同じ夢を見る意味
モアは夢を見ていた。
「…」
見覚えのない景色が広がり、モアは辺りを見渡しながら進んでいく。
すると、遠くの方で何人かの姿が見えた。
「またあんなに遠くなの……?」
よく目を凝らしてみてみると、ハニーブランドの髪色をした女性が目に映り、モアは目を見開く。
「あ、あの人…っ…」
モアは胸を抑える。
「なんで…こんなに懐かしいって思うんだろう…」
身に覚えがないはずにも関わらず、懐かしく思うこの気持ちを確かめるべく、モアはその男女たちの元へと駆け出した。
「あれ…?」
しかし、走り続けたたどり着いた先は荒れ果てた大地。
近づけたはずの彼女たちの姿はまだ遥か遠くだった。
「…え…っ…あれ…ここ…」
モアはその場所に見覚えがあった。
「あの時…湖に引き摺り込まれた時に見た夢と同じ場所と一緒…じゃあやっぱりにあそこにいるのは…っ…」
先ほどの女性が何かを抱え、咽び泣いているように見える。
「…っ…」
声は聞こえないが、その姿はとても痛々しくモアに映り、胸を締め付けられた。
「…」
"勇者よ"
自分の脳内に語りかけるように、何者かがモアに声をかけたため、モアは慌ててその場を振り返る。
「…え?」
"聖なる力を宿す勇者が現れたようだ"
「ねえ!!!誰なんですか!!」
"儂はずっとお前達を待っておったのだ。"
「え??」
"城で待っている…その清き心と強き魂で…囚われた剣士の亡き魂で救ってくれ"
「ちょ…全然わかんないんですけど!!!!なんで一方的なんですかいつも!!!!そっちが私の素性知ってるなら!!!そっちの素性を教えるのが礼儀ってもんでしょ!?」
声を荒げたモア。
「はぁ…い、いかん…つい激情型になってしまった…深呼吸深呼吸…ふー…さて…」
目を閉じ精神を落ち着かせたモアは目を開けると、そこには1人の少女が歩いているのが見えた。
「…」
「嘘…」
それは、ニーナだったのだ。
「え!?ニーナ!?ちょっと!なにしてんの!!」
「…」
モアはニーナを追いかけ声をかけるものの、ニーナはモアの問いかけに答えることなく歩き続けて行く。
「ちょちょ!ニーナ!無視しないで!悲しいよ!?」
「…」
「ニーナ!!!」
モアはニーナの手を掴もうとするが、その手はすり抜けて行ってしまう。
「え…なんで…?」
「…っ…」
「なに、してるの…ニーナ…?」
ニーナはその場で跪き、天を見上げ涙を流していた。
「ニーナ…どうしたの!?なにしてるの!?ねえ!こっちみて!!!ニーナ!!」
「…」
ニーナはモアの声が聞こえていない。
彼女はモアの言葉を聞くことはなく、短剣を取り出し、自分の腹部に当てがった。
ニーナのその行動にモアは絶句する。
「…っ…ちょ…なに…してるの…馬鹿のことはやめてよ!?」
「… 嗚呼…友よ…俺にはこうすることでしか誰かを護ることはできない…っ…この道を進む俺を許してくれ…」
「へ…?」
モアの叫び声も虚しく、ニーナは自分の腹部に短剣をあてがったまま、蹲るようにして自分を刺した。
「ニーナ!!!!!」
刃が刺さった場所から禍々しい光が放たれ、その悍ましい光はモアをも取り込もうとしていた。
禍々しい光に包まれ消えて行くニーナに、モアは精一杯手を伸ばす。
「…ニーナ!!!今…今助けるから!!!そんな…命を侮辱してしまうようなことをしちゃダメだよ!!!」
その禍々しい光は、蹲るニーナをみるみるうちに飲み込んでいく。
必死に追いかけるモアは、自身が勇者だという事をこの時だけは飲み込む。
「ニーナ!!!私勇者なんだって!!!!だから…だからね!!!!!!その力で…貴方の心を救うから!!!」
「…」
「だからお願い!!!私のことを見て!!!自分を傷つけることはやめて!!!!!お願い!!!」
そう言ってモアは、必死にニーナの元へ手を伸ばす。
「…」
「はっ…」
蹲っていたニーナは徐に立ち上がると、今度はしっかりとモアを見つめる。
「…ニ、ニーナ…?」
「…」
ニーナの瞳は、モアでさえみたことのない虚な瞳。
その瞳のままモアをみつめ、ニーナはいった。
「モア…熱いっ…」と。
ーーーーーーーー
「…っ…」
モアはハッと目を覚ます。
思わず、布団を捲り上げ飛び起きると、そこには心配そうにモアを見つめるリンの姿があった。
「大丈夫かい?モアちゃん?」
「…っ…リンさん…ごめんなさい…私…」
「…」
リンはモアの手を握る。
「え…?」
「怖い夢をみたんじゃないのかい?」
「あ…はい…実は…」
モアはこれまでの経緯を事細かにリンに告げる。
「そんなことがあったんだね」
「…はい…」
「そりゃ怖い夢だって見るさ、得体も知れない何かに追われ、知らない土地へ突然投げ捨てられて…怖い思いもするわよね」
「ごめんなさい…」
「いいのよ気にしないで、シンはもう起きてるから…」
と、リンが言ったのとほぼ同時にシンが現れた。
「お、起きたか?モア。」
「うん!おはようシンちゃん」
「よく寝てたな、ガッツリいびきなんてかいて」
「え。」
「…」
家中に重々しい音が鳴り響いた。
「いってぇ…母ちゃんの拳骨いってぇ…っ」
「たく…あんたは少し配慮ってもんを覚えな。」
「はぁ!?おいモア!?なんとか言ってやってくれよ」
「…まぁまぁ仕方ないです。自業自得です」
「お前横でガーガーいびきうるさかったんだもんよ」
「失礼な!!!ちょっと疲れてただけです!」
その後、シンに連れられモアはある場所へと向かうがその道中も彼への怒りは治ることはなかった。
「いやね?私が人様の家でいびきをかいてしまったのは全面的に悪いけど…もっと言い方がある…!!」
「んな怒んなよ、気にしてねぇって!?」
「私は気にするのよ!?」
「いいじゃんか、不眠より」
「ま、まぁそうだけどさ…」
「だろー?あ、ここ昨日の村長の家な。」
「ばあちゃんーーー」とシンは戸を開け声をかける。
「モア連れて来たぞーーー、ばあちゃんーーーーー」
「そんな何回も言わんでも…聞こえとるわい…」と言うしゃがれた声が奥から聞こえてくる。
シンは嬉しそうに笑うと、草履を脱ぎ捨て自身の祖母の元へと向かった。
「昨日ゆっくり話せなかったからな!」
「…」
「ばあちゃんがお前と話したいって!」
「ほら!こいよ」とシンに手招きをされたモアは、シンの分の草履も整え彼の祖母の元へ向かい、頭を下げる。
「よぉいらっしゃいました…」
「いえ…こちらこそお世話になりっぱなしで…」
「貴方様が勇者様で」
「あ、いや…いざそう言われると自信はなくて…」
「モア様や…シンから聞きました、貴方様は聖なる光を宿していたと…」
「あ…胸の辺りに白い光がばぁあっと…もちろんシンちゃんも光ってて…蔦みたいなのがドドドドドって出てきて…」
身振り手振りを交えなんとかあの時の光景を言語化しようとするモア。
その様子を見たシンは呆れていた。
「説明下手くそかお前は…」
「そうか…シン。」
「ん?」
「お前のその力は代々この地に受け継がれていた大地の力だ…」
「え?でも他の奴らは出てなかったじゃん」
「当たり前じゃ。それは勇者様がこの地に出向いてくださったときに覚醒する力と言われているもの。勇者様のその聖なる力に、其方の力が共鳴し、力を発揮させたのだろう」
「へぇ!すげぇ!」
「お前…ちゃんと書物を読んどらんな?」
「頭痛くなっちゃって…」
シンの祖母は軽石を彼に投げつけた。
「いてぇ!?なんだよ!?じじばばふたりして!!こんな可愛い孫を虐待して!」
「喧しい!全く…時期村長として自覚が足りん…」
「俺はなりたくねぇっての。」
そんな2人の会話を聞きながら、モアはどこか言いにくそうに口を開く。
「あ、あの…」
「どうされたかの?」
「あの…なんだか…ここ数日で、同じ夢を鮮明に見るんです…」
「ほう…夢とは時に御告げや、前世からの言伝を暗示するモノがあるのですぞ」
「んなわけねぇだろばあちゃん〜、ただの夢だよ」
「夢と侮るな。して…モア様、一体どんな夢を?」
「ずっと私に…誰かが何かを言ってくるんです。何かは思い出せないんですけど…でもなんだか…忘れたら…大切なものを失ってしまう気がするような…胸がざわつくような…そんな夢なんです」
「…」
「そうか…」
「んー…」と、少し考えるようなそぶりを見せるシンの祖母。
シンはモアの耳元に口を寄せる。
「じいちゃんと似てるだろ…あの考えるとこ」
「…本当だ、仲良いんだね」
「な。」
「…お前達に…この御触れを渡そう。」
「ん?」
モアはシンが手渡された御触れを見つめる。
その御触れに書いてあったのはこうだ。
【弓にて光を操りし清い心の持ち主よ、その心を以って王宮に向かわん。夢にて聖なる力と再会し、聖なる力と共に生き、民の為に尽力すると契りを交わす。さすれば弓ありし暗示、其方に授けん。】
「…」
「弓…?モアお前弓できてなかっただろ?」
「え?う、うん…」
「ばあちゃん、これはちがうんじゃないのか?」
「いや…このお方は確かに勇者様だ。」
「…」
「根拠は?」とシンは祖母に問う。
「根拠なんざない。」
「ないんかい!?」
「王宮に向かえば自ずと答えはわかる。モア様、貴方様の夢の謎もわかるやも知れん。」
「は、はい!!わかりました…私行きます!」
「お前聞き分け早すぎない!?乗り気じゃなかったじゃんか!?」
「まだ勇者は正直ね?腑に落ちてはない部分もあるけど、夢の謎は知りたいの。」
「モア…」
「シン。」
「あぁ、はい?」
「モア様を連れて王宮へ向かうのだ。」
「王宮に…?そんな入れねぇよ…簡単に…」
「行きます!!」
「モアさん!?」
「何度も同じ夢を見てるの。もしかしたら王宮に行けば何かわかるかもしれないし…ニーナを探す手がかりも見つかるかもしれない!」
「そうか…確かに動かないよりはましか…よし!!俺もついていく!」
「え!?いやいいよ…」
「はぁ?なにいってんだよいくに決まってんだろ?1人より2人で探した方が見つかるぞ?お前鈍臭いし…何かあったら俺が全力で守るから任せろ!」
「シンちゃん…」
シンの言葉にモアは胸を高鳴らせた。
「ありがとう…なら!私と共にいきましょう!」
「…」
シンはその言葉を聞くと、急に鼓動が早まるのを感じた。
モアの言葉がいつかどこかで聞いた言葉に似ていたからかもしれないとシンは思う。
"皆さん…私たちと共に行きましょう。“
“共に…この地に平和をもたらしましょう。"
溢れ出す記憶の想起に、目の前にいるモアへの
否、自分が慕う主人を思う言葉を思い出した。
「…っ…」
「シンちゃん?」
シンはモアの前に突然跪き、自分の胸に手を添え、こう言った。
「…我が命に替えても、貴方をお守りし、貴方が迷いし時、この母なる大地の力で貴方の心を安らかに包み込み、必ずや貴方の名誉をお守りいたしましょう。我が主人よ。」
「…え?な、なになに…突然…」
「…」
突然の言葉に驚いたモアだったが、シン本人が一番驚いているように見える。
「あれ?なんだ…?急に言葉がペラペラと…」
「大地を司りし英傑よ。」
「…」
シンの祖母は、孫ではなく英傑として声をかけた。
「はい。」
「…勇者様をお守り致せ。」
「…おう!!わかった!!!行ってくる!!!!ばあちゃん!!!」
「行こうモア!」とモアの手を取ったシン。
いよいよ冒険が始まろうとしたその時だった。
「まて。」
「え?」
「まだなんかあんの?」
「…暗示が出ているんじゃ…北に行くのはやめておけ。勇者様を傷つける。」
「暗示…ね。わかったよ」
「…さぁ、行け。」
「行って来ます。モア!!行こうぜ!」
「うん!おばあちゃん、ありがとうございました!!」
その後モアは世話になったリンやジョウ、村の人々に挨拶を告げ、シンと共に王宮へと向かった。
「…」
2人が出て行った後に地図を広げ、数種類の色の小石を投げる。
「…これは…」
“北に向かいしとき、愛しき者と再会を果たす。
然し、忽ち大地を赤く染めるだろう。"
これは暗示なのだろうか。
何も知らないモアは、この暗示が指す本当の意味を知らないまま旅を始めてしまうのだった。




