折れかける決意
一行はひとまず風の谷を越え、北にある王宮へともどることになったのだが。
「おいモア。」
「はい!バルド君!」
「北は行っちゃいけねぇんじゃねぇのかぁ?」
「暗示とか言ってたろ」とバルドはモアに告げる。
「何よ?あんたその見てくれでそんなの気にするタイプなの?だっさ。」
「テメェ殺すぞ。」
「違う違う!!バルド君は私達のために気にしてくれてるのよ!!」
「そう!俺のばあちゃんが、北に向かうと勇者様を傷つけるっていうから変に気にしちまってさ!」
「へぇ…あんたのおばあちゃん、占い師かなんかなの?」
「いや、そういうんじゃないけど…昔からばあちゃんが言ったことって必ず当たるからさ」
「ふーん…」
バルドはフィルの頭を掴む。
「あた!?」
「これでわかったろうが…一言俺への謝罪の言葉を述べたら許してやらねぇこともねぇんだがなぁ…?」
表情筋を引き攣らせながら、フィルにそう告げる。
「いったいわね!?なんなのあんた!!!!」
「テメェはいちいち鼻につくんだよクソ女。」
「なんですって!?」
「おいおいー…喧嘩はやめようよー…」
シンは2人にそう告げるも、彼らは聞く耳を持たない。
そのためシンは仕方なく身を呈して2人の仲裁に入る。
「あはは、喧嘩するほど仲良いっていうもんねぇ」とモアは1人呑気にほのぼのする。
「もうそこまでにしておきましょう!」
「あぁ!?おいモア!!おめえがなんとかこいつに言ってやったらいいんじゃねぇのか!!!」
「えぇ!?私…!?まぁでもそうね…フィルちゃん!」
「…」
「バルド君は見かけによらずとても優しくて、それでいて素直じゃないの!」
「グッ…」
「今も私や、シンちゃんのために本当は信じない暗示とかのことを気にしてくれてるだけだから!どうかその優しさをわかってあげて…!」
「そういうことを言えって言ってんじゃあねぇんだよコラァ!!!!」とバルドは顔を真っ赤にしながらモアに告げた。
「え!?ちがうの!?」
「ははーん?あ、そう?あんたツンデレなわけ?」
「可愛いとこあんのね?バルドちゃま?」と告げるフィル。
「テメェ…っ…やはりここで殺す…」
「だぁぁあ!!バルドバルド!!仲間なんだから!!殺しちゃまずいって!!」
「止めるなシン!!あのクソアマ…ぜってぇゆるさねぇ…!!!!」
「ちょちょちょ!!!落ち着けってえええ!!」
「ふん!!!!野蛮な男ね。」
自分のせいで余計にバルドを拗らせてしまったと責任を感じたモアは再び口を開く。
「バルド君!!!!」
「あぁ?」
「暗示のこと気にかけてくれてありがとう!北に行くっていうのを北の国に行くことっていうことなんじゃないかなって私は思い始めてきたの!だから…」
「それを言えっての!?共有しろ!!!!」
「す、すみません…」
「ったく…シンは。」
「え?」
「おめぇの婆さんが言った暗示だろうが。」
「あぁ…俺は…モアが大丈夫っていうなら問題ない。」
「そうか…まぁどのみち結局は北に行かなきゃならねぇし…ばあさんの暗示の勇者がこいつって確証もねぇしな…とりあえず進むことの方を先決に考えた方いい。」
「わかった。」
「うん!」
冷静に物事を考えるバルド。
その様子を至極意外そうにフィルは見つめていた。
「なんだよ。」
「…別に!!ほら!ここに止まってないで行くわよ」
「テメェが指図してんじゃねぇ。」
「うっさいわね!!!!!」
「テメェと喋ってると埒があかねぇんだよ!?一先ず行くぞ、怪我には気をつけろよ。シン、おめぇはしっかりモアを見とけよ、あぶねぇから。」
「もちろん!任せとけ!」
土地を知り尽くしているバルドを頼りについて行く3人。
「…」
ここでモアは、気に掛かっていることを口にする。
「ねぇフィルちゃん?」
「んー?なに?」
「どうして…私達の旅を了承してくれたの?」
「…」
「言ったでしょ?気分だって!」と、モアに笑いかけるフィル。
「うん、でもそういう気分になるきっかけがあったんじゃないかなって思って。」
「それは…」
その時、村を襲う盗賊の姿を見つけた。
「チッ…同族か…っ…」
「あら、人相的にお仲間じゃないの?バルド。」
「あぁ?俺は殺しはしねぇし…自分より強そうなやつからしか盗みはしねぇんだよ…」
「盗む奴らなんてみんな一緒よ、自分だけ美化しないで。」
「してねぇわ!!!けどそうしねぇと生きれねぇやつだっていんだよ!?だが…」
襲われているであろう村人たちの悲鳴を聞いたバルドは拳を強く握りしめた。
「弱ぇ奴らを狙うのは違ぇ…」
「なら助けに行こう。」
「モア…お前…!」
「ここで何もしないより…止めたほうがいい!!」
「弓は苦手だけど!!拳は強い方なので!!」とモアは我先へと飛び出していった。
「あ!?おい!!モア!」
「なんて子なのよあの子…!!!」
「俺たちも行くぞ!!!」
「「おう!!」」
そう言って彼らも足速にモアについて行った。
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たどり着いた村は血の海となっていた。
「…っ…」
「助けて!!!」と泣き喚く人たち、涙を流す子供。矢が突き刺さっている村人たち、斬首されている村人達がいた。
「酷い…早く…早く助けなきゃ…!!」
「おい!!モア待てって!」
シンはモアの腕を掴む。
「待てないよ!?!!!」
「落ち着け!!お前は俺らに指示を仰げ!!あいつらは俺らで抑えるから!!」
「うん…っ…」
「モア?」
村人たちを襲う盗賊から、何やら邪悪な気配を感じ、モアは動けなくなってしまう。
「…っ…」
「どうしたの!モア!?」
「おえ…っ…」
「顔色が悪い…落ち着け!!!!何があった!?」
「…」
「モアの指示は一旦置いておけ!!!俺ぁ村の奴らを!!!」
「私も行く!!!」
「シンはモアについてろ!!!」
バルドとフィルは、村人を襲う盗賊たちと一戦交えることになった。
なんとか加勢しようとしたモアだが、締め付けられるような胸の苦しさに襲われ蹲ってしまう。
「モア…!!おい…!!!」
「…っ…胸が…苦し…」
「なんだ…何が…っ…」
「あの人たちを…止めなきゃ…」と呟くモア。
「モア…」
「シンちゃん…お願い…村の人を救ってきて…」
「けどお前が危険に晒されるぞ…!?」
「お願い…っ…私もすぐ…行く、から…っ…」
「けど…っ…」
その時、モアの胸元に強い光が放たれたのである。
「お願い…!!行って!!!!!」
「…っ…わかった!!!!」
シンは頷き、バルド達に加勢する。
「おめぇなんで!!!モアのところにいろ!!!!」
「モアが言ったんだ!!!村人達を守れって!」
「だからって…!!!」
「主人の命令に逆らうな!!!!」
「…」
「…っ…」
「俺は俺のできることをする!!!それがモアの命令だ!!!今は救える命を力の限り救うぞ!!!」
「…おう!!!」
「わかったわ!!!」
3人は一斉に走り出し、盗賊達の元へと向かう。
力を持っているとは言え、彼らはまだ完全に覚醒したというわけではない。
それでも今持っているすべての力を使って、傷ついた村人達を助けようとしていた。
「オラァァァア!!!!!」
大地に拳を打ちつけ、地割れを起こすシン。
水流の速さを活かし、盗賊達から武器を取り上げるバルド。
薙刀を振り翳した要領で風を起こし、盗賊を薙ぎ払うフィル。
「…っ…」
その様子をただ見ていることしかできなかったモアは強く拳を握りしめた。
「…私は…何もできないの…?」
己の弱さに唇を強く噛み締め、悔しさに顔を歪ませる。
すると小さな悲鳴がモアの耳に触れた。
「…っ…」
目の前を走る少女が盗賊から必死に逃げていたのである。
「…」
「やめて…誰か…誰か助けて!!!」
「…」
盗賊の卑しい笑みに怯えていた少女の元へ駆け出したモアは堪らず、少女を抱きしめ庇う。
「…怖い…助けて…」
「大丈夫!!もう大丈夫だからね!!」
「はは…なんだぁ…おめぇ?」
「やめて!!!!もうこれ以上命を奪わないで!!!」
「…うるせぇよ…」
「死ねぇ!!!!」という声が聞こえ、モアは死を決意しながらも少女を抱きしめる力を弱めなかった。
「困っている人を放ってはおけない。」
勇者であるという自覚を中々できなかった中での、中途半端な態度が招いた最悪の結果だったのだろうか。
モアは自分の弱さを、決意の甘さをここで強く感じた。
最初はただ帰りたいと、ニーナを見つけて2人で故郷に帰りたいだけだった。
それでも、仲間や自分を成長させてくれる人々に会う機会を経て、自分が何者であるかを知りたいと、勇者であるという自覚を持ちたいと決心した。
それなのにも関わらず。
「…っ…」
「モア!!!!!」
決意と実力の相違に気付かされ、絶望の淵に立たされる。
私は勇者と謳いながら、自分を守ることができない。誰も助けることができない。
モアはそう悟ってしまったのだった。
勇者と英傑はそれぞれ人々の魂の光を見ることができる。
そして選ばれし勇者と英傑は一層美しい魂の光を放っていると言われている。




