物語史上、類を見ないあっさりした再会
闇:この世にある負の感情や、瘴気、邪気などの総称
先ほどの悍ましい出来事により、会話が少なくなってしまった一行。
「…」
「…」
少なくなるというよりは、もはや一切なかった。
「…っ…ぐ…」
「ん?」
「ああああぁあ!!!!」
この重々しい雰囲気に、耐えきれなくなったのはシンである。
「うるさ…」
「うるせぇな…なんだよ!?」
「なぁあ!!腹減った!どっかで食おうぜ?」
「この能天気馬鹿が…さっきの件があって食欲出ると思うか?」
「…い、いやそうだけどよ…」
「モア!」とシンはモアに声をかける。
「…」
「モア…腹減ってねぇか?」
「ちょっとシン…!あんたね…!」
「あ…減りました…」
「「減ったんかい!!!」」
「肝が据わってるわね…さすがは勇者様。」
「あはは…はは…」
バルドはフィルの頭を軽く叩く。
「痛い!?」
「黙って歩け。暴風野郎。」
「ちょっと。あんたなんてこと言うのよ!?」
「引っ叩くわよ!!この水蛸!!」とフィルは水蛸ことバルドを蹴り上げる。
「いっっ…!?テメェ!!!」
「なんでそんなすぐ喧嘩するんだよ!?お前ら!!喧嘩すんなって!?」
「…」
ギャーギャーと騒ぐ彼らに、少し心が軽くなるモア。
「みんな…優しいな…」
3人とも、俯く自分を気にかけてくれているんだと思うと胸が熱くなる。
「あ!ねぇみんな!!」
「「ん?」」
「私、河原でお水を水筒に入れてくる!」
「水だったら俺出してやるぜ。」
「ううん!世界中の人を救う力を、私が私利私欲のために簡単に使ってはいけませんよ!!」
「そうか」
「ただ単にこいつから出た水が飲みたくないだけじゃないのー?」
「え!?そんなことな…」
フィルの顔面に水を打ちつけるバルド。
「また始まったな。」とモアは苦笑する。
「ぷはっ…ちょっと…っ…あんたねぇ!??」
「黙れクソアマ。モア気をつけていってこいよ。」
「俺も行くよモア!」
「大丈夫大丈夫!」
「あ!!おい!!!」
そう言って河原に向かうモアを心配そうに見送るシン。
「シン…オメェ少し過保護すぎんぞ。」
「え?そうか?だって守ってやらねえとさ!?」
「守ることはいいことだが、干渉しすぎるのもあいつの成長を妨げることになるかもしれねぇだろ。」
バルドの言葉に、シンは俯く。
「そ、そうか…」
「あんたらモアの両親かなんか…?」
「違ぇわ、あいつはまだ弓を満足に射れねぇんだよ。どうやら拳骨は強ぇみてえだがな。」
「へぇ?あんたらが教えてやってたの?」
「こいつはゆっくり覚えろって言ってたが…そうもいかなくなってきただろ。さっきの件を見る限り。」
「そう、だな…確かに…」
「まぁでもさ?剣は直接攻撃型で、弓は遠距離攻撃型…使い勝手も違うし、その分使う時の思いも違うんじゃないかしら?」
「まぁそうだが…あいつは自分の理想と世の中の現実との間で悩んでるんじゃねぇか。」
「…」
「それを支えてやるのがオメェなんじゃねぇのか、シン。」
「あぁ…」
シンは強く拳を握り「そうだな…」と呟いた。
「…ん?」
「ん?どうかしたのシン」
「…あれ…」
シンは河原を進んだ先にある、旱魃地帯を指差す。
「ここは水があるのに、あっちは乾き始めてるわね。」
「俺の出番かぁ?」
「それもそうだけどあれ…」
「ん?」
シンはそこにいる黒い外套の人物を指差したのである。
「…あいつってさっきのやつじゃねぇか?」
「いや、待てよ?」とバルドは考えるようにして腕を組む。
「さっきのやつの時に感じた嫌な感じがしねぇ…」
「…でも…あの黒い外套…ここらじゃあんま見ないよな?」
「…ん?」
フィルはふと、その人物を見つめる。
「…あれ?あの子…」
「知ってんのか?」
「うん!水蛸!モアのこと頼んだ!行くよシン!」
「あ!?」
「お、おい!フィル!!?」
「ほら!!あの子足速いからさっさと来る!!」
「えぇ!?は、はい!!!」
シンは風に乗って先に行くフィルを追いかけ駆け出していく。
「…チッ…あのクソアマ…」
「勝手に行動すんなよな」と頭をむしり掻くと、2人とは反対方向へと足を進めるのだった。
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後方で3人が目撃した足の速い少女の正体。
ーーーーーーーー
「あのぉ…すみません、ゼルセウって国の行き方わかりません?」
それは、ニーナだった。
「ゼルセウ〜?あんな所に行きたいんかあんた、やめとけやめとけ」
「いや!行かないです!でもどの方角かなって気になって!」
「あぁーそういうことかい〜、この道をずーーっと南に進むと船着場がある、そこから恵みの海を渡るんだ」
「へぇ!そう!ありがとおじいちゃん!」
「おうおう」
「じゃあね!!!」
老人に手を振ったニーナ。
「お嬢さんや」と声をかけられ、ニーナは足を止める。
「はい?」
「…その剣…なんじゃ穢れているんじゃあないかい…?」
「え???」
「昔大爺様に聞いたことがある…この世界にはこの世の闇の部分を一身に背負った者がいたと…」
「…闇…?」
「…闇…簡単にいうと悪いもんじゃな…負の感情、瘴気、邪気の総称みたいなもんじゃな 。」
「へぇ…おじいちゃんすごいね!?」
「ほほほ…まぁ良い…お前さんに忠告したかったんじゃ…」
「ん?」
「身の丈に合わない刀はその身を滅ぼしてしまうぞ…?」
「…っ…」
老人の言葉にニーナは少し俯き、明るい笑顔を作る。
「大丈夫!!それが私の運命なんだと思う!!!」
「ありがとうおじいちゃん!!」とニーナは老人に手を振り、南へ向かって走り出した。
「…」
しばらく走っていると突然、どこからともなく突風が吹き荒れ、ニーナの行手を阻む。
「うお…!?な、なんだ!?」
「あれ…ていうかこの風…」とニーナは身に覚えのある風を感じていると、風の中から人が現れたのである。
「やっほ!この間ぶり!!」
「…あら?」
「…っ…は…はぁ…はっ…ちょっと…流石に休憩…」
後ろから、ほぼ酸欠状態のガタイのいい青年も現れたためニーナは困惑する。
「フィ…ちょ…っ…はやすぎるんだよ…はぁ…はぁ…流石の俺でも…風と同じ速さは走れねぇよ…」
「…」
「あんた、まだこんなところにいたんだ?」
「…あぁ、うんそうなの、道に迷っちゃってさー」
「この土地、いい加減な連中多いからね」
「あはは!やっぱそう?」
「じゃあさっきのおじいちゃんの話も嘘か…」とニーナはつぶやいた。
「フィル…この子は?」
「この人?剣の勇者様だよ。」
「ニーナ、この子はシンだよ」と紹介され、握手を求める。
「ニーナだよー、よろしくシン」
「へぇ!そうなんだ!ニーナか!いい名前だ!よろしくな…って…え!?は!?ひ!?ふ!?へ!?ほ!?」
「なんだなんだ、喧しいなこいつ、誰かを思い出すわ…」
シンを見つめ、鈍臭い三つ編みの幼馴染を思い出したニーナ。
「ちゃんと飯食ってるかなあの子…」
「お、お前…あれか…!?モ、モアの…友達の!!!ニーナか!?」
「え?あ、そうそう、ニーナだお」
「イェイ」と、シンにピースを向けるニーナ。
「ニーナか!?ヘタレで!顔が塩顔で薄くて!若干潔癖っぽくてモアのことも触らせないあの!?」
「うん…うんまぁ…あってるけど。どんな覚え方してんだよ。」
「おま…さがしたよおおおおおおお!!!!」
そう言ってシンはニーナを思い切り抱きしめる。
「が…っ…は…く、くるし…死ぬ…」
「モアとの旅の目的もほぼお前探しのところあったしよおおお!!!生きてたんだなぁあ!!よかったよ無事で!!!」
「…っ…」
ニーナはシンの力強さに息が絶えかけてしまっていた。
「ちょっと!!!!泡吹いてる!!ニーナ死ぬって!!」
「え?お、おお…悪い!!」
「ゴホゴホ…い、いや…構いませんよ…」
「見た目通りの男で好感持てるわ…」と、ニーナは改めてシンと握手をした。
「モアの元に連れていく」というシンの言葉を聞いたニーナは、フィルと共にすでに枯れた大地と化してしまった川を降って行く。
「ん?」
「なんか…道が湿って来てるわね…」
旱魃していたはずの川の下流から、どんどん水かさが増していくのを感じた3人は慌てて岩場へと上がる。
すると遠くの方から水に乗ってやってくる二人の男女がいた。
「ん?」
「…あれ…って…」
その二人の顔はまるで般若の面をかぶるかのように険しい表情を浮かべていた。
「あの2人、なんかすごい怖い顔してない?」
「だから、なんだあいつら?」
「…」
ニーナは背中の剣を、そっと外套の内側に隠した。
「いけ!!!モア!!!!!」
「おうよ!!」
「シイイインちゃぁぁあん!!!!!」と、モアはバルドに投げ飛ばされ、シンの元へと飛んでいく。
「おおおおおお!?」
シンは位置を整え、危なげなくモアをキャッチした。
「ナイスキャッチね、シン。」
「な、なんだよ危ねーだろ!?」
「危ねぇな…じゃないでしょ!?もう!!フィルちゃんまで!!バルドくんいなかったら私道に迷ってました!!!!」
旱魃地帯の川を水で溢れさせるバルド。
「ちゃんとおめぇらはモアに事情を…」
「…」
バルドはニーナを見つめ、「あそこにいるやつがさっきのやつか」と怪訝そうな表情を浮かべる。
「わ、悪い!ていうか!!!そんなこと言ってる場合じゃねぇぞ!!」
「え?」
「モア!ニーナだ!!!」
「は?」
シンは後方にいたニーナの背中を押す。
「うおっ…!?」
「お前が探してた!!ニーナだよ!!」
シンは興奮のあまり、声を上擦らせる。
「…」
モアは突然の出来事に口をあんぐり開けたまま固まってしまっていたため、ニーナが彼女に手を振った。
「や。久しぶり」
「……」
「…」
「…」
モアはニーナの顔をペタペタと触る。
すると彼女は、至極嫌そうな顔をしていた。
「この嫌そうな顔…涼しげな顔立ち!!!まさか…え、本物ですか!?」
「…本物本物」
「嘘…またまた!幻覚でしょー!本物なのかい?ほれほれ!私に仕返ししてみぃよ!」
そう言ってモアはニーナの額を軽く叩いた。
「…」
「…」
「…」
辺りは静寂に包まれる。
鳥の囀り、川のせせらぎは愚か風の音すらも聞こえない。
「…ほう???なるほど。そうきましたか!!」とニーナはモアの手を握る。
「…え、え?」
「そうかー…嬉しいなあ、モアちゃん。」
「は、はい…?」
「…」
ニーナはにっこり笑うと、モアの胸ぐらを掴み、そのまま横に揺さぶる。
「ほげぇ!!ひぎぃ!!ふがぁ!!」
「…」
そして自身よりも身長のあるモアを、揺さぶった際の軌道を使い綺麗な背負い投げをする。
「びええええええ!!!!」
「…仕返しじゃぁぁぁあ!!!」
久々の再会にしてはあまりにも横暴。
3人は絶句した。
「…」
「モ、モア…?」
シンは地面に投げ出され、仰向けに倒れ込むモアを覗く。
「ニーナ…ものすごく強くなってる…ヘタレのかけらもない…」
「ったく…」
「怖いものが襲ってきてないのにビビるわけないだろ」とニーナは告げた。
「あだだ…しかし…本当にニーナなのね…久しぶり!!ごめんねええええ!ニイイナァァア!!!」
そう言ってモアはニーナに抱きついた。
「うおっ!?な、なんだどうした!?」
「私のせいで危ない目に遭った上に…あんな怖いものに飲み込まれてえええ!!!」
「いやいいよ…」
「君が無事だったんだからさ」とニーナはモアの頬を優しく叩き、笑った。
「…」
ニーナのその笑顔に影が見え、モアは安心と共に再び不安がよぎる。
外套で隠れてはいるが剣が見えたモア。
先ほどの自分が立てた信じがたい仮説を解決しようと決意し、彼女は口を開いた。
「ニーナ…」
「ん?」
「…もしかしてその剣…」
「ていうかさ」
「はい?」
「あの、ちょっと…3人がびっくりしてるから、お頭、あんたがちゃんとまとめてくださいよ。」
「え?」
3人は開いた口が塞がっていなかった。
「あ、あぁ!?あ!ごめんごめん!!!」
「ちなみにシンとフィルは自己紹介しました。」
「…そうなのね!!じゃあ次はこの顔が一見怖いお兄さん!」
「おい。なんだその紹介の仕方は。」
「ニーナだよ、よろしくね」とニーナはバルドに向け手を差し出す。
「…」
バルドはジッとニーナを見つめる。
「ん?」
「…いや。」
「…よろしく頼むぜぇ。」と、バルドはニーナの手を握り返したのだった。
その後「久しぶりなんだから2人で話してこいよ!」というシンの計らいもあり、河原に腰を下ろし久々の再会に花を咲かせるモアとニーナ。
「…」
そんな2人の背中を見守っていたシン達。
「いやあ!よかったよ、ニーナに会えて。」
「はは!何よ?嬉しそうね?シン」
「当たり前だろ!!モアはずっとニーナのこと探してたからな」
嬉しそうに何かを話しているモアを見つめ、シンは優しく微笑んでいた。
すると、フィルがあることをつぶやく。
「…ねぇ、私らってさ…普段そんなに気にしてなかったけど、見ようと思えばお互いの光とか…勿論勇者様の魂の光も…見えるわよね?」
「あぁ、そうだな…あれ?そういや、ニーナの光が見えねぇな?」
「もしかして勇者じゃねぇのか…?」とどこか気まずそうにバルドを見つめる。
「いや…見えてないんじゃねぇ…あいつの光が消えかかってるだけだ。」
「ん?」
「感じてみろ、あいつの光を」
バルドに言われ、二人は瞳を閉じ集中する。
「…」
「…」
「本当だ…モアの大きな光の中に…消えかけてる光を確かに感じるわ…」
ニーナの胸元に微かに光る、勇者の光。
「…でもなんで消えかけてるんだ…?」
「…」
バルドは先ほどの剣士が彼女であることに気づいていた。
しかし、口をつぐみ「…わからねぇ」とだけシンに伝える。
「ニーナ、勇者の仕事途中で投げ出して逃げてきたらしいよ?」
「…」
「え!?なんで…!?」
「人を殺したくないって。」
「…あぁ…そういう理由か…」と、シンは悲しそうに俯いた。
「…でも剣の勇者だから、剣を使う者としてのあり方ってのもあるだろうし…傷つけざるを得ない状況に陥りやすいだろうからな」
「…」
バルドはモアの話を聞くニーナを見つめていた。
どこにでもいる普通の少女であることに違いはない。
しかし、先ほどの剣捌きや佇まい、声色の全てが「勇者」というにはあまりにも、普通すぎるようにも感じていたバルド。
勇者とは
世界の平穏とすべての生命を背負い、気高き理想をその血に宿す者。
誰よりも生を愛し、平穏の祈りを神器に変えて奇跡を起こす者。
絶望の淵に立たされてしまったとしても、命の尊さという名の光を、決して見失わない者。
そう考えていたバルドにとって、その意図が見えないニーナをどこか怪しんでしまっていたのである。
「…」
「どうした?バルド?」
「…」
「…いや」
「なんでもねぇよ。」告げるバルド。
「何スカしてんの?かっこよくないわよ」
「んだとテメェ!!!!カッコつけていってねぇっつうの!!!!」
「スカしてちょっと自分に酔ってたわよ!!」
「よわねぇよ!!!!」
「明後日のほう向いてしゃべるやつは大体格好つけてんのよ!!!お決まりなのよ!!!」
「んな勝手な偏見作んじゃねぇぞクソアマァ!!!」
「喧嘩すんなよお前らー…」
相変わらずシンが2人の喧嘩を止める。
その様子を見ていたモアとニーナ。
「あらら…また喧嘩してる…」
「止めてきたら」
「いやあ、みんな仲良いから大丈夫だよ」
「…」
「ねぇ、ニーナ。」
「んー」
「…なんか、変わったね?」
「そう?意外と普通よ」
「えー?いや、なんか変わったよ、目つきとか」
「…そうかな。」
「…」
「なんか目つき悪いよ」とモアはニーナに告げた。
「失礼だな。」
「ちなみにモアは、どこか変わりました?」
そう言ってドヤ顔でニーナ見るモア。
「えー…っ…と?」
あまり人の見た目の変化に気づくことができないニーナは、彼女の質問に冷や汗をかく。
「えっ…とね、うん、あのー!」
なんとか絞り出した答え。
「…髪…切った…?」
「いいえ!!!!!!むしろ伸びました!!!」
「…まてまて…化粧してる…?」
「いいえ!!すっぴんです!!!!」
「…あ!!!」
「お!!なになに?」
「服変わったね」
「ええ!!!変わりましたとも!!!この地域にあってるようなものをね!!!ちょっとさぁ!?もっとないの!?」
「…」
「…」
「私の魂が!!!!とても光って見えるでしょ!!」
「あー…」
「…ごめん…見えない。」とニーナは告げた。
「え?ニーナは勇者じゃないの?」
「…うん、あのね、勇者やめて逃げてきた。」
「え??」
「私、北の帝国にいたんだけど…私の力を利用する人いて…それで逃げてきた…」
「…そう、なんだ…」
「…っ…」
「もう…帰りたい…っ…」とニーナは足を抱え自分の膝に顔を埋める。
「…っ…」
「目が覚めた瞬間刀向けられて…死ぬかと思ったし…首絞められて死ぬかと思ったし…」
そして、ニーナはモアに自身が起きたこれまでのことを話し始めたのだった。
バルドが考える「勇者」
世界の平穏とすべての生命を背負い、気高き理想をその血に宿す者。
誰よりも生を愛し、平穏の祈りを神器に変えて奇跡を起こす者。
絶望の淵に立たされてしまったとしても、命の尊さという名の光を、決して見失わない者。




