北へ?西へ?いやいや東へ。
「…」
「…」
「…」
打った筈の矢は、やはり地面を刺す。
「まぁ!!まぁまぁ!!!!人間失敗はつきものだからな!ちょっと矢が重かったのかもしれない!!」
「じゃあ今度は上狙って打ってみろ。」
「…っ…」
再び矢を放つが、その矢が飛ぶことはなく真下に落下する。
「「…」」
「できなぇとは聞いていたが、これほどできてねぇとは思わなかった。オメェよくあんな荷物と一緒に旅してたな。」
「そんなこと言うなよ!?頑張ってるところを褒めてやろうよ!?」
「褒めて伸びんのか!!女ぁ!!!まだスタートラインにすら立ってねぇって自覚あんのか!!!」
「ごめんなさい!!!!」と、モアはバルドの元へ走っていきスライディング土下座をする。
「…っ…」
「お、おいモア…!?」
「私鈍臭い上に不器用で…覚えも悪くてこういうのすぐにできないんです!!!ごめんなさい!!」
「…」
「だけど…私は弓の勇者に選ばれた以上…努力して民を救うことに全力を注ぎたいの!!!」
「おめぇ自覚してねぇんだろ?納得してんねぇんだったら…」
「さっきの…貴方の言葉でハッとしたの…命を守るって…そんな簡単なことじゃないし、もし自覚しても強くなきゃ誰も守れない…」
「…」
「今もまだ完全に自覚したのかって言われたら自信持ってはいとは言えない…でも…っ…誰かに助けを求められた…それを無視することはできない!!!!」
「…っ…」
「私がこうしてこの地に運ばれたことにはきっと意味がある…それは理解してる…それが勇者になるためなものだったするならば…私は勇者という役目を果たすために絶対に強くなる…」
「…」
「強くなって…沢山の人を守りたい!!!!」
「…っ…」
「でもそのためには…貴方達英傑の力も必要なんです!!!お願いします!!私絶対に強くなるから!!!私と…私と共に旅をしてくれませんか!!!!バルド君!!!」」
「…」
「生きとし生けるもの全てを…私は守らなければならない!!!!それが私たち三人の勇者と九人の英傑達の宿命なんです!!!!」
「…」
「はっ…私今何を…っ…」
「…」
バルドはその言葉に聞き覚えがあった。
「…」
"我々勇者、そして貴方達英傑はこの身を以て、全ての戦、厄災から民を護らなければならない。我々は民を、そして貴方達を信じ、守り抜きます。ですから貴方達も、私たちを信じ民を信じ、寄り添い、守って下さい。それが我々勇者達の願いです。"
その鈴の音のように優しい声が、駆け巡ったのである。
「…はっ…はは…すげぇな…」
「え…?」
「…親父の言った言葉は信じてなかったけど…やっぱり…本当に聞こえてくるもんなんだな…」
バルドは悲しげにそう呟いた。
「…どういう…こと?」
「俺の住んでる盗賊の里はな、一度も血が途絶えたことがねぇんだ…だからもう何代に渡ってこの水の力をと引き継いできてる」
そう言ってバルドは手を掲げると、泉の水を溢れさせた。
「そうなのか…」
「まぁ引き継いでるっていうのは語弊がある…この水の力というものが発生したのは最初だけで、その時代によって強さも何もかもがまばらな上に、誰も完全に覚醒をすることはしなかったんだ。」
「だが…」とバルドは続けた。
「…決まってみんな誰かの声は常に聞こえてきていたって言っていたようだ…それが誰の声かはわからない、俺の親父も、俺の爺ちゃんも、曾祖父ちゃんも言っていたんだ。」
「…」
「覚醒はしないのに声が聞こえる…そんな自分を疎ましく思った…だから死んだ…」
「え?」
「爺ちゃんは毒を飲んで死んだらしい…親父は俺の前で首を吊って死んだ。残った俺を心配した母親は俺に村からでろと言ったんだ。こんな御伽噺を信用して自分の人生を自分で終わらせるなってな。まぁ結局…盗賊を謳って1人でのらりくらり生きていたんだが。」
「そんなある時、俺は水の力を少しだけ操れる力が解放されたってわけだ。」とバルドは2人に告げる。
「…」
「お前…苦労したんだな…」
「別に苦労はしたことねぇよ。」
そう言ってバルドは吹き出し続ける泉に手を当て、瞳を閉じる。
するとゆっくりその泉は水位を下げ始めた。
「…どうやら?この力を持つ人間が通ると水が出来るって書いてあったようだぜ。それで水に飢える奴等を救えってな。」
「そうか…」
「…まぁなんつーか…俺も一緒に行ってやってもいいぜ。その旅。」
「え!?い、いいの!?」
「おう。おめぇの熱意が伝わったからな。」
「ついでにおめぇのもな。」とシンを見つめるバルド。
「さっきは悪かった。」
「いや…いいんだよ、俺もカッとなっちゃってごめん」
「改めてよろしくなぁ。」
「おう!!」
そう言ってシンとバルドは固い握手を交わした。
「くううぅ…やったぞモア!!!仲間ができた!!」
「やったー!!!」
「「わーい!!!」」
モアとシンは両手を繋ぎ、楽しそうに回り始めた。
「おめぇらは餓鬼なのか…」
その様子を見たバルドは呆れたような表情を浮かべる。
「は!!でもさ?正式にお母さんにちゃんと旅に出るって言ってこないといけないんじゃないの?」
「…さっきの話聞いてた??俺はもう里を出たの!!だからいーの!!!!」
「でも、これだけの力が目覚めたなら、一度は帰ったんじゃ…」
「…」
「…」
バルドはモアにとって非常に分かりやすい男だった。
モアは彼の一瞬の曇った表情を見抜く。
「…一度…かえったんだね…」
「え!?じゃあ…」
「新しい家族ができて幸せに暮らしてんだ。嫌だろ、親と旦那が自決した血を受け継いでる俺なんてな。」
「そんなことねぇよ!?子供は…親の宝なんだぞ!?」
「シン。」
「…っ…」
「世の中には、そうおもわねぇ親もいるんだよ。」
「そんなこと…」
「おら!!!!」とバルドは手を叩く。
「んなこと言ってねぇでさっさと行かなきゃいけねぇんじゃねぇの??どこ行くかもわかんねえけどよ。」
「わかった…よし!!!よしよし!!よぉし!!!旅を続けよう!!」
「私達は西に向かってたんだよ!」
「あ?西?お前らどこからきたんだ?」
「俺らはホアンクルム王国の王宮からだぞ?」
「…」
バルドは深いため息を吐く。
「…お前らに朗報です。」
「「はい。」」
「ここはホアンクルム王国の最南端の渓谷です。」
「え!?」
「…え!?」
「おい!!!モア!!?方角は任せてよって言ってたよねぇ!?」
「い、いや確かにこっちであってて…」
「…」
流石のシンも頭を抱える。
「あ、あはは?まぁまぁでもおかげで?勇者の導きにある水の英傑のお人を見つけましたから!!!一件落着ってことですわ!!おほほほほ!」
「おいおい…」
「まぁ…それもそうだな?」
「いいのかよそれで。」とバルドは呟く。
「さすが勇者だ!」
「ありがとうございます!!!」
「おい!!!!」
「「は、はい…」」
「たく…先行きが不安すぎるぞ…女…じゃなかった…モア…おめぇはとりあえず、迷惑をかけたシンに謝ったらどうなんだ?」
「あ、そ、そうだよね…ごめんねシンちゃん…」
「いやいや、俺は気にしてないよ?間違えたおかげでバルドにも会えたしな?」
そう言ってバルドの肩に腕を回したシン。
「重…っ…!?はぁ…いいかモア。今はまだいいが、今後仲間が増えた時こういうことがあると迷惑だ。」
「ごめんなさい…」
「次は気をつけろ。」
「はい…」
「俺は方角には自信がある、ついてこい。とりあえずここは最南端だから一旦北に行くぞ。」
「北はダメだ!!」
「あ?」
「あ…いや…暗示が、あったんだよ…」
「暗示?」
「そう、北に行くと勇者様を傷つけるって…」
「こいつ…さっき3人の勇者って言ってたよな?」
「あぁ…確かに…あれ?でも俺らが聞いたのって2人の勇者だったよな?」
「……」
「モア?」
「あ、いや…あのね…実はシンちゃんにまだ言ってないことがあって…」
「うん」
「バルド君も聞いて欲しいんだけど…」
「…」
モアは祖母から幼い頃に聞いたある話をする。
「私たちの国の歌の歌詞に最後呪文が刻まれてるの。」
「勇者の導き…だったよな?それが」
「…そりゃあなんなんだ?」
「英傑は9人いるんだ。その英傑のことを歌った歌なんだよ」
「…そうか。悪い、続けてくれ。」
「ありがとう。それでおばあちゃんがいうには三人が揃った時、全ての英傑達が見守る中で唱えると、神器の儀式と共に、その神器は最大の力を発揮する事になるって…」
「やっぱ3人なんだ…ロベルトさんが言ってた2人って仮説はやっぱり間違えてたんだな」
「1人でも仲間が欠けていれば、過去の魂に触れその魂を浄化せねばならないんだって」
「…1人どころか、何人も欠けてるじゃねぇか。どうやってその過去の魂とやらに触れるんだよ?」
「わからない…それに…」
"3つの世界へ散り散りになってしまうのだ。"という言葉が引っかかっていたモア。
一体何が散り散りになってしまうのかがわからなかったからである。
「どうした?」
「何かが…三つの世界に散らばってしまうって…その何かがわからなくて…おばあちゃんも断片的で抽象的な言い方だったから…わからなくて…」
「3つの世界…」
「天国、現世…地獄。この世界なんだとしたらどっかの国ってわけだ。」
「でも3つの国でできてるわけじゃないよな?」
「…」
「どうして今そんなこと言うんだよ?王様の前でもよかったんじゃないのか?」
「勇者の器を持つ者のことや、勇者や英傑の功績や偉業を絶対にベルゼウの民以外には言っちゃいけないって言われてたから…」
「えぇ!?俺ら聞いちゃったじゃん!?」
「馬鹿、俺らはその英傑だろ。だからこいつは話したんじゃねぇのか。」
「あ、あぁそうか…」
「文献にも載ってねぇ、口伝承で伝えられてきたわけだ、オメェの国の奴らも。」
「…」
「…出まかせか?」
「ち、ちがうよ!?でも…そうなっちゃう…よね…」
「…」
バルドは落ち込むモアを見つめる。
「まぁ…俺も全く身に覚えのねぇ記憶とか思い出したりすることもあるから、それと一緒かもしれねぇな。とりあえずその暗示も、3人いるうちのどの勇者に言ってるかはわかんねぇわけだ。」
「そうか…」
「生きてて、傷つかねぇなんてことはねぇんだよ。まぁでも…そこまで心配なんだったら少し遠回りだが東から行くぞ。」
「バルド…お前…」
「…」
「優しいな!?」
「は!?どこをどう解釈してそうなったんだよ!?」
「優しいなぁバルドォ!!口調荒いからさぁー!勘違いされそうだな!俺もしてたし!ごめんな!!!!怖いやつだと思って!!」
「うるっせぇな!!!おら!!さっさと行け馬鹿ども!!!」
「おお!!」
「さぁ英傑達よ!!!西へ向かうぞー!」
「おーう!!!」
「違う違う!!!お前ら!!!西に行くには、東のなだらかな道を通って抜けなきゃいけねぇんだよばかたれ!!!」
水の英傑、バルドを仲間にしたモアとシンは今度こそ西へ向かい、歩き出したのだった。




