第8話 ソフィー無双
部屋を抜けて通路を進むと、そこには二つの転移陣が設置されていた。
ソフィーさん曰く、右が次の階層に進む転移陣で、左が地上に戻る転移陣なんだとか。
それなら地上から全ての階層への転移陣を用意したら?──と思ったけど、そういうわけにはいかないらしい。
唯一、ボス部屋を抜けた先にある部屋にだけは転移陣を設置できるんだとか。
細かいことは分からないけど、だから五層ごとに転移陣があるってことみたい。
まあとにかく、ソフィーさんの爆速ダンジョン探索は、今日はこれでおしまい。
ソフィーさんはさっさと左の転移陣に乗って、地上へと帰ってくる。
ふぅ、それじゃあソフィーさんが来るまでの間ゆっくりしとこ──と思ったんだけど……。
「先生、ただいま!」
「……えっ、ソフィーさん!? もう戻ってきたんですか!?」
「ええ、走ってきたわ!」
「街中を!?」
「街中を。それより、早速稽古に行きましょう!」
街中ダッシュとか、ゲームの主人公以外でなかなかやらないよ……。
興奮状態のソフィーさんが私の袖を引っ張って立たせようとするけれど、その前にやることがある。
「その前に、ソフィーさん。ドロップアイテムを見せてもらってもいい?」
「……ええ。その机の上でいいかしら?」
私が頷くと、ソフィーさんは腰に提げていた革製の素材袋の口を開く。
その袋、パッと見ふつうの袋に見えるけど、実は内側の空間が歪んでいて、かなりの量のアイテムが入るんだとか。
その分、重量が重くなる……のだけど、軽量化の付与魔法が施されているらしくて、結果的に軽いしたくさん入る夢のような素材袋になっているらしい。
そんな袋から出てきたのは、以下のアイテムたちだ。
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スライムゼリー×1
大鼠の小牙×5
一角兎の生肉×3
蝙蝠の翼膜×3
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「おおー、短時間の探索だったけど、結構な量のアイテムですね!」
「まあ、戦闘が一瞬だから。それより、こんなのどうするの?」
「まずは見たり触ったり飾ったり……後は食べられるものは食べます!」
「な、なるほど……?」
少し顔が引きつっているソフィーさんをおいて、私はスライムゼリーをもみもみしてみる。
凄くひんやりしていて、触ってて気持ちいい。
結局、何に使えるのかよく分からないけど、それおいおい。本とかで調べてみよう。
大鼠の小牙はとりあえず机の上に並べておいて、蝙蝠の翼膜は壁に吊るしておこうかな。
「な、なにしてるの……?」
「え? 初めてのドロップアイテムなので、部屋に飾ってるんですけど、なにか?」
「そ、そう……。先生がそれでいいなら……。それよりも、これから稽古でしょう? 場所は私たちのルームを使うわね」
「私たちのルーム?」
「そう。来週、第三十層を攻略する予定のパーティ──“翠白の道標”のルームよ」
「おおっ! パーティ名っぽい!」
「なによそれ……。とにかく、ついてきて頂戴」
「はーい」
こうして、翠白の道標のルームへと行くことになった。
◇
ソフィーさんに連れられてやってきたのは、宿屋から歩いて少しのところにある、超立派な二階建ての建物。
玄関には、翠白の道標と書かれている。
「え、ルームって建物丸ごとですか!?」
「そうよ。四人分の部屋に、道具の保管場所や稽古場も必要だもの」
「おおー、豪華……!」
「そうだ、先生もここで暮らす? 私は大歓迎だけど」
「い、いやあ、流石にちょっと……」
アウェーすぎるよね……。
「まあ、今はね。ほら、入って頂戴」
「あ、はい。お邪魔しまーす……」
ソフィーさんに続いて中に入る。
お、おお……めっちゃキレイ……!
もっとアイテムとか書類とかでごちゃごちゃしてるイメージだったんだけど……。
それに、ソフィーさんって片付け苦手そうだし……って言ったら怒られるかな。
「すごくきれいな部屋ですね……!」
「まあね。ゾルゾーイが綺麗好きだから」
ゾルゾーイ……パーティメンバーかな。
そう思っていると、テーブルの向こうから、女性の声がした。
「ソフィーおかえり!──って、そちらは?」
綺麗な声の主は、翠髪のサイドテールの少女だった。
そして、その隣には、がっちりした体格のスキンヘッドの男性──きっと、前線のタンク役とかだろうか。
もう一人、奥の椅子でVRゴーグルみたいなのを着けていた栗色の髪の女性も、こっちに気付いて顔を上げた。
「紹介するわね。リンギッテ、クルト、ゾルゾーイよ」
ソフィーさんが順番に手で示す。
翠髪のサイドテールが、リンギッテさん。
栗色のショートカットが、クルトさん。
そして、スキンヘッドおじさんが、ゾルゾーイさん。
……私名前覚えるの苦手なんだけど、とりあえずゾルゾーイさんだけ覚えた。
「あ、クロノ・マコトです。よろしくお願いします」
「……?」
三人は、少し困惑しているようだった。
……そりゃそうだよ、いきなり知らない人を連れて来られたら!
「ゾルゾーイ。よろしく」
「リンギッテです! ソフィーとは、小さい頃からの友達です!」
「クルトって言いま~す。まあ、よろしく~」
お互い簡単な挨拶を済ませたところで、クルトさんが切り出す。
「マコトさんも、冒険者なんですか~?」
「はい、一応……」
そう答えて、私は首から下げていた冒険者証を見せる。
銅褐色のプレートに書かれた初級の文字を見て、リンギッテさんが声を上げた。
「お、なりたてなんですね!?」
「そうなんです。昨日なったばかりで、まだ分からないことだらけで……」
「それで、どうしてソフィーと知り合ったの?」
ゾルゾーイさんの問いに、私が頷く前にソフィーさんが答えた。
「ええ。昨日の公開稽古でね」
「ああ、ゴル爺の代わりの」
ゾルゾーイさんが納得したように頷いた。
リンギッテさんも、何か腑に落ちたらしい。
「なるほど! でも、わざわざルームまで連れてくるなんて、珍しい……!」
「これからずっとここの稽古場を使うつもりだから。紹介しておいた方がいいでしょう?」
「え?……ソフィー、来週は第三十層だよ!?」
「分かってるわよ。そのための稽古じゃない」
「そのためって……。まあ、人に教えることで気付くこともあるかも?」
「……教える? 私が?」
ソフィーさんが、怪訝そうに眉を寄せた。
「違うの?」
「違うわよ。この人は、私の先生よ」
──途端、部屋が静かになった。
「…………先生?」
「そうよ」
「……誰の?」
「私の。今、そう言ったでしょう」
「……えっと……マコトさん。何の先生を……?」
リンギッテさんが、控えめに尋ねてきた。
そりゃ当たり前だ、さっき“冒険者になりたて”という話をしたばかりなんだから……。
「え、あの……」
「そりゃ、剣の先生に決まっているでしょ。まあ剣だけじゃないけど。弟子入りしたの、私」
私が答えるより早く、ソフィーさんが言った。
すると今度は、ゾルゾーイさんが口を開く。
「……ソフィーに?」
「そうよ」
「この人が?」
「そうって言ってるでしょう」
「……でも、昨日冒険者になったばっかりだって……」
「それと強さは関係ないでしょう」
「そうかもしれないけれど……。もしかして、冒険者以外で有名なお方なの?」
ゾルゾーイさんの言葉に、私は首を横に振った。
「い、いえ。魔物と戦ったことはないです」
「…………」
助けを求めてソフィーさんを見ると、なぜかソフィーさんは誇らしげに胸を張っている。
「ふふっ、面白いでしょう? 私の先生。とにかく、これから先生と稽古だから。奥の部屋に行きましょう」
というわけで、呆然とする三人をよそに、ソフィーさんに押されて奥の部屋に行くのだった。




