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俺、いきなり千年妖狐の主様になった件  作者: 浦賀やまみち
第一章 コーン!

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第03話 主様と妖狐




「ごめん……。俺の親友たちよ」


「あの日、誓いあった童貞の約束……。」


「俺……。先に卒業しちゃったよ。

 大人になっちゃったよ」



 ゆらゆらと灯明の明かりが揺れる。

 俺は布団に寝そべり、本殿の天井をぼんやりと眺めていた。



「甘露じゃ……。甘露じゃった」



 胸の上では、獣耳の女がとろけるような表情でまどろんでいる。


 互いの体温を、直に感じる距離。

 動画の向こう側にしかなかったそれを、今夜、俺は知ってしまった。



「なあ……。」

「何じゃ?」



 気恥ずかしくて、目を合わせることが出来ない。

 天井を眺めたまま声をかけると、獣耳の女が、ゆっくりと顔を上げた。



「名前、教えてくれよ。ここまでしちゃったんだしさ」

「呆れたのぉ……。

 事の始めに、ちゃんと言ったじゃろうが?」



 大きな溜息。

 間近で吹かれ、胸がこそばゆい。



「えっ!? そうだったっけ?」



 記憶を探ってみるが、まったく思い出せない。

 覚えているのは、儀式のあと、彼女にまとわりつかれたこと。それだけだ。


 それを努めて無視し、宮司さんが出前を取ってくれた寿司を夕食に食べた。

 その後、泊まっていくことになり、宮司さんの案内で本殿へ通された。


 一つの布団に、二つの枕。

 その意味不明さに戸惑っているうちに、本殿の扉が閉められたところで、俺の記憶は途切れている。



「まあ、主様は妾の肌を見た途端、ケモノになったからの」



 そう、気づけば、俺はケモノになっていた。


 だって、仕方がない。


 階段で見えてしまった女子の後ろ姿。

 その一瞬の白が、どうしても目に焼き付いてしまう。

 帰宅してからも、思い出しては悶々としてしまう。


 そんな多感な十四歳なんだもん。

 白の先が目の前にあったら、当然ケモノと化すに決まっている。


 俺は衝動のまま、獣耳の女を貪ってしまった。

 獣耳の女も、そんな俺を喜んで受け入れ、応じてくれた。



「ふふっ……。ケモノは、妾のほうなのに……。

 わっはっはっ! 妖怪ジョークじゃ! 笑ってもよいぞ!」



 親父ギャグだ。

 まとわりついていた時から感じていたが、この獣耳の女、妙にセンスが古い。


 

「あははは……。」



 俺は顔を引きつらせながら、愛想笑いを浮かべた。


 だが、その直後。



「いや、待って? 妖怪? 妖怪って、なに?」



 引っかかりを覚える。


 しかし、目の前の女には、金色の獣耳とふさふさの尻尾があった。

 どう見ても、『妖怪』としか言いようがない。


 思わず、人間ならそこに耳があるはずの位置へと両手を伸ばす。



「……な、何じゃ?」



 だが、サイドヘアの奥には何もない。

 両手はそのまま上へと伸び、女の頭にぴょこんと生えた獣耳へと向かう。



「こ、こぉーん……。

 よ、止さぬか。そ、そこは敏感なのじゃ……。」

「ご、ごめん!」



 獣耳の女が甘く鳴き、身体をビクッと震わせた。

 俺は慌てて手を引っ込める。



「まったく……。あの鼻垂れの説明も聞いておらんかったのか?」

「鼻垂れ? 宮司さんのこと?」

「そうじゃ、昔よく青っ鼻を垂らして……。」



 獣耳の女は上半身をゆっくりと起こした。

 その動きにつられるように、視線が自然と上へ向く。


 惜しげもなく晒される張りのある胸。

 当然、俺の目は釘付けだ。



「んんっ?」



 獣耳の女の眼差しが、俺に落ちた。



「主様よ……。お主は意味もわからず、妾を抱いたのか?」

「あっ!? いや、その……。まあ……。うん……。」



 言葉に詰まり、視線も泳ぐ。



「なるほど、妾の美貌にころりときたな?」

「……そ、そうだね」

「ういやつじゃ! ういやつじゃ!」



 獣耳の女はクスリと笑い、腰をもぞもぞと左右に振った。

 それに合わせて、胸もわずかに揺れる。



「あうっ……。」



 視線にも感覚にも刺激を受けて、思わず身体が反応してしまう。



「ふふっ……。夜は長い。

 どれ、今度は妾のほうが……。」



 獣耳の女が唇を舐め、ニヤリと妖しく笑う。

 腰を軽く上げると、その白い手が、俺の下腹部へと伸びた。



「ま、待って! ま、待って、待って!

 に、二回戦突入は、大歓迎するけど、その前にちゃんと説明して!」



 俺は慌てて両手を突き出し、彼女の動きを制止する。



「説明も何も……。もう感じておるだろ?」



 獣耳の女は不思議そうに首をかしげる。



「……何が?」

「惚けるでない。

 先ほど、主様が達し、妾が達したとき、繋がったじゃろ?」



 その言葉に、胸の奥がざわついた。



「ええっと?」



 確かに、先ほどから、自分の中で何かが違っている気がしていた。



 しかし、それは童貞を失った証。

 大人の階段を上った、その達成感だと思っていた。



「なら、ほれ」



 獣耳の女が、俺の手に指を絡め、そっと握った。



「あっ!?」



 その瞬間。

 獣耳の女から、『何か』が流れ込んできた。


 それは俺の中でしばらく渦を巻いたあと、再び彼女のもとへと戻っていく。



「妖力……。あるいは霊力や呪力とも呼ばれるものじゃ」



 そして、その『何か』は、俺の中にも元々あるものだと気づく。


 俺と獣耳の女を繋ぎ、ぐるぐると巡り続けている。

 互いの欠けた部分を埋めるように、補い合うように、行き来していた。



「……なんだよ、これ」



 震える目で、自分自身の両手を見た、その瞬間。

 


 シャリン、シャリシャリシャリ、シャリーン。



 頭の中で、小さな鈴の音がいくつも響いた。



「……な、なんだ?」



 思わず目を見開き、上半身を勢いよく起こす。


 

「くふっ……。」



 灯明の明かりがふっと消えた。


 

「主様、睦み合いはあとじゃ。

 敵が来たぞ」

「はっ!? ……て、敵?」



 暗闇の中に、金色の瞳が輝いている。

 ぞくり、と背筋が震えた。




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