!頭をあげて下さい…私はただの勇者ですから…じゃあ…見ますね…」
「どうぞ、お読み下さい」
「…」
「…」
「「…」」
「あのぉ…?」
「はい。」
「本当に申し訳ないんですけど…読めない…です…」
ニーナは言いにくそうにしながら、ヴァルドにそう告げた。
「…あ、そうでした。これは古代の文字ですからね、では私が解読した時に文字に起こした書物を見ていただけますか?」
「あ…そっちでお願いします…!!」
ヴァルドはニーナに微笑むと、解読書を渡す。
「…」
見比べながら、勇者の日録に目を通した。
''今日も空は晴れている。仲間たちと共にこの空を眺めるのが好きだ。"
"日録を書く事を皆に勧めてみた、嫌がるかと思ったが意外と楽しんでくれているようで安心した。"
"皆が楽しそうに笑っている、それだけで私はとても嬉しい"
"私は女を捨て、男として、仲間達と共に戦うことを決めた。だが、この日録の上でだけ一人称を私としたい"
「…」
剣の勇者は、毎日欠かさず日々の少しの変化や幸せを書物に認めていたようだ。
時に出てくる、英傑たちの名前を謳いながら楽しそうに日録に文字を認めて行っているように見える。
"女をやめたと口では謳いながら、結局心は女のままだ"
"こんなことでは、誰も剣の勇者として認めてはくれないかもしれないというのに"
「…彼は…いえ…彼女はとても繊細なお人だったようですね」
「…そうですね…」
ニーナは日録を読み進めていく。
"命を天秤にかけるわけにはいかない、皆平等で居なければならない。私がやっている事は本当に正しい事なのだろうか。"
"私は自分のやっていることが正しいとは思えない。それでも、生の秩序を守るためには私の力が必要なのだ。けれど頭ではわかっていても"
「…」
剣の勇者としての葛藤が書かれていた。
時折殴り書きのようにもなっているように見え、ヴァルドもこの文字の解読はできなかったのだろうと察する。
"私は心が弱い、自分がこの剣を以つに相応しい人間なのかがわからなくなってしまった。"
"いつも支えてくれる仲間たち、彼らが居なければ私は、ただ剣を振るう殺人者に過ぎない。彼らのお陰で私は私でいられるのだ、お前達にいつも感謝をしている"
"ヒューストに、溢れた刃で作った双剣を渡した。とても嬉しそうに喜んでいた。"
「ヒュースト…」
その名はどの英傑なのか。
聞き覚えのないその名前を記憶していく。
"あいつは心が綺麗で、本当に優しい、その優しさに付け入るものが現れるかもしれない、あいつの心を守る剣に成長することを祈るばかりだ"
"それでも心配だから、私とウルの光を当てた。たとえ穢れてしまったとしても、私たちが触れればすぐにその瘴気は消えてなくなる。"
「双剣…」と、ニーナはつぶやいた。
"私に忠誠を誓うと、魂の灯火が燃え尽きるその時まで私たちに仕えていたいと言ってくれる英傑達に胸が苦しくなる。"
"あの2人とは違い、私は弱くて、何もできない落ちこぼれだと言うのに、民を傷つけ、英傑達をも傷つけているのに"
「…」
"私だけ、私だけが何もできないでいる。それが苦しい"
"私の願いはただ、愛する者たちと静かに生きていたいだけだった"
"勇者になってよかったと思う唯一のことは、私の愛する者が増えたと言う事だけ"
"やはり私はいつまでも、心は人の子のままのようだ"
「…」
頁をめくっていくに連れて、少し頁を開けながら文字を綴ることが多くなっていたこの日録の主。
ページに何度も同じ文字から始まる文章が綴られ、いつしかその名の文字を、解読文を見ずに読むことができるようになった。
「メテロ…」
「…」
「…ん?」
「え。」
目の前にいたヴァルドを見ると、滝のように涙を流していたのである。
「いや…めちゃくちゃに泣いてる…!?」
「可哀想で仕方がない…ゴホゴホ!!」
「めちゃくちゃ咽せてる…大丈夫?陛下…」
そう言って、ヴァルドの部屋を見漁り、見つけたちり紙を渡したニーナ。
「辱い…因みにそのメテロという英傑様は炎の英傑でして…」
「ここから南に行くと、ある島があるのですが…そこの里の者だったと調べがついています。」というヴァルドの言葉に驚くニーナ。
「え?そんなことまでわかってるの!?」
「えぇ、今も炎の里の血統は続いております、英傑様の血を引くものはいらっしゃらない様ですが、同族の血統ならばその里に。」
「へぇ…歴史あるね…」
「えぇ…そりゃあもう…しかし…いやー…何度読んでも泣けますね」
「…ひょっとして結構泣き上戸なんですか?」
「ええ、とても」
「見えない見えない…、血も涙もなさそうな…はっ!すみません!!!」
ヴァルドは豪快に笑った。
「いやー、私は貴方をとても気に入った。もっとズバズバ言ってほしいと思ってます。」
「なんでですか、て言うか陛下…家来にも弄られてるでしょ。特にジュノさん。」
「ジュノはよくやってくれていますよ、皇帝になってからと言うものの、一人称を直せと口酸っぱく言われていますからね。」
「本当の一人称は"私"ですから」とヴァルドはいう。
「あぁ…なんかずっと私って言ってるなとは思ってました…」
「一応形式的にと…威厳のために…ね?」
「もう顔とそのデカさで十分威厳が保たれてます!!可愛い者収集が趣味でギャップ萌えを目指してるところかもしれませんけど…」
「それが消えるほど顔の圧すごい…!!」とニーナは指摘した。
「でも陛下!!この可愛いものまた増やしたら見せて欲しいです!!」
「はっはっはっ、ええ、好きに見て回って下さい。またいらっしゃる間にも増やしておきましょう」
「いいの!!??わーい!!ありがとう陛下!!」
ーーその後、飾られている骨董品を見回していたニーナ。
強い悪寒を覚え無意識にグリップを握る。
「…っ…」
背中に感じる妙な圧はいつも感じているものに似ていて、眠っていたはずの恐怖心が再び目を覚ました。




