苦しい明晰夢と堕ち続ける夢
夢の概念:モアは力が解放されてから同じ夢を見続けている。
予知夢なのか警鐘なのか暗示なのか、それは未だわからない。
「…あぁ…まただ…っ…」
以前と同じ情景の場所に、気がつくと佇んでいたモア。
「…また…同じ夢だ…お願い…早く覚めて…」
「早く覚めて…そうじゃなきゃ…っ…」
モアは自身の頭を叩き、眠っているであろう自分を起こそうと躍起になる。
「お願い…早く目覚めて…!!そうじゃないとニーナがまた…っ…」
この夢は、以前見た彼女の友ニーナが、自分の剣で自分を刺した場所。
モアはあの場面を見る前にニーナを探し出そうと決め、走り出す。
「…どうしよう…どこにいるの…ニーナ!!!ニーナどこー!!?!?」
風が吹き荒れる更地を直走るモア。
「はぁ…はぁ…はぁー…っ…」
すると、ある人影が現れたのだ。
「え…っ…?」
「…」
その人物は勇ましい剣を背負い、従者を従えモアの前を横切る。
フードを被り、外套で口元を隠すその勇者を見たモアは、驚き言葉を失ったのである。
「勇者様…だよね…でも後ろにいる人…」
何度も瞬きをし、何度も目を擦りその人物を見つめても答えは一つしか導かれなかったのである。
「…あの人…本当に従者…なの…?絶対違う気がするんだけど…っ…」
勇者の後ろにいるその人物は、世界を救う勇者の従者にしてはどこか違和感を覚えるものをモアは感じ取ったのである。
「え…ちょ…っ…嵌められてるんじゃないの!?」
従者と共に去っていく勇者であろう人物に、モアは声をかけた。
「…勇者様!!!!剣の勇者様!!!こっちを向いてください!!!」
「…」
空を見上げ、何かを発している剣の勇者。
「は…」
"俺が死ねば皆が救われる…"
"皆の期待に応えることのできない弱い勇者など…幾らでも代えの効く神器など…いらないはずだ"
「…っ…」
なぜかその言葉が、遠くにいるはずのモア自身に語りかけるようにして聞こえてきた。
「や、やめて…っ…お願い…やめて!!!!!」
モアは涙を流し、近づくことのできないその剣の勇者に手を伸ばす。
これはおそらく、剣の勇者が自決する直前の誰かの記憶なのだろう。
そしてそれは、弓の勇者の記憶なのかもしれないという憶測を、モアは立てた。
「剣の勇者様!!待って!!そんなことしちゃだめ!!!」
"嗚呼…友よ…俺にはこうすることでしか誰かを護ることはできない…っ…この道を進む俺を許してくれ…"
聞こえてくる言葉にモアは何度も反論する。
「そんなことない…!!!!貴方という存在がいるだけで、救われている人がいるはずだよ!!!それが勇者様なんだよ!!!!」
"次…生まれ変わるのならば…剣を振るうことのない時代で…愛する者達とただ…"
「…っ…」
「静かに生きたい…」
その泣きそうになる程の悲しみを帯びた声が、モアの耳に響き渡ると、辺りの情景が目まぐるしく変わり始めた。
「え…っ…」
何かにつかまれ、引き摺り込まれるモア。
地上にいたはずの彼女は突然落下し始めたのである。
「きゃぁぁあ!?」
まるで堕ちていくように、モアの体に重力がかかっていく。
「ひいいいいいいいい!!!!やめてええええ!!!助けてええええ!!お願い!!起きて私!!起きてよ!!!!!!」
"我が友よ…"
「今度は誰!!!誰の声!?」
モアに語りかけてくるは、聞き覚えのない男性の声である。
"お前に…全てを背負わせてしまった我らは…救われるべき魂ではない…"
「誰!!!!?誰!?私に今語りかけてますか!?」
"お前を苦しめたのは我らだったのかもしれない…"
そう告げる悲しげな声は、必死に叫ぶモアの声に掻き消えていく。
「…もう無理…っ…」
「やめてええええ!!!!助けてええええ!!!」と、モアは必死に叫ぶのだった。




