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理想と現実

突如として、強い風が吹き荒れた。



「…なに…?」



しかしそれはフィルが起こした風ではなかったのである。



「え…?」

「…」



目の前にいるその人物。

モアはどうにか顔を見ようと試みたが、残念ながらフードに隠れ顔は見えなかった。



「…」



その人物は剣を抜き取ると、凄まじい勢いで盗賊を圧倒していったのである。



「え…」 



その剣から、一瞬光が差したように見えた。

その、盗賊の命を奪うまでは。



その様子を見ていた3人も、思わず動きを止めて食い入るようにその人物を見つめる。



「…な、なんだあれ…」

「…」

「…あの剣…どこかで…」



その剣はどこか、邪気を帯びていて英傑達3人の身を震わせてしまう。



「…なんだ…この感じ…」

「あぁ…ものすごく嫌な感じがする…」



彼らの魂がその人物の"何か"を拒絶していた。



「…まさか…」

「…」



返り血を浴びてもなお盗賊に刃を向けるその剣士。

深く被った布の中から少し見えた瞳は"何か"に支配されているように見えた。



「ひ…ひぃ!!!やめてくれぇ!!!」

「痛ぇ…痛ぇよぉ!!!」



命乞いをした盗賊の体を貫く剣。



「…っ…」

「痛いか…村人達はもっと痛かったんだ…苦しかったんだ…」

「…っ…」



モアの脳裏に、一つの仮説がよぎる。



「…」


「命を奪っていいのは…奪われる覚悟があるやつだけだ…貴様らにできる償いは一つ…」


「…っ…」



「自分の手で無闇に葬り去った命に祈りを捧げ…自らも同じようにしてその道を辿ることだ…」

そう言って剣を振りかざす。



モアは矢庭に駆け出し、息絶え、傷を負った盗賊達を庇うようにして立ちはだかった。



「やめて!!!もうこの人に命はない!!!生きて償わせるの!!!そうしないと…憎しみの連鎖は止まらないよ!?」


「…」

「ひ、ひいいい!お助け…お助け…」



腰が抜けたまま、逃げようとする盗賊達



「…愚かだな…」

「…へ…?」


「理由もなく人を殺した奴らに…情けなど無用というものだ…」


「…っ…」



「どいていろ。」と、その剣士はモアを突き飛ばし盗賊を絶命させようと剣をかざす。。



「ニーナ!!!!!」

「…っ…」



その様子を見た3人は、言葉を失う。



「…」


「ニーナ…ニーナだよね…?だって…私が貴方の声を間違えるはずないもの」


「…」

「お願い…その人を殺さないで…!!!」

「…」



モアの願いも虚しく、その剣士は盗賊の体を剣で突き刺し絶命させた。



「…っ…そん…な…」

「…」



剣の血を払い、背中の鞘に剣を戻す。


フードを深く被るその剣士の顔はやはり見えなかった。

だが、低く響いたその声はどこか聞き馴染みのある声にもどこか聞こえるようで、モアはもう一度剣士に声をかける。



「ニーナ!!!!!」

「…」

「どうして…どうして貴方…こんなことを…?」

「…」



すると先ほどの少女が、剣士の元へと駆け出していったのである。



「あっ…」

「剣士様!」

「…ありがとう…助けてくれて」

「…」



幼い少女は感謝をしていた。



「母様や父様は助かっているのか…」

「…うん!!!!」

「そうか…」



剣士は幼い少女の頭を撫で、その場を後にしようとする。



「まてよ!!!おい!!!!」と、シンが声をかけるものの剣士はその場から忽ち姿を消してしまった。


呆然と立ち尽くすモアに駆け寄るフィルとバルド。



「おい、モア」

「モア…」

「…っ…」



しかし2人は、どこか憔悴しているモアになんと声をかければいいかわからなかった。



「どうして…」

「え?」



モアは剣士に嬉しそうに手を振る少女を見つめる。



「どうして…貴方は感謝をしているの…?」

「え?」


「…どうして…?この人…あの剣士様に殺されてしまったんだよ…?例え悪いことをしても…」


「死んじゃうところだった…」

「…」

「お姉ちゃんも、私も…殺されてた…でも…」



「剣士様は助けてくれた!!」と屈託のない笑顔を少女に向けられるモアは何も言えなくなってしまう。



こんなことあってはならない。

たとえ何があろうとも、人を殺めてはいけない。

たとえそれが罪を起こした相手だろうと。


しかし、村人から聞こえてきたのは、歓喜の声。



「ありがとう」という感謝を告げられる声。

人を殺して、自分と同じ命あるものを奪っておきながら感謝を告げられるこの現状に、モアは吐き気を覚えてしまう。



「…モア…!大丈夫…?」

「…っ…」

「おい…行くぞ…。」

「…」



モア達に訪れる試練、そして弓の勇者であるモアに訪れる辛い試練は、もうすぐそこまできているのかもしれない。


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