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そんな登場の仕方あり?突然の剣の勇者

【登場人物】

フィル

風の英傑。少々喧嘩っ早いところがある女性。

身長が小さいながらも、大きな薙刀を振り回し風を起こしている。


ニーナ

ルメイナから逃げてきたという。

以前よりも瞳に生気が宿っておらず、げっそりした姿。

強風を吹き鳴らし、風の谷を越えた少女



「はぁー!!今度こそ自由に生きてやる!!」

「…」



薙刀を振り回し、暴風を起こして大空へと飛び立つ女性はある人物を見つけた。



「…」



その人物は、真っ黒な外套を頭から羽織っていて、強そうな剣を持っていた。



「…」



何気なしに通り過ぎようとしたのだが、その人物の胸元が微弱な光を放っていたことに気づく。



「…っ…はっ…」



女性は何故だが、感じたこともない力の漲りを感じた。

内側から何かが溢れ出すような、そんな感覚に襲われる。

考えるよりも先に、その人物を追いかけ駆け出して行ったのだった。



その人物とは。



ーーーーーーーー




「すみません、おじさんゼルセウの国はどの方向か知りません?」



ゼルセウ王国を目指していると言うこの人物。



「ゼルセウー?兄ちゃんあんな所に行くんか?やめとけやめとけ!あそこは人間が行く場所じゃねぇよぉ」


「…あ、そう…ありがとうおじさん」

「おうおう、気をつけなせぇよぉ」

「はぁ…」



ため息をつき、空を見上げる。



「兄ちゃんじゃ…ないんだけどな。」

そういって外套のフードを取った少女はニーナだった。



「はぁ…ここまで来ると少し暑いな…ていうかここどこ…」



ニーナは再び歩き出し、道行く人々にゼルセウ王国への方向と帰り方を訪ねるも、結局解らず終い。



「なんでみんなわかんないんだよ…ん…?」

「…」



同世代の女性がこちらを見ていたことに気づいたニーナは、彼女から見える黄緑色の光に気づかないふりをし、その人物に声をかける。



「…あのー?すみません!!」

「ゼルセウは知らない。」



食い気味にそう告げる少女に、ニーナは思わず「おぉ…」と呟く。



「…そう、ですか!わかりました!良い一日を!」

「ちょっと。」

「…はい?」

「何も…聞かないわけ?あんた。」



そう言った女性に苦笑するニーナ。



「…あー…じゃあ…一ついい?」

「…」

「あんま食い気味に話すと嫌われるよ?」

「は!?」


「…いや…知ってても知らないふりして聞くのが思いやりってもんかなー…っと思って」



「あれもしかしてそのことじゃない?」とニーナは笑う。



「なんなの…あんた初対面であたしに説教するわけ!?」


「説教…んー…いや、んー、助言…?私じゃなかったらちゃんと叱られると思うよ…」


「…あんたのその言い方の方がよっぽどムカつくわよ。」


「…あ、そう?それはごめんね!んじゃ、また会う日まで!」



「ねぇ!」と女性に呼び止められたニーナ。



「あんた、名前は?私はフィルっていうの!」

「私はニーナ。よろしくね、フィル。」


「よろしくニーナ、ねぇ、その外套、あんた北の国の出身なの?」


「あー…違う…なんか急にその土地に来たって言うか…落とされたった言うか…連れてこられたって言うか…」



ニーナの言葉にフィルは困惑する。



「はぁ…?」

「まぁ…でも抜け出してきた。」

「なんで」

「…人殺しにはなりたくなくて…」

「…っ…」



その笑顔を見たフィルは、ひどく懐かしさを覚えた。

幼い頃から何度も何度も聞こえてきた、知らない誰かの声。


その声にうんざりしていたにも関わらず、何故か点と点が線で繋がったことに安堵する自分がいたのである。



「…」


「何ー?お嬢さん、そんな私のこと見つめて…私のこと好きになっちゃった?」



「あはは」と笑うニーナを睨むフィル。



「ふざけたこと言ってんじゃないわよ…ねえあんた…っ…どこかで会わなかった?」


「…口説いてるのー?」

「真面目に聞いてんの!!!!」

「…」



ニーナは考えるようにして俯き、再び顔を上げる。



「それは…君に取って存在しない記憶なんじゃない。」


「…っ…」



"俺に落ち度があったんだ…責められるのも無理はないだろ?"


"全部…俺が悪いんだよ…"



聞こえてくる声に、頭痛にも似た頭の疼きが襲う。



「…っ…」



よろめき、倒れそうになるフィルをニーナはすぐに駆け寄り支えた。



「…どうしたの!?大丈夫…??」

「あ…いや…なんでもない!!!」

「話さないと相手には伝わらないぞ!!」

「…」



「ほら、私に話してみなさい。」とニーナはフィルに笑いかける。



「…あんた、逃げ出してきたっていったじゃん?」

「え?あぁ…うん。」

「…私も逃げ出してきたんだよね」


「そうだったんだ、何で?」

「私は、昔の英傑の末裔なんだって」

「…英傑の?」


「そ!!だから勇者?が現れたらそいつに仕えてみんなを助けろみたいなさ」


「…へぇー…」


「私はそんなのに縛られたくないの。私は自由に飛び回りたいの、風を使って自由に。だから、勇者だか英傑だか知らないけど、そんなのの下について自由を奪われるの癪なの」


「いいんじゃない?それでも」

「え?」


「自分のやりたいことをやってさ、それで人を救えるんだったら…それでいいんじゃないかなって私は思うんだよね。だから私は逃げてきたし…」


「…」



フィルはニーナが持っている剣を見つめた。



「…あんた、その剣、強そうね?」

「これ?あぁ…実は驚かないでほしいんだけど…」

「なに?」



「…私はその選ばれし勇者でーす。」

そう言ってピースポーズをするニーナ。



「いや…まぁうん…なんかあんたがそばにいるとそのー、存在しない記憶?が蘇ってくるなとは思った…」


「それで辛そうにしてたのね、ごめんね」

「いや別に…でも、本当に…剣の勇者なわけ…?」


「いやー、そうみたいなんですけどね、放棄してきました。」


「…なんで」

「私の力を、人殺しに使おうとしてる人がいて…」

「…っ…人…殺し…」


「そんなことしちゃダメじゃん、勇者なのに。だから逃げてきた。」


「…」


「私は勇者の器じゃないんだよな…臆病者だし、怖がりだし、心も強くないしね…誰かを守るためになら何にだってなれるけど…自分のためには何もできない…」


「ニーナ…」


「怖くて…あそこにいるのも辛くて辛くて…逃げ出してきた…」


「…」


「はは…みんなを守るために何にだってなれる…そんなこと言ったくせに、結局自分のために逃げ出してきた…っ…私は弱い…っ…仲間に頼るのも怖い…」


「…」

「怖いんだよ…っ…」



声を震わせるニーナ。

その瞳は恐怖と悲しみに揺れていて、どれだけの経験をしたのだろうかとフィルは思う。



「でもさ…あんた…選ばれた人なんでしょ?凄いことじゃん?」


「…それはフィルも一緒なんじゃないかい?」

「え?」

「君も選ばれし英傑なんでしょ。」

「…」


「…選ばれたのが宿命なんだったらきっと君は何かの拍子で勇者の下につきたいって思うんじゃないかな」


「…」


「まぁ頑張ってよ!剣の他に弓とあともう一つの神器の勇者がどこかにいるみたいだからさ。」


「…あんた、勇者の伝記…どこまで知ってるの」

「…」



彼女は悲しそうに俯いてこう言った。



「自分で自分を殺した所まで。」

「…風の英傑はあんたのその行動を許さなかった。」

「そっか…」



ニーナはヘラっと笑う。



「そりゃあ…風の英傑だけじゃなくて他の8人の英傑みんな思ってると思う。」


「でも、目に見えるものだけが真実じゃないから、剣の勇者をあまり責めないで」



「私が責められてるみたいで辛い!」とニーナは少々おちゃらけながらフィルに告げた。


しかしフィルは一つも笑うことはなかったのである。



「…自分で自分を殺した、たとえどんな真実があろうとそんなのは許されない。そんな勇者、私は絶対認めないわよ。」


「…怖いなー…そんなの私に言われても…」

「…」


「ていうかさ。君は宿命に縛られたくないって言ってたけど…」



「君は"自由になること"に、縛られてるよ。」とニーナはフィルに告げた。



「は…?」



その時、ニーナの胸元から微弱に見えた光が消えていたのである。



「あんた…」


「…じゃあ私家に帰るから、もし弓の勇者に会ったら先に帰ってるって言っといて!バイバーイ!」


「あ!!!ちょ、ちょっと!!!!待ってよ!?」

「…」

「待ちなさいって言ってんでしょ!!!!」



そう言ってフィルは薙刀を振り翳し、ニーナの元へ風を放ってしまう。



「あ!!!ニーナ避けて!!!!」

「…」



ニーナは剣を抜くと渦を巻きながら近寄るそれを吸収した。



「…っ…」

「危ないなぁ…気をつけな。」



ニーナはフィルの攻撃をなかったことにし、彼女に手を振ってその場を後にした。



勇者であるはずのニーナの胸元に、宿っていたはずの光は消えてしまっていたのだった。



挿絵(By みてみん)

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