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まるで風のようなひと

成人の儀式

この世界では19歳を迎えた者がその儀式を経て大人になる。

全身を大きく打ちつけたような恐ろしい感覚がモアをおそう。



「…っ…」



慌てて起き、四肢と胴体の有無を確認するモア。

日常に戻ってきたことを悟る。



「ハァ…っ…い、生き…てる」

「…随分と忙しねぇ夢見てんだな、おめぇは。」



まず初めにモアの目に入ったのは怪訝そうに自分を見つめるバルドだった。



「…」

「私どれくらい寝てた…?」


「…まぁ、この地に着いた時、まだ太陽は東の空だった。そして今オメェは西日に照らされてる。」


「…」



「そういうことだ。」とバルドはモアに言う。


手の震えを抑えながら、モア「そう…」と小さく呟くと、バルドは再び口を開いた。



「まだ…夢見心地かぁ?」

「…え?あ…いや…その…」

「…」



「はぁー…」と、頭を掻きながらため息をついたバルド。



「怖いなら怖いってそういえよ、ばかたれぇ。」

「…え?」



バルドはモアの頭に手を置き立ち上がると「シン!」と名前を呼んだ。



「バルド!!ごめん、ごめん厠行って…て…って…モア…!!!」


「シンちゃん…」

「たった今お目覚めだったとこだ。」


「そうなんだ…大丈夫か…?ずっと魘されてだから心配でさ…」


「こいつ、おめぇが寝てからずっとトイレにも行かず、寝ずにおめぇの手握ってたんだからな。」


「え?」


「おいバルド…!?そういうことは言わなくていいんだよいちいち…!!!」


「ふん。」



「感謝くらいさせてやれ。」とバルドはモアを見つめながらシンに告げた。



「…ずっと…手…握っててくれたんだ…シンちゃん」



「ありがとう」とモアはシンの手を握りしめ、笑みを浮かべる。



「あぁ…魘されてたから握ったらまた安心したように寝てたけど、俺が厠行ってる間にまた…」


「…」

「どんな夢を見たんだ…?」

「あぁ…っ…」



モアは「辛い」「苦しい」「悲しい」という感情を胸に宿しているはずなのにも関わらず、自分がどんな夢を見たのかを覚えていなかった。



「なんか…すごく悲しい夢を見た気がする…でもなんだろう…思い出せない…」


「そうか…」



「…何かの暗示だったんじゃねぇのかぁ。」

バルドはモアに告げた。



「うん…」

「何かの拍子にまた思い出すかもしれねぇよ。」

「そ、そうだよね…でもなんだろう…」

「…」

「ん?」


「…思い出したくない…できれば起こってほしくない事な気がする…」


「…」



物々しい空気がただよいはじめたその時。

外から「フィル!!!!」という声が聞こえてきた。



「風の英傑様の登場ってわけだな。」

「行かなきゃ…っ…」



そう言って立ちあがろうとするモアの肩を掴むシン。



「待てモア…!お前はここにいろ」

「え?」

「俺とバルドで話をつけてくるよ。大丈夫」

「…シンちゃん…でも、大丈夫本当に…?」

「おう!」

「おら、いくぞシン。」

「わかった!」



「任せろ!」と、意気揚々に歩いて行ったシンだが、モアの一抹の心配は的中することになる。


両親から事情を話されたフィルは、些か不機嫌そうにシンとバルドを睨みつけた。



「…」

「…」



明らかに敵視してくるフィルの瞳が気に入らなかったのはバルド。

眉を顰め、こちらも不機嫌顔で応戦していた。



「…な、なんか空気悪いな…」

「…で?なんか用なわけ?あんたら。」

「あ?てめぇなんなん…」



シンはバルドの口を塞ぐ。



「お、お前も光ってんだな!」

「…なにがよ。」

「魂だよ!!見えるだろ?」


「ぷはっ…!!おいテメェ…俺の時そう言うこと言ってこなかったよなぁ…?」



塞がれた口を振り払い、シンの胸ぐらを掴むバルド。



「お前はだって、自分から色々話してくれたし!俺も話す間もなかったというか…!!」


「んだとこらぁ…」

「ちょっと。」



「「…」」



「何そっちで盛り上がってんのよ。」


「なんだこのアマ…っ…一変社会の怖さを教えてやラァ…」



そう言って腰のくないに手をつけようとしたバルドを抑え、フィルとバルドの間に割って入るシン。



「お、お前フィルって名前なんだよな?さっき聞こえてきたぜ!風の英傑なんだろ!!!よろしく!!」



「俺はシン!」

「…何あんた、馴れ馴れしいわね」

「え?あぁごめ…」



「謝んじゃねぇ。」と、バルドはシンにピシャリと言い放つ。



「黙って聞いてりゃ腹立つ女だな…」

「は。」

「お、おいバルド…」

「てめぇが我儘言って出て行った女だろ。」

「だったらなんなのよ。」


「もう帰ってきたのかぁ?随分と潔く出て行った割にだっせぇな。」


「うるっさいわね!!!なんなのあんた!!!!」

「なんだテメェやんのかコラァ!!!」


「そんないっぱい武器ぶら下げて!!!私の薙刀で一瞬で真っ二つにしてやるわよ!!!」


「身の丈にあってねぇんだよクソ女。」

「なにぃ!?」

「ちょいちょい!!やめろよ喧嘩は!!」



「はぁ…」とフィルは大きなため息を吐く。



「あんたら、初めましての女の子に失礼すぎ、モテないわよ。」


「んだとテメェコラァ!!!こっちはなぁ、モテるためになんかやってねぇんだよ!!!」


「あぁあぁ?必死になっちゃってぇ!!」

「火に油注ぐなって…!?」


「チッ…そうかぁ…テメェの言いたいことはよぉくわかったぜ…」



「ここでテメェを殺すことに決めた。」とバルドは短剣を抜いた。



「かかってきなさいよ。殺し返してやるわ!!!」

「表でろコラァ!!!!」

「おいお前ら…」



すると、この物騒な会話を聞き、居てもたってもいられなくなったモアが登場する。



「ご夫婦の前でそんなはしたないことよしなさい!」

「はしたな…このアマが全部悪ぃんだよ。」

「あんたでしょ!?」

「テメェだろうがぁ!!!!」

「はぁ!?」

「なんだコラァ!!!」



「落ち着けって!!」とシンが2人の間に割って入る。



「フィル!本当ごめんな!この人…モアって言うんだ。」


「初めまして!」

「…」


「改めて私はモアって言います!フィルちゃん…だよね?よろしくね?勝手ながらお邪魔させてもらってました…」


「…」



フィルは、喧嘩の仲裁に一切入ってこなかった両親を見つめる。



「…ったく…で?あんたが、勇者様なの?」

「まぁ…一応…えへへ!」

「ふーん、なんか頼りないわね。」

「ガァァァアン…」

「…」



腕を組み「ふん…」と、鼻を鳴らすフィル。

彼女はどこか気の強そうな女の子であるとモアは思う。



「あの…本題に入るんですけれども…フィルちゃんにお願いがあって…」


「…ちょっと待って!」

「え?」


「あのね?あたし、今回の家出で一つ気づいたことがあったの。」



「家出っつーかもはや散歩だろうが。」と告げるバルドの口を塞ぐシン。



「…自由自由って自由に縛られてたのは私みたい。」

「え…?」


「…色々納得はいかないこともあるけど、私はあんたについて行こうって思った!!!なんか、そう言う気分なの!!」


「…」

「…」

「…」



一世一代の決断を気分で決めていいものなのだろうかとモアは不安になる。



「いやあの…そもそも嫌で出て行ったのでは…」

「急展開だな!?お前!?」

「別にあんたらのこと認めたわけじゃないから。」



「それだけは勘違いしないだよね。」と3人に指を刺すフィル。



「偉そうなガキだな。」


「失礼ね!?これでも成人の儀式は通過してんのよ!!!!」



「「え???」」



「う、うそ…!?」



「私よりも年上なんだ…!?」とモアは驚きを隠せずに言ってしまう。



「何よそれ!!失礼ね!?」


「ごめん…でも本当に…いやで何回も家出してたんでしょ?そんな気分で決めちゃって…」



モアの心配をよそに、フィルは両親に声をかけた。



「おかあ!おとう!行ってくるから!!」

「おう!!今度はすぐ帰ってくんなよ!!」

「そんなお使いに出かけるみたいにいうんだな…」


「もう数えられないくらい家出して帰ってきてるけど!今度は帰ってこないようにね!」



両親からの言葉に、フィルは顔を真っ赤にさせた。



「うるさいなー!もうそんなこと忘れたわよ!」

「切り替えの早ぇ奴らなんだろうな。」

「本当ね…」


「そう言う奴らの方がさっぱりしてていいんじゃないか?」


「いい奴という言葉はこいつが語源かもしれねぇな」

「バルド君と同意見」

「ん?」

「ほらあんたら!!」



「「ん?」」



「なにちんたらしてんの、さっさと行くわよ!!」

「てめぇがちんたらさせてたんだろうが。」

「あんたさっきからほんっとむかつくわね!!」



「あんたみたいな男が一番嫌い!!!!」とフィルはバルドに告げた。



「そうかいそうかい勝手に言ってろクソガキ女」

「なんですって!?」

「うるせえんだよ!!ピーピーピーピー!!!」



「鳥かてめぇは!!!」というバルドの怒号が響き渡る。



モアとシンは新たな仲間が増えたことで喧しさが増えていくことにうれしさを覚えた。


そしてフィルを交え一同は一旦北にあるホアンクルム王宮に進むことを決めたのだった。


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