表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、いきなり千年妖狐の主様になった件  作者: 浦賀やまみち
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/6

第05話 黒電話が鳴るとき




 伊勢と志摩の間の山中。

 森の奥深く、外からも空からも認識できない場所に、その学校はあった。


 表向きは、どこにでもある私立の全寮制高校。

 だが、その実態は妖怪などの怪異を管理するための能力者を育成するための国営学校だった。



「お待たせしました。名香です」



 女子寮の管理人室前に備え付けられた黒電話の受話器を、少女が取る。


 彼女の名前は、名香綾音。

 恒一が身を寄せる神社の一人娘であり、現在はこの学校に籍を置いていた。



『通達します。

 一昨日、2042。観測対象、名香神社において異常を検知しました』



 黒電話の受話器の向こうから、淡々とした声が響く。



「……えっ!?」



 綾音の受話器を持つ手がわずかに揺れる。



『封印対象、004。妖狐、葛葉の覚醒を確認』

「ええっ!?」



 綾音は声を裏返した口元を押さえるが、もう遅い。


 古びた木造廊下に驚きが残響のように落ちる。

 視線がゆっくりと綾音に集まった。


 誰も言葉を発しない。

 ただ、『何かが起きた』という空気だけが広がっていく。


 そもそも、黒電話を使っていること自体が異常だった。


 今の時代、連絡手段はスマートフォンが当たり前で、この学校でも所持は正式に認められている。

 それでも黒電話が残されているのは理由がある。


 それは、スマートフォンでは受け取れない、通信だけを扱うための装置だからだ。


 黒電話を使っている。

 それだけで意味は決まる。


 学校の上部組織『陰陽寮』からの通信であることを示していた。



『同時刻、未登録契約者の反応あり』

「嘘っ!? ……あっ!? 失礼しました」



 綾音は、慌てて周囲に背を向け、肩をすぼめるように身を縮めた。

 受話器を持つ手に、汗がにじむ。



『既に、人員を派遣しましたが……。

 あなたに調査の優先権が付与されました。どうしますか?』



 息を飲むが、迷いは一瞬だった。

 開け放たれている窓からの風が、綾音の背中を押した。



「やります!」



 制服のスカートの裾がわずかに揺れる。



「いえ、やらせてください!」



 言い直しは、ほとんど叫びに近かった。


 周囲の空気が、一瞬だけ固まる。

 視線の数が増え、音のない圧力のように綾音へと集まった。


 だが、綾音は背筋を伸ばした。

 黒電話の向こうで、短いため息が聞こえる。



『では、一時帰宅を許可します。

 移動手段を手配します。準備が整い次第、現地へ向かいなさい』

「はい!」



 綾音は、短く、強く返す。


 今度は、大きなため息が聞こえた。

 先ほどまでとは明らかに違う、重さのある息だった。



『……気負うんじゃないわよ。

 駄目だと思ったら、すぐに連絡しなさい』



 その声は、今までの淡々とした声ではなかった。

 綾音の身を案じるように、柔らかさを帯びていた。



「はい、ありがとうございます! 先生!」

『……頑張ってね』



 綾音は黒電話に向かって、頭を下げる。

 電話が切れると、綾音は踵を返して廊下を駆け出した。



「お狐さまの契約者なんて、絶対に認めないんだから!」



 食堂の方から漂ってくる朝食の匂いが鼻をかすめる。


 しかし、足は止まらない。

 今はそれどころではなかった。




 ******




「わわっ!? すごい! 八咫烏様だ!」



 綾音が寮の玄関から外へ出た瞬間、陽の光が遮られた。

 三本足の黒い巨影が、空からゆっくりと舞い降りてくる。



「そりゃ、そうさ。

 封印対象一桁だよ? 上も焦るさ」



 その風を切る音の中、軽い言葉が混じる。


 巨影の背に、人影がある。

 八咫烏の羽ばたきに揺れながらも、そこに立つ姿は一切ぶれていない。


 綾音は、息をのんだ。

 それは、陰陽寮の最上位に位置する退魔師の青年だった。



「さあ、乗って」



 そう言われても、足がすぐには動かなかった。


 畏怖が先に立つ。

 巨影『八咫烏』は、日本の有史以来、指針と国防を担ってきた『象徴』だ。


 ただの移動手段ではない。

 歴史そのものに等しい。


 自分なんかが乗っていいのか。

 その思いだけが、胸の奥に重く沈んでいた。



「はい」



 しかし、自分の生まれ育った神社が気になる。

 綾音は、羽を畳んで身を縮めてくれた八咫烏に、スカートの裾を押さえながら乗った。



「キャっ!?」



 八咫烏が羽ばたき、風が舞う。



「はっはっ! 座っていたほうがいいよ!」



 次の瞬間、体がふわりと持ち上がった。

 地面が、みるみるうちに遠ざかっていく。



「そ、そうします!」



 視界が一気に開け、世界の高さが変わった。

 綾音は、スカートの裾を押さえながら、八咫烏の背にしっかりと座り直す。



(……体育用のショートパンツ、履いてくるべきだった)



 そんな場違いな後悔だけが、一瞬だけ頭をよぎった。



「さて、高さはこれくらいでいいだろう。

 急ぐから、快適な旅とは言えないよ?」



 八咫烏の羽ばたきが、大きくなる気配がした。



「覚悟してます! 飛ばしてください!」



 風圧が一段強くなり、長い髪が真後ろへと激しく引かれるように靡く。

 頬に当たる空気が痛いほど鋭くなり、綾音は奥歯を噛みしめた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ