バルドの不器用な優しさとシンの思い
攻撃を仕掛けてくるバルドにモアは何とか対話を求める。
「ストップストップ!!!仇って!?ていうか私は剣の勇者じゃない!!!私弓!!弓です!!!」
「問答無用!!!弓だろうが剣だろうが!!勇者に無理矢理忠誠を誓わせられた仇を討たせろ!!!!!」
「そんなこと言ってないんじゃないの!?」
「山賊は誰にも従わねぇのが本分だ!!!誓ったってことは無理矢理に違いねぇだろうがよ!!」
「なにそのはちゃめちゃ論…」
「待て!バルド!!!」
「テメェはさっきから邪魔しやがって…何なんだよ。」
「俺は大地の英傑だ、よかったらバルドの書物を見せてくれないか?」
「…」
「確かに因縁とかあったらムカつくかもしれないよな?けど、モアは違うんだよ!!」
「…どういうことだよ。」
「モアは元いた場所から急にこの国に導かれて、友達とも逸れちまって…未だに家族とも会えてないんだよ!」
「…」
「自分が不安の中で勇者だって祭り上げられて、納得してないまま国を救ってくれって王様に言われて…モアはいい奴だから困ってる人を放っておけないみたいでさ…まだ自分が勇者だって飲み込めてないまま、友達も探せてないまま仲間探しの旅に出てるんだよ!!!」
「…」
シンの言葉に、バルドはくないを下ろす。
「お前の言い分は後でたんまり聞いてやるからさ、一旦その書物を見せてくれよ!頼む!!!」
「…っ…」
すると、バルドの脳内に「水の英傑よ」と語りかける声が聞こえてきたのである。
「ちっ…うぜぇ…」
「ん?」
「今度はなんの声だ…」
「ん?」
その言葉にシンはあることを思いつく。
「なぁバルド、お前どこからか声が聞こえてくることはないか?」
「おおあるよ。なんなら今も絶賛上映中だ…ずっと難しい言葉で語りかけてきやがる…チッ…たく、ムカつくぜ…耳塞いでも脳内に語りかけてきやがって…」
「シンちゃんと一緒だ…」
「そうなんだよバルド!!!俺もあるんだよ!!俺らは仲間なんだよ!!」
「…あぁ?」
「お願い、バルドくん!文句は後で聞くから…その書物を見せてほしい!!」
「…」
バルドは少し考えると、くないをしまった。
「文句は聞いてもらうからな。」
「ありがとう!!!」
「…」
「ほらよ。」とバルドはモアに書物を放り投げる。
「わわっ!?」
「…」
「んー…」
書物を開くと、やはり文字は古文字であるためモアとシンは読むことができなかったのである。
「ちょっと待てよ?モア」
「ん?」
「今…俺らはこの書物が読めないよな」
「うん…」
「でも、俺の書物は読めたよな?」
「確かに…どういうこと??」
「…おい。」
「「ん?」」
「それ、貸してみろ。」とバルドはシンとモアから書物を取り上げた。
「あ!おい!大事に見てくれよ!?それ俺の村の奴らが大事に保管してた奴なんだから!!!」
「…うるせぇな…わーってるよ…」
バルドは二冊の書物を見比べる。
「…なぁおいこれ…」
「ん?」
「…」
「あぁ…いや…」
バルドはシンを見つめ、何かを告げようとするもそれを口にすることはなかった。
「…」
その様子をモアは見つめる。
「ちっ…めんどくせぇ…ほらよ。」
「おおっ!?」
バルドはシンに書物を返す。
「なにかわかったのか?」
「…さあな。見るの飽きたから返すわ。」
「何だよそれ!?」
「うるせぇな…なんだよ!!やんのかコラァ!」
「…えぇ…?バルド…お前怒りの沸点低すぎるよ!?ちゃんと飯食ってんの!?」
「チッ…あぁ!?てめぇみてぇな馬鹿と喋ってるとムカついてくんだよ!!!!!!」
「俺のせい!?それならごめん!!」
「すぐ謝ってんじゃねぇ!!!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」
「ちょっとちょっと2人とも…」
「モア!この書物ちょっと持っててくれ!!!こいつはダメだ!!一回説教だ!!」
「えぇ…?ちょ…バルド君も一旦落ち着いて…」
「ケッ…いいぜ?乗ってやるよ。」
「はい??」
「そんな説教なんざ生ぬるいもんじゃなくてよぉ…」
そう言って骨を鳴らすバルド。
「男ならぁ…殴り合いだよなぁ!!!」
「乗ったぁぁぁあ!!!!」
「はぁ……」
「ケンカ…ヤルナラ、ホドホドニ…」
喧嘩するシンとバルドを放り、モアは書物を見比べる。
片方は少しわかりにくいところはあるが比較的読みやすい文字。
片方は古文字で読めたとしても1文字や2文字。
「…」
共通しているのは、二冊が似たような材質であるということだった。
「バルド君を見るに、シンちゃんの方の書物が何か理由がわかったんだろうけど…」
そうして再びシンの書物を見つめる。
「…ん…あれ…?」
書物をみたモアはあることに気づいた。
「…これっ…て…」
目を凝らすほどによく見てみると、シンの方の書物の頁には、薄くなった文字に何度も重ねて文字が書かれているのがわかった。
しかし、本当に注意してみなければわからないほど微妙な変化。
バルドはその微妙な変化にすぐに気づいたのである。
「おい女。」
「おん…わ、私はモアと申しますが!?」
「そうかぁ、まぁ何でもいい。」
そう言ってバルドはモアから書物を取り上げる。
「あ、ちょ…」
「世の中にはしらねぇ方が幸せなことだってあるんだぜ。」
「ん??」
シンは不思議そうにバルドを見つめた。
「…ほらよ。テメェの大事なもんくらい、テメェで持ってろよ。」
「…おぉ…悪い…ありがとう!」
「…」
「どうして…貴方はこの文字が読めるの…?」
「…」
「オヤジの口伝承だ。だから…まぁ本当にこの字がそう言ってるとは限らねぇ、人の言葉ってのは受け取り方で変わるからな。」
「そうなんだ…お父さんは読めたの?」
「オヤジは俺の祖父さんから、じいさんはおおじいさんから…そうやって…言葉を繋いできたってわけだ。」
「す、すげぇ…」
「ふん。だから原型なんて留めてねぇかもしれねぇぜ」
「確かにな…無理矢理誓わされただの、かといえばここに書いてあるだろとかいい加減なこと言ってる時点で確証なんかなさそうだもんな。」
「…チッ…あぁ!?今何つった!!!」
「すぐキレるなって!?」
「お前なんかムカつくんだよ!!!」
「えぇ…?ごめんて!?」
「だからぁ…すぐ謝ってんじゃねぇええ!!!」
喧嘩が始まりそうだったため、2人を宥めるモア。
「ちょっと…いい加減にしなさいって!?」
「…っ…」
「…」
モアの声に驚いたシンとバルドは組み合う手を下ろす。
「もー…何ですぐ殴り合いするかな…あとシンちゃんも逆撫でするようなこと言わないの…」
「俺…!?」
「素直じゃない人にとって貴方くらいまっすぐな人は地雷なのかもしれないよ…」
「そういうこと…?意外と可愛いとこ…」
「…」
モアはシンの口を塞ぐ。
「チッ…まぁいい…ところでテメェ…呆れるほど鈍臭そうだが本当に勇者なのか?」
「…まぁ一応…」
「なら本当に弓の勇者なのか…弓捌きを見せろよ?」
「さっき言ってたよなぁ?私は弓、弓の勇者ですってよ。」と、バルドはモアに詰め寄る。
「ギクッ…そ、それはまた後日で…」
「あ?お前弓の勇者なんだろ??」
「い、いやそうなんだけど…全然出来なくて…」
「話にならねぇな。」とバルドは踵を返す。
「ちょっと待ってくれ!!!!バルド!!」
「なんだよ!?テメェはこんなグズと一緒にいんのか?命がいくつあっても足らねぇよ。そもそも…勇者になりますなんて口だけで、本当は友達探して帰りてぇとしか思ってねぇんじゃねぇのか?」
「…」
「そ、そんなこと…思ってな…」
「それでも俺は別にいいんだよ」とシンは告げる。
思わぬシンの発言に、モアは驚いた。
「はぁ?何言ってんのお前。」
「さっきも言っただろ?モアはそもそも急に勇者だって言われて本人が一番戸惑ってるのに、困ってる人を放っておけないって自分で納得してない中で勇者になることを承諾したんだ。」
「…困ってる人を放っておけない性分なのはいいことだが、何も守れないなら意味ねぇって言ってんだよ。」
「…っ…」
「おい。それ以上モアを侮辱するのは許さねぇぞ」
「あ?侮辱じゃねぇ、事実を言ってんだ。」
「…っ…」
シンはバルドの胸ぐらを掴んだ。
「意味ないなんて言うな…誰かを思う…その気持ちが大事なんだよ…」
「そりゃあ随分と…幸せな理想だな。だが理想と現実は違う。こいつが旅の途中に足を引っ張り、仲間に怪我をさせたり結果的に命を失う結果を招いたとしても…同じことが言えるのか?」
「そうならないように俺たちが戦えばいい、それに…今はできなくても、まだ素質が目覚めてなくても…俺たちの前に自信を持って立てるまで支えるのが…力を持つ者の役目なんじゃねぇのかって言ってんだよ!!!!!」
「…」
「シンちゃん…!!!やめて…」
「…っ…」
「バルド君の…言う通りだよ…」
「そんなことねぇってモア…」
シンはバルドの胸ぐらを掴んでいた手を離す。
「力がない…まだ完全に勇者だって自覚がない人になんて…誰もついていきたいなんて思わない…」
「そんなことねぇよ!?モア…お前は確かに光を放ってた…俺はお前を守りたいって思ったんだよ…お前には力があるんだよ…!!」
「…」
「…っ…」
「俺たちみたいに、見て分かるような力の解放の仕方じゃないかもしれないだろ?」
「…でも…」
「大丈夫だ」と、シンはモアの肩にそっと触れた。
「誰だって最初は何もできないんだよ、弓だって練習すれば上手くなる。俺が付き合うからさ…もう少し旅をすれば…お前の気持ちも変わるかもしれない…」
「シンちゃん…」
「俺はかっこいいと思ったよ、困ってる人を放っておけないからって、戦を止めたいからって自分が勇者であることを納得するために努力してるモアが。」
「…っ…」
不安な自分の心に寄り添うようなシンの言葉に、モアは涙を流した。
「あはは!泣くなよー…な?」
「ごめん…っ…」
「ちっ…たく…俺をダシにイチャコラしてんじゃねぇぞコラァ」とバルドは言った。
「「は!?」」
「イ、イチャイチャなんかしてないよ!?」
「そうだよ何言ってんだよ!?」
「…そうかぁ。」
「…だとしたら女泣かせだな」とバルドは、モアにある物を投げ渡した。
「こ、これ…」
「てめぇらがイチャコラしてる間に簡易的だが弓矢を作ってやった。」
「矢っていうかこれ…お前のくないじゃね?」
「うるせぇ、テメェの実力がいかほどか見せてみろ」
「バルド君…」
「あ?なんだよ。あるもんで作ってやったんだ!!!文句はきかね…」
「ありがとう!!!!!」と言ったモアの言葉にバルドは拍子抜けする。
「…は?」
「すごいね!弓作れるなんて…私不器用で、こういうの全然作れなかったの!!」
「…そうかよ。」
「あれぇ?バルドくぅん?照れてる??」
「ばっ…ちっ…照れてねぇよ。なんつーか…」
「ん?」
「感謝されたことねぇから、わかんねぇんだよこういう時…っ…」
「ほら!!!さっさとやれよ!!!!」と言うバルド。
「は、はい!!やります!!」
「この木に命中させりゃいい。まぁ、出来ねぇってことだから場所は問わん。」
「はい!!」
「頑張れモア!この間みたいに地面に刺さないようにな!」
「はい!!!!!」
実際、モアは夢の中でしか弓を射る事に成功していない。
しかしなぜか彼女には自信がみなぎっていた。
「…い、いきます!!」
「頑張れモア!!!」
「…」
「いっ…け…!!!!」
モアは力一杯弓を弾き、矢を飛ばしたのだった。




