本当の意味での旅の始まり
フィリクス・ホアンクルム
42歳 165cm
ホアンクルム王国国王。
少し頼りないが、器が大きく良くも悪くもすぐに人を信用するところがある。突然現れては玉座に座り、自身に蹴りを入れてくる巫女の失礼を笑って許すおおらかさがあり「なんとかなるさ精神」で、いつも兵士達に突っ込まれている。
ロベルト
35歳 182cm
フィリクスの腹心であり、彼の暴走をいつも止めている。
おそらく影の国王はロベルト。穏やかで落ち着いているが、若い頃は活気盛んな上突っ走るタイプで、王宮に来て間も無く、王宮の柱を破壊した過去がある。オタク気質で考古学や歴史のことになると途端に早口になる可愛いところがある。
巫女
「巫女様」と呼ばれる女性。
名前も素性も明かされていない。
商人の国ホアンクルム王国。
この国には全国から訪れた商人達が集い、工芸品や食料など自他国問わず皆がここへ売買をしにくる。
民衆は皆商店街のような場所に向かう中で、いつもは厳正な警備が張られ、一般市民が立ち入ることができない場所に長蛇の列ができていた。
その列に並ぶのは皆弓の操りに長けている者たち。
【弓にて光を操りし清い心の持ち主よ、その心を以って王宮に向かわん。夢にて聖なる力と再会し、聖なる力と共に生き、民の為に尽力すると契りを交わす。さすれば弓ありし暗示、其方に授けん。】
御触書をみて「我こそは勇者である」とやって来たのである。
「はぇ〜こんなに勇者がいるのね」
そう言って、長蛇の列を見つめため息をつくこの男こそがホアンクルム王国国王。
フィリクス・ホアンクルムである。
「違うでしょう、この中の誰か1人が勇者なのです」
「え?誰?」
「それを見極めるのが我々の仕事ですよ!?」
「でもさー、違ってたらどうするのよ」
「…た、たしかに…」
そう言って頭を悩ませているこの男は、国王の側近であるロベルト。
彼は緩すぎる国王を諌める唯一の側近でもあった。
「その心配は無用だ。」とどこからともなく出て来たの女性。
「巫女たまぁ、いつもどこから出てくるのよ、それも術が何か?」
「そうだ。」
「巫女殿…夢に導かれし勇者様はこの数千人の中にいらっしゃるのですか?」
「もう見つけたぞ。そいつらだけ残して帰らせろ。」
「「え??」」
「それを先に言ってくだされば良かったのに…」
「ええ!?せっかく来てもらったのに!?」
「ならばこの数千人を裁くのか?」
「「…」」
「それはそれはご苦労な事だ、私は裏にいる。せいぜい頑張れ国王。」
女性はヒラヒラと手を振り玉座から姿を消した。
「…陛下…どうされるんですか?」
「…形だけ…?形だけ面接しましょう。」
「は、はぁ…?」
ロベルトは心配だったが、陛下の判断により数十人ずつ、王の間に招き入れる、話を聞くこととなった。
「どうかすぐ見つかるといいのですが…」
というロベルトの願いは受け入れられず、勇者にふさわしい動機を持つものは、当たり前だが現れなかった。
「はぁいもういいよー、日時がね、決まれば連絡しますからね」
「陛下…これは仕事の面接じゃないんですよ…」
「…ふぅ…一旦面接中止!巫女たまぁ」
「巫女たまでてきて」
と、猫撫で声で王座を降り跪いて願い始めたフィリクス。
これと言って王の風格が感じられない。
「陛下…!仮にも王という立場の貴方がそんな格好をされては…!!」
「巫女たまぁ、なんでもいうこと聞くから〜」
「…はぁ」
頭を抱え深いため息をつくロベルト。
「全く…王様が聞いて呆れるな。」
「てへぺろ⭐︎」
「気色悪い!!!いいか?この者達を通せ。」
そう言って弓を取り出し空中に向けて発射した。
「こりゃあすごい。」
「貴方様が勇者ではないのですか…」
「馬鹿者、私は巫女だ、神の導きを彼らに伝える役目をする者。それ以上でも以下でもないんだ。」
空中に向け打った矢はみるみる2人の男女の顔を浮かべる。
「これは…」
「おお!これはなんとも若々しい御二方!!ロベちゃん!探して来て!」
「畏まりました。」
そう言ってロベルトは残り数百人の民の中から、2人の男女を探し始めるのだった。
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モアは世話になったシンの村を出た後、凡そ3つほどの山を越え、やっとこさ城下の見える道筋まで辿り着くことができた。
「あれ…今日はやけに人が多いな…モア!ここを降れば、繁華街に出る。」
「はぁ…はぁ…わかった!」
「体は大丈夫か?少し休むぞ。」
「いや!!さっき休んだから大丈夫!早く行こう!!」
「そうか、辛かったすぐに言えよ?」
「うん!そーんなやわじゃないから!!」
「あはは!頼もしいな!」
「ねえシンちゃん」
「ん?」
「あれが、お城?」
そう言ってモアは、山を下った先、人々の長い行列を超えた先にある平屋造りの御殿を指差す。
「ああ、そうだな」
「ひぇー…立派なお城…」
「そうか?おんぼろ館って言われてるぞ」
「そ、そうなの!?あれで!?私の国の王様…私らみたいな家に住んでたからなー…本当はああいう由緒正しき建物に住んでなきゃいけないんだね」
「お前の国の王様って王様っぽくねぇな〜」
「本当そうなのよー!」
話しながらも、険しい山を下った2人。
「うわ…人多いね…」
「今日は特に多い…この列は…何だ?」
「すごいな…」
「モア」
「へ?」
シンはモアの手を掴み、そばに引き寄せる。
「1人で進むな、危ない。」
「あ…ぁ…ごめん!!」
「離れるといけないから俺の手しっかり掴んでろよ?」
「…っ…」
繋がれた手が、やけに熱く感じモアは思わず俯いてしまう。
「大丈夫か?気持ち悪いか?」
「だ、大丈夫!!!!」
「何怒ってんだよ?まぁいいや、俺から離れんなよ?」
「はい!!!!」
自分だけが恥ずかしがっていることが悔しくなったモアは少しやけになり、思い切りシンの手を握った。
「そうそう!それくらい握っててくれると安心」
「むっ…あのねぇ…」
「何だ?」
「え?」
何やら厳しい顔つきをした王宮の従者だろう男性達が明らかに自分たちの元へやって来るのが見える。
「ひ…!?」
モアは思わずシンにしがみつくと、彼はモアの手を引き自身の背中に隠す。
「…」
シンは自分はガタイがいい方であると自負していたが、自分よりも遥かに背の高い男が目の前に現れ、一瞬怯みそうになるものの、モアを守ろうと立ちはだかる。
「…何だよ?」
「…っ…」
すると、突然彼と数人の従者は跪き、こう言った。
「お探ししておりました、我が国の勇者様。英傑様」
「「え????」」
彼らの思わぬ行動に、モアとシンは目を合わせる。
「すみません!!!俺も嫌な態度とって!!」
「こちらこそよろしくお願いします…!?」
「王がお呼びです。さぁ、こちらへ」
「は、はひ…」
モアが勇者であると分かるや否や、その場にいた民衆達は両手を合わせ頭を下げていた。
そんな扱いを受けたことがなかったモアは思わず自分も頭を下げる。
「み、みなさん頭を上げて…」
「…んなぺこぺこすんなよな?斬りかかられるぞ」
「ひ!!!」
やや長い道を歩き、王宮の中に入る2人。
「…」
「…」
そこには玉座が大きすぎて小さく見えるのか、王が小さすぎて玉座が大きく見えるのかがわからない、サイズ感が掴めない王様がちょこんと触っていた。
「やぁやぁ!!勇者様達!こんにちは!いやー待ってました!!」
「…」
「あ、こんにちは!王様!初めまして!私モアです!」
「は!?」
モアの突然の奇行に、シンは目を見開かせた。
「おま…!?馬鹿野郎…!!頭を下げるんだよ!!!王様の前だぞ!?」
「…え、え?そ、そうなの…お、王様に頭下げるものなの…!?」
「はぁ…!?当たり前だろうがそんなの…!?」
「え…えぇ…!?そ、そうなのか…」
「大変申し訳ありません…」と、モアは深々と頭を下げる。
「オホホ!モアちゃまのお国は王がフランクだったのねぇ、ささ、楽にしてお座んなさい、今使いにお茶、出させますからね」
「す、すみません王様!!」
「そして…そのゴリゴリイケメンはどなた?」
「俺はシンといいます。」
「ほうほうシンとな?君はなんの力を持っているのだね?」
「はい。」
「…」
「えっ…とですね…」
「ほう?」
「…」
「…」
「「…」」
静寂が訪れら中、シンは徐にモアを見つめた。
「…やべぇ…頭真っ白…」
「えぇ…!?どうしたの…!?」
「お、王様目の前で見たの初めてだから…何の質問かも忘れた…なんだっけ…?」
「王様はあなたは何の英傑かって聞いてる…!!貴方は大地…!!!大地の英傑…!!」
「あ…あぁ!!そ、そうです大地の力です!!!」
「ほほほ、そうかいそうかい?大地?どんな事ができる?」
「…えっと…ですね…あ!!王様この種を見てください!」
シンはポケットに入っていた花の種を、フィリクスに見せる。
「ん?」
「…」
モアに初めて見せた時のように、緑色の光を放つと大地の力を発揮させるシン。
手のひらの種は芽を出し、時間をかけずに花となったのである。
「こんな、感じです…」
「うぇー!!!すっげぇな!?なにそれ!?大地!まじ神!!!」
「そうっす!!まさにこんな感じです!!!」
思いの外盛り上がるシンとフィリクス。
いつものシンに戻ったため、モアは安心したように笑った。
その様子を見ていたロベルトと女性。
「書物で拝見した通りの力ですね…巫女殿」
「うむ…しかしあのうつけ、さっきから本題に入らないな…」
痺れを切らした女性は「勇者よ。」とフィリクスを玉座から引き摺り下ろし、その場所へと腰を下ろした。
「…」
モアはその女性を見つめる。
「痛い痛い…私王だから、一応ね?」
「一応ではありません…貴方は王です…」
「…あれ?」
モアはどこかで見たことがある女性を思わずジッと見つめてしまった。
「…あの…」
「…」
「どこかで会いました…?」
その言葉に彼女はにこりと笑うだけで、その問いには答えることはなかった。
「勇者、そして英傑よ。私は長い間お前達を待っておったのだ。」
「はぁ…?」
「勇者…お前ががここへ降り立ったのも何か理由がある。」
「理由ですか…?それだったらもう1人…もう1人いるんです!!!私の友達も一緒に…友達は黒い化け物に吸い込まれるように居なくなっちゃって…」
"モア…熱い…"
自分のために犠牲になってしまったニーナを思い出してしまい、言葉が詰まる。
「だから…あの…」
「モア様。どうか落ち着いてお話し下さい。」
ロベルトは、モアに手ぬぐいを渡した。
「…ごめんなさい…」
「すまないが、私は、お前の道標しかわからないんだ。」
「そうですか…」
「然し…弓の勇者が地に降りて来たということはそれ即ちもう1人の勇者も何処かの地に降り立ったというわけだ。」
「弓の勇者と、後はなんなんすか?」
「古の書に書いてあるのは2人の勇者の存在。そして彼らは其々神器を携えていたそうです。勇者様其々弓、剣を携えていたと言われています。伝承ではこのホアンクルムのどこかにその勇者が現れると言われていて…その勇者様がモア様と言うことになります。」
「じゃあそのもう1人は…剣の勇者…とか??」
「その通りです。」
「弓の勇者…剣の勇者…」
「なんか安直すぎねぇ…?」とシンは呟く。
「剣!?そ、そんなかっこいい勇者を…もしかしたらあのヘタレが…!?」
「お前大事な友達をそんな侮辱していいのか?」
「侮辱なんかしてないよ!?事実なの!!!!」
「…その言い方が侮辱してるように見えるぞ!?」
「仕方ないでしょ!?ほんとにヘタレなんだから!」
「たく…もう1人の勇者はだれとかわかってないんですか?」
「あぁ。どこにいるかも掴めていない。」
「…えー…」
「勇者は2人、三種の神器を用いて、民のために戦っていた。それを支えるは、九人の選ばれし英傑達。わかっているのはこれだけです。」
「俺以外にもいるってことか…どんな英傑がいるかとかは?」
「書いていることは確かなのですが…何千年と前のことですので…字体も違っていて、解析が遅れていて…」
「そうなんですね…」
「…」
そんな中で、モアはある歌を口遊む。
「大地…流れし水…天に昇りし風…炎を纏いし剣を護らん…」
「それはなんだ?」
「私の国に伝わる歌なんです、王国の殆どが歌える歌で…」
「大地流れし水ということは水の使い手もいるということだな」
「天に昇りし風…とは空のことでしょうか?」
「モア!!他にその歌詞は!?」
「え!?えっと…癒しき龍に跨り雷の矢を持って、民の荒れ果てた心を鎮め、眠りを誘う…あと…なんだっけ…あれ…あー!!!なんだっけ!?思い出せない!!」
「子供の頃から歌ってんだろ!?」
「そうなのよ!!でもいつも横にはニーナがいたから!!!」
「お前のお決まりはしらねぇよ!?」
「くあー!!!思い出せない!!!」
「モアたそ落ち着いて!貴方情緒不安定すぎるよ?」
フィリクスに宥められるモア。
「お、王様!!!」
「はい!?」
「お願いします!!!」
「何でしょう!?」
「ニーナを探してください!!!ニーナは私のせいで、私よりももっと酷い目にあっているかもしれないんです…!!!お願いします!!」
「モア…一回落ち着けよ…な?」
「…っ…」
「そ、それはいいけど…我々も勇者の君にお願いがあるんだよ」
「なんでもします!!だから…だから!!」
「…」
フィリクスはモアの手を握る。
「落ち着いて。」
「…っ…」
「大丈夫かい…?」
「すみません…」
「うん…あのね、神様のお告げでもうすぐ戦が始まるみたいなんだ。」
「…はい…」
「この国は隣国よりも小さいし、貧富の差が激しいから、もしかしたらここも戦になるかもしれないし…勇者の力で…我らを救ってほしい…」
「…」
「戦…」
不安気に呟くモアに、ロベルトは告げる。
「モア様、戦が始まるとはいえども、国同士同盟を結んでいます。戦は最悪の想定ですので。」
「…」
「戦って…人が死ぬんですよね…?」
「…ええ、そうならないように同盟を組み、武力ではなく言葉で解決を目指しています。貴方様の旅の邪魔はしないよう、私たち王宮の者たちも尽力いたしますので、どうか我々に力を貸していただけませんか?」
「お願い、モアたそ」
巫女の女性が座る王座の横にちょこんと座る王がどこか可愛く見えた。
「あのさ、王様…モアは…」
「みんなの命を守るためなら、私やります!」
「モア!?」
「お!!強いねーさすが勇者!友達のことも探しとくから!」
「ありがとうございます!そしたら…」
「おいモア…!!!」
王宮中が感嘆の声をあげる中、シンはモアに耳打ちする。
「いいのかよ…お前聞き分けよすぎるぞ…!?」
「…でも、私…」
「あのな…お前は元々勇者の自覚は全くないけど夢だの暗示だのが気になるからここにきたんだろ…?答えを探しに…」
「そうだけど…」
「ましてや戦になるかもしれねぇって…そんな危ないこと、親御さんが心配するんじゃねぇのか…?」
「確かに私はまだ勇者の自覚はない…でも…そこに困ってる人がいるのなら…私は放っておけないよ。」
「…モア…」
「私はまだ弱い…ここに来るまでに貴方にばかり守ってもらって…改めてそう思った…」
「それは別に…」
「鍛錬もする…必ず強くなるよ…だから…私と一緒に…来て、欲しい…」
拳を強く握りしめ、モアはそう告げた。
断られることを覚悟して。
「…」
そんなモアの額を、シンは指で軽く弾いた。
「痛…」
「不安そうな顔すんな…俺はお前のそばを離れないよ。」
「何があっても必ず守ってやる。」とシンは告げた。
「シン…ちゃん…」
「まぁ…大衆の命を預かったってことだから、とりあえずお前は、少しずつ勇者の自覚を持つことだな。もう後戻りは出来ねぇよ?それでもいいの?」
「…」
モアは胸に手を当て、深く呼吸をする。
「勿論。」
「…さすが…」
シンはそう言って笑い、モアの背中をそっと押した。
すると玉座に座る女性が口を開く。
「勇者よ。」
「はい。」
「お前は先に言った友人と共にいた時に引き離されたのだろう?」
「はい…」
「その娘も、勇者である可能性は否定できんわけだ…いや…高い確率で勇者であるはずだ。」
「そう…ですよね、理論的に考えて…」
「…だとしたらこの王国にはいない可能性が高いですね…」
「え?そうなの?」とフィリクスは言った。
「ええ、書物には、三つの地域に弓、剣、そしてもう一つの神器が分けられていると書いてありました。」
「え?ちょっと待ってくれロベルトさん」
「はい。」
「勇者は2人なのに…神器は三つなの?」
「えぇ…そこが我々も…腑に落ちていない仮説なのですが…」
「そうなのか…」
ロベルトは2人に地図を見せる。
「我々ホアンクルム王国は、地図で言うと真ん中に位置する国です。なのでこの辺りには剣はないと予測できます。」
「へぇへぇ?なるほどね?」
「となると…剣の勇者様は恐らく…北か南どちらかに行ったと思われます。モア様」
「はい?」
「貴方がいた国はどこの国でしょう?」
「私の国はベルゼウという国なんです…」
「…ベルゼウ…」
そう言ってロベルトは考え込むように自分の顎に触れる。
「んー、聞いたことがないね、巫女ちゃんは?」
「ベルゼウ…か…」
「知らぬな…」と巫女は呟く。
「そうかーじゃあロベ…」
「お待ちください!!!!!」と、突然声を荒げたロベルトに驚くフィリクス。
「え!?なに!?ロベちゃん!!!!」
「少々お待ちくださいませ!!!」
そう言って王の間を後にするロベルトを見送るフィリクス。
ーーいや、おそらく彼は唖然としていたのかもしれない。
「やれやれ…考古学者の血が騒いでるね…」
「…勇者よ、今は散り散りなってしまったが元は全ての勇者、そして英傑達は皆同じ場所にいたそうだ。」
「彼奴は旅の始まりを意味する文を解読したようだからな」と女性は言った。
「じゃあ九人の英傑と二人の勇者が…同じところにいたってことですか?」
「あぁ、そうだ。お前の国で歌われているその歌が英傑、そして勇者の歴史の答えのようなものなのだろう。」
「…あんなに毎日歌ってたのに…所々思い出せなくて…」
「ニーナは歌ってたのか?」
「うん、でも本当は国以外の人の前では歌っちゃいけないって言われてたんだよね…私のおばあちゃんが…」
モアは自分の祖母が言った言葉を思い出した。
"この呪文は、三人が揃った時、全ての英傑達が見守る中で唱えると、神器の儀式と共に、その神器最大の力を発揮する事になる。1人でも欠けていれば、過去の勇者の魂に触れその魂を浄化せねばならんと、3つの世界へ散り散りになってしまうのだ。"
「二人じゃ…ない…」
「え?」
「巫女さ…ま…」
"私達は誇り高い…勇者の器を持つ者…勇者様や英傑様達の功績や偉業を高らかに国外の者に教えてはならないよ…?"
"外の者は野蛮で…この国を乗っ取ろうとするかもしれないからねぇ…"
「…っ…」
「ん?」
「いえ…何でもないです…!」
シンはモアを見つめた。
すると、扉が蹴破られる音が聞こえてくる。
「殿下!!!見つけました!!」
「あああ!!!扉!!ロベちゃん扉!!」
「弓の勇者に伝わる古の書と始まりの国の伝記が!!ございました!!!」
「何だって!?扉なんかいい!!素晴らしい!さすがロベちゃん!」
ロベルトはすぐにモアの元へと走り、頁を開く。
「モア様、ベルゼウと仰った貴方のお国は、今はゼルセウと呼ばれる国になっております。」
「え!?言葉が変わってるんですか!?」
「ええ、時代が変わると言葉も変わる。大陸が繋がっていたり同盟を組んでいる国々同士は言葉や風潮などが時代と共に変わっていくものなのです。」
「時の流れは諸行無常ということですなぁ」
「ええ、然しみてください。モア様がいたベルゼウ、現ゼルセウ王国は遥か昔から実権を支配していた隣のこの御国ですら入ることは許されない、いわば鎖国された国なのです。」
「だから文化が入ってこなかったって事すか!?」
「ええ、シン様。その通りなのでございます。そのうちにこのゼルセウ王国は、立ち入ってはならない恐ろしい島と口伝てで広まっていき、今では御伽噺の世界でしか登場しない国となっていたのでございます。」
「へ、へぇ…なんだかすごい国なんだ…」
「何度かホアンクルム王国の我々従者達は恐れ多くもこの国を調べに向かいました。ここの海は、恵まれた海と呼ばれ普段は産物が取れる穏やかな海なのですが、ベルゼウ王国を訪れようとする者の道を阻むかのように、いつも穏やかな海が嵐を巻き起こしていたのです。」
「…」
「然し…モア様、あなた様が現れた事であの国の謎を解く鍵のようなものを手に入れました。」
「すごい熱量だね、ロベちゃん」
「めっちゃ早口だったね。」とフィリクスは笑う。
「殿下!!!!先代がどれほどこの時を待っていたか…」
「いやーそうなんだよねー…僕のお父ちゃんがね?この勇者の導きという御伽噺が大好きで、きっとゼルセウ王国にその謎を解く鍵あるなんて言っててねぇ…もしこの国の方がここを訪ねたら暖かく迎え入れ、必ず手を差し伸べなさいって言ってたのよね〜。」
「へぇ…」
「悪い人だったらどうしようかと思ったけど、モアたそはなんか僕と似たところを感じるので、温かく迎え入れましょう!この王宮を寝泊まりに使っていいからさ、そのお友達を探しに行っておいでよ」
「「え!?いいんですか!?」」
モアとシンは2人で顔を見合わせた。
「お父ちゃんが言ってたからねぇ、いいよ!」
「ならん。」
「えー!なんでよ巫女ちゃん!?貴方は流石にこの件については口出しはしちゃダメだよ!?」
「いや、寝泊まりの件ではない。」
「あ、そうなの?じゃあいいよ。」
「勇者よ、お前は残り8人の英傑、そしてもう1人の勇者。そして三種の神器である弓を探しにいかねばならん。いちいちここに戻ってきては、大変だろう。御告げが正しければ…この国々にはもはや時間はないのかもしれん。」
「むぅ…それもそうですな」
「残りの英傑達を集める旅に出ろって事ですか?」
「そういうことだ。」
「何かあればまた戻っておいで?君たちなら出入りは自由だよ。」
そう言ってフィリクスは笑った。
「は、はい!!」
「よし…じゃあまぁ、とりあえず…北はー…ダメだから、西に行ってみるか?」
「そうだね!!」
「気をつけなね〜盗賊やら山賊もいますから」
「王様!俺がモアを守りますんで!!!!」
「頼もしいねぇ、頑張りたまえ!さぁ勇者!己が道に突き進むのでぃあ!!!!」
「「…」」
「舌噛んだ…しかもしっかりめに…痛い…」
「あの馬鹿は放って、さっさと行くが良い。」
「「はい!!行って参ります!!!」」
「気をつけてねぇ!」
「行ってらっしゃいませ、モア様、シン様。これはほんの少しですが…」
「え!?金貨!?」
「先代からの命令です。どうかお気をつけて。」
「ありがとうございます…!!」
「俺預かっとくよ、お前危なっかしいし。」
「いや!!大丈夫!!私は勇者ですから!!」
「だから自覚はやすぎるだろ…あんな否定してたのに…」
「まぁいいや、ついて行きますよ主人様」
そう言ってシンはモアの後を追う。
2人で西の国に向かい歩き出したのだった。




