新事実と書物の解読
【勇者の導き】
大地を流れし水、天に昇りし風、炎を纏いし剣を護らん。
癒しき龍に跨り、雷の矢を持って、民の荒れ果てた心を鎮め、夢幻へ誘う。
【登場人物】
ウル
太古の弓の勇者
アレン
太古の勇者
テール
まだ誰かは明記されていない。
「北へ向かうと勇者を傷つける」という暗示を心配し、東のなだらかな道を進んでいたモア、シン、バルドの3人。
「あの…バルドさん…」
「あ?どうしたモア。」
「どこがなだらかだったんでしょうか…」
「あぁ?山越えただけだろ。」
「そ、そうか…」
「やっぱり島から島まですぐに着く私の国って小さかったんだな…」と改めて思うモア。
「疲れたか?」
「少しだけ、でもまだ行けるよ!」
「そうか…もう少し頑張れるか?」
「あはは!うん、大丈夫!」
「辛い時はすぐ言えよ。」とバルドは言う。
「流石に辛い奴のけつ叩いて進ませるほど鬼畜じゃねぇよ俺は。」
「ありがとうバルド君!でもまだ行けますぜ!」
「…そうか。ここからは下りだ、気をつけろよ。」
「はい!」
山の斜面を下っていき、深い谷に入った三人。
鳥の鳴き声が、谷にこだまし耳に心地いい。
「風が気持ちいいね…」
「そうだなー、風車とかもあるぜ!?すげぇ!」
「こんな所にこんな綺麗な場所があったなんて…」
「お前ら、観光に来たんじゃねぇんだぞ。」
「わかってますとも!!」
「西とはいったが、何か当てはあんのか?」
「「ない。」」
「はぁぁあ!?ねぇの!?」
「なんなんだテメェら!?」と青筋を立てるバルド。
「違うの!聞いて!!私には目的が3つある!」
「…友達探し、仲間探し、戦を止める…だろ?」
「なんで知ってるの!?」
「シンがそう言ってたろ!?」
「俺そんなこと言ったか!?いや、お前を説得する時、長々とそういうことはあったかもしれないけど…よくそれでそこまで理解できたな!?」
「頭いいなバルド!?」と、言うシンに拳骨を入れるバルド。
「おめぇのせいで話進まねぇ…そんで??あてもなくその三つを遂行しようとしてんのか?」
「まぁその…戦を止めるっていうのがわからないので…とりあえずこの国を見て回りながら…できたら仲間がいたらいいかなぁ…そして手っ取り早く別の国に行けたらなぁ…と思って…」
「なぜ別の国に行きたいんだ、その散り散りになったってのを確認するためか?」
「私はベルゼウの湖に落ちて…なぜかこのホアンクルムに私が導かれた。」
「…」
「一緒にいた友達は…どこに行ったかわからない…真っ黒な恐ろしい蜘蛛みたいな化け物に飲み込まれてしまったの…でもその話は王様も、この伝承を調べている人も…巫女様でさえ知らないんだよね…」
「…」
「だから何かがあるの…そして確証は低いけど…」
「同じ時に湖に落ちたおめぇの友達が…2人目の勇者かもしれねぇってわけか。」
「…っ…そう…」
「その蜘蛛ってのがわかんねぇが…勇者が目覚めたって話からすると、おめぇの友達は死んでねぇはずだ。」
「…っ…」
「本当か!?」
「確証はねぇ。ただ…こいつが勇者で…同じところにいたならそいつも勇者で、力に目覚めてる可能性はあるってだけだ。」
「ただ死んでる可能性もある。生きたそいつを見るまではあまり期待すんじゃねぇ」とバルドは2人に釘を打つ。
「とにかくだ、聞きそびれていたが…その勇者の導きってのを教えてくれるか。」
「あ!うん!!!」
バルドはモアから聞いた【勇者の導き】を地面に書き記した。
大地を流れし水、天に昇りし風、炎を纏いし剣を護らん。
癒しき龍に跨り、雷の矢を持って、民の荒れ果てた心を鎮め、夢幻へ誘う。
「…この順番で来てんのか?」
「あぁ、俺は大地で…バルドが水だからな」
「行くなら次はこの天か風だな。」
「天ってなんだ?」
「恐らく空を司る英傑だろうな。」
「空!?すごいな…会ってみたいかも…」
「…しかしな…ここは恐らく…」
辺りを見渡すバルド。
すると突然怒号のようなものが聞こえてくる。
「ふざけるな!!私は自由なんだ!!!この能力だって!自由になるために覚醒したものなんだ!!!誰にも指図は受けない!!!」
そう言った少女は薙刀を振り回し強い風を生み出すと、その風に乗ってどこかへ行ってしまった。
「…」
「…」
「…」
3人は顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「…風だ…見つけたぞ!!」
「追いかけようぜ!!!!」
「待って待って!!!」
「あ?なんだよ?さっさと勧誘…つか、断ったら人質とって言うこと聞かせりゃいいだろうが。」
「それは良くない!?」
「うん、ちょっと…やめといた方がいいと思う…」
すると少女が出ていったその家から「フィル!」と言う声が聞こえてきた。
「あの馬鹿は…全くもう…あら???」
三人は固まり、少女の母であろう人物を見つめる。
「…っ…」
そんな中で意を決し、モアは口を開いた。
「…あ、あの…」
「あらあら?こんな谷に来客なんて珍しい…どなた?」
「俺たち!風使い探してるんだよ!」
「…風使い…」
「おばさん!さっきの娘じゃないのか?」
「馬鹿野郎。」とバルドに水をかけられるシン。
「ぶはっ!?鼻に…っ…何すんだよ!!!」
「うるせぇな…そんな失礼なことあるかバカが。」
「失礼って…お前の日頃の行いの方がよっぽど…!?」
「二人とも!!!!あの…私たち旅のものでして…」
「…」
女性は目を見開き、固まってしまっていた。
「…えっとあの!信じてもらえないかもしれないんですけど!私勇者なんです!!!!」
「おお、遂にその技を使ったな。悪目的で。」
「そんなことある!?おいモア…!!」
「私は勇者で…私を支えてくれる九人の英傑を探してるんです、何か知ってることはございませんか!!?」
固まってしまっていた女性は、再びモアを見つめ柔らかい笑みを浮かべる。
「…知ってるも何も…私らがその風の部族よ…あ、あんたー!!あんたー!!ちょっと降りてきて!!!ゆ、勇者様!!!が!!!勇者様がいらっしゃったわよ!」
「なに!?」と陶器が割れる音や、どこかにぶつける音など騒がしい音が聞こえてくる。
「…騒がしいな。」
「はは!楽しそうだ。」
「いてぇ…あ、あなた様が!!勇者様ですか!!!!」
そう言って男性はモアの前に膝をつく。
「そうです…でも頭を下げるのはおやめになって…そんなに偉くないから…!!」
「もしや後ろにおられるのは!?」
「英傑でーす!!」
「どーも。」
「こ、こりゃすごい…フィルは!?」
「出て行っちゃったわよ…もうこれで何度目かしらね」
「ったく…あのバカはこんな大事な時に…!!と、とにかく入ってください!!何も!お茶とお菓子しか出せませんが!!」
「十分っすよ!!」
「…」
「い、いえいえお構いなく…」
バタバタと家に迎え入れられた三人は、その後夫婦から風の英傑についての話を聞くことができたのである。
「我々は風の英傑様の正当な血統にございます。何千年前は貴族としてこの地を統治していたそうなんです。」
「へぇ…」
「その割に…今は随分と寂しそうだな。」
「ちょっと…!バルド君…!!」
「あはは…いやいや痛いところを突かれましたな…我々は年月を重ねるごとに衰退していってしまいましてな…今はこうして細々と暮らしているのでございます」
「私からしたら十分立派です…」
「風の英傑の文献とかは残ってないのか?」
「ええ、残っていますよ!文献と…それを解読していた文書が。」
「「ええ!?」」
「こ、ここへきて…」
「解読文書…!?」
「このわけのわからねぇ文字を解読したってのか…!?」
「はい…この地に10年ほど前までいた若い部族長が、ホアンクルム国王陛下の側近になったんですよ。」
「「え。」」
モアとシンは顔を見合わせた。
「え…っ…ロ、ロベルトさん!?」
「あ!そうですロベルト様です、いやいやぁ!彼は普段は落ち着いた方なんですが何せこの風の部族…どこかそそっかしいところがありますから」
「自分で言っちゃ世話ねぇな」とバルドは呟き、シンも気まずそうに頷く。
「王様に悪気なく何か酷いことをしているのではないかと心配で…」
「…」
「…」
王宮の扉を蹴破ったことは黙っておこうと思うモアとシン。
「しかしあなた様が…因みに貴方様はどの勇者様で…」
「あ、私は弓の勇者です。」
「…っ…」
「…」
「え。あ、あの…?」
二人は突然、涙を流した。
「そうですか…っ…」
「え?」
「ぐすっ…本当に…お辛かったのでしょうね…」
夫婦はモアを見つめ涙を流す。
「いや、私が辛いと言うよりは…私の前世が辛いと言うか…」
「ロベルト様によれば、この書物には我らが風の英傑が記した三人の勇者様への気持ちが記されているようなのです…」
「…」
「どうぞお読みください」と彼らに言われ、モアはロベルトが解析した字と書物を見比べる。
「モア、俺にも見せて!」
「うん!一緒にみよう」
【風を司りし英傑】
炎、水と共に最古の力の一つである風を宿す。
ひとたび扇を振るえば風は舞い、人々の悲しみを遠くへ運ばん。何者にも縛られぬ自由なる魂は、国境を越え、人々へ新たな道を示すだろう。
されど吹く先を見失いし時、その風は暴嵐となり、愛する者すら遠くへ攫い去るだろう。
「扇…??」
「扇を使ってたってことか?」
「その扇はあるんですか!?」
「まさか!?」
3人は夫婦を見つめるも、彼らは首を横に振った。
「そりゃあそうだよな…何千年も前のもんだし…」
「たしかにそうだよね」
「まぁ、歴史は変わったようだな。」
「「え?」」
「女は、薙刀を振り回していたろ。」
「あぁ!確かに!!よく見てるね!」
「さっすがバルド!」
「ほら、続き読もうぜ。」
「うん!」
ロベルトの解析した文書にはこう書かれていた。
「この書物に書かれているものは日録のようなものである」と。
「日録か…」
「"これは憶測に過ぎないが、最初の頁は同日に書かれたものであるため英傑様は恐らく、旅の中で楽しかった日々を思い出しながら日録に文字を認めたのだろう"…」
「すげぇ…ロベルトってやつはここまでわかったのか…」
ロベルトが解析した日録の文に書かれていたもの。
それは在りし日の勇者への想いだった。
"ウル様はいつも私を頼ってくださる。疾風の如く駆け巡りその風を使い我清き矢を邪悪な心に届けてほしいと。勇者様の為ならなんでもしてみせる。"
"アレン様はいつも仲の悪い私とテールを宥めてくれる優しいお方だ。しかしあの勝手な奴はどうも好きにはなれん。まぁ、奴にもいいところもあるがな。"
"お三方の笑顔を見ると、私の殺伐とした心は簡単に癒される。私を私だと認めてくださったあの人たちのためならば、私はこの命を差し出しても構わない。"
「…すげぇ執着だな。」
「やっぱ…お三方って言ってるから勇者は3人なんだな。」
「あぁ…だからロベルトさんは腑に落ちない顔してたんだな…」
「でも多分他の文献には2人って書いてあるんだろうね」
「昔の話だ、おめぇが現れるまで…正直伽話だと俺も思ってたからよ。こう言う伝承を歌う書物の中にも、もしかしたらしらねぇ誰かが面白半分で作り上げたものがあるかもしれねぇってわけだな。」
「確かにな…」
「…」
「ていうか…女の人だったのか?この英傑は」
「"私"と書いてあるからと言って女とは限らねぇだろたこすけ。」
「あ、そうか!流石だなバルド!」
「…これ…」
"アレン様から笑顔が消えて行っている。お三方の力が合わさると、いつも勝鬨を収めている。全てがうまく行っている。全てがうまくいくほどに、あの人は笑顔に影を落としていく。"
「…」
「モア…?どうした?」
「…」
モアはニーナが夢の中で言ったあの言葉を思い出した。
"嗚呼…友よ…俺にはこうすることでしか…"
「…っ…」
「勇者様…?どうされましたか…?」
「…」
「なんで泣いてんだよ…お前」
シンはモアの涙を拭った。
「モア…大丈夫か…?」
「何かを思い出したんじゃねぇのかぁ。」
「…うん…でもとりあえず…続きを…」
ある頁から、悲しみ、怒りを示す言葉の上に茶褐色の乾いた水滴が垂れており、ロベルトも解読するのが困難な場所も出てきていた。
「"私は許せない。許すことができない。"」
「…」
「"何故、何故、あの方を置いて"」
「これは血だな…」とバルドは呟く。
「"何故こんなにも愚かなことをしてしまったんだ…お二人の悲しい表情は、痛々しくて見てられなかった。"」
なぜかそのページだけが、しわくちゃになってしまっていた。
「…」
「殴り書きすぎて…ここからは読めないな…この墨汁の範囲も広がってるし…ていうか、相当怒ってるように見えたな、この風の英傑は」
「風の力が色濃く残るこの地では、自決というのは一番の罪なのです。」
「自決!?」
「自決なんてどこにも書いてねぇだろ。なんでそう言い切れるんだ。」
「彼の方を置いて…何故こんなにも愚かなことをしてしまったんだ。と書かれていますから…恐らく自決をしたのだろうとロベルトは解釈したようです。」
「…そう…だったのか…」
「…」
「…」
「自由を好む風の一族は、特に自決という行為を嫌います。解放されたいと言う己の気持ちが先走って、残された者の心を縛り付け、死ぬまで自由になることはできないその行為を嫌うのです。」
「…っ…」
モアとシンはバルドを見ることができなくなってしまう。
「それがおめぇさんらの考え方ってわけか。」と、バルドは告げる。
「と、いうことは…あ、あれか…?勇者の中に自分で死んだ奴がいるってこと、だよな…?」
「…そう言うことになるね…っ…」
モアは俯き瞳を閉じる。
「…」
「勇者様?体調がすぐれませんか?」
「…いえ…大丈…」
「めちゃくちゃ体調が悪いみたいなんだ!!!」
「そうそう!!こいつ体弱くてな。」
「え!?あ、ちょ…」
シンはモアの口を塞ぐ。
「もしよかったらなんだけどよ、どうせその様子じゃ、風の英傑のあの女もここに戻ってくんだろ?それまで体休ませてくれねぇか?」
その隙に、バルドは夫婦に交渉した。
「んん!?」
「しー…!体に触るだろー?勇者様ー?」
「ええ!構いませんよ?長い旅でお疲れでしょう、今日はここへ泊まって行ってください。娘はそのうち帰ってきますから」
モアはシンの腕を叩き、睨む。
「す、すみません…じゃあお、お言葉に甘えて…っわ!?」
「おじさん!!悪い!寝かせてやってもいいか?」
シンはジタバタするモアを気にせず抱え上げる。
「あぁ!構いませんよ?」
「こちらのお部屋にどうぞ!」と案内されたシンはモアを布団の上に寝かせる。
「…もう…びっくりした…」
「ごめんごめん…」
シンはモアの額に、自身の額を合わせた。
「…へっ…?」
「んー、熱はないな…ごめんな、無理させ過ぎたんだなやっぱ」
「ち、ちがうよ!!ただ…なんだか色んな感情を考えたら…少し、辛くなっ…て…」
「…」
シンはニカッと笑い、モアに花を渡した。
「…え?」
「モアは優しい奴だな…?」
「…っ…」
「ゆっくり休めよ、な?」
そう言ってシンはモアの頭をそっと撫でた。
彼の手は温かく居心地がいいと、モアは感じる。
「シンちゃん…」
「んー?」
「あの…っ…」
「…」
「おい。」と言う声に、モアは背筋を伸ばす。
「ん??おお!バルド!」
「…チッ…はぁー…オメェ…」
「ん?」
バルドは思い切りシンの頭に拳骨をお見舞いした。
「いっ…てぇ!?なんだよ急に!!!?」
「…モア。」
「は、はい!?」
「オメェも大変だな。」
バルドはニヤリと笑うとその場を後にする。
「…は、はぁ!?ちょっと…バルド君!?」
「な、なんだよ…?モア元気なんじゃん…!?」
バルドを追いかけ、飛び出して行ったモアをシンは不思議そうに見つめるのだった。
勇者の導き:以前モアが歌っていた国歌のようなもの。
日録:今集まっているのは、大地、水、そして今回の風の英傑が記したとされる手記。




