【閑話】偶然の出会いは必然だった
偶然の出会いは、必然だった。
ある日。
瑠璃が、何気なく話し始めた。
「以前、普段使わないドラッグストアに行って……」
「目にゴミが入ってて、棚の上の方は涙で滲んで、全然見えなかったんです」
景は、何も言わず耳を傾ける。
「目薬がどこの棚かわからなくて、ずっと探してたんですけど……」
瑠璃は、その時のことを思い出すように、小さく笑った。
「全然見えなくて、困ってたら――」
「そしたら、近くにいた人が、棚の上の方で取ってくれて……」
「これだろう?って手渡してくれたんです」
景の指先が、ぴくりと止まる。
瑠璃は、気づかないまま続けた。
「私はその人の、手元だけ見えて……」
「全然迷わないで、堂々と買うんだって思って」
「私は、多分あんな風に買えない」
俺は何も言わない。
あの日。
確かに、こちらは迷わなかった。
必要だから買う。
ただそれだけだった。
だが。
瑠璃は、そんな所を見ていたのか……。
「……瑠璃」
「はい?」
「それ、俺だ」
瑠璃の動きが、ぴたりと止まる。
「……えっ?」
俺は、静かに視線を向けた。
「以前、言っただろう?お前を見つけたのは、もっと前だと」
瑠璃は、完全に固まっている。
俺は小さく息を吐いた。
「目が真っ赤だった」
「それでも、平気な顔をしていた」
「放っておけなかった」
普段なら、関わらない。
そういう性分だ。
……だが、あの日だけは違った。
瑠璃は、何も言えないまま。
ただ、俺を見つめていた。
そして、
「……知らなかった」
小さく、そう呟いた。
俺は、何も言わず立ち上がる。
そのまま主寝室へ入り、すぐに戻ってきた。
手には、小さな箱。
瑠璃が、不思議そうに瞬きをする。
俺は、当然のように瑠璃の隣へ腰を下ろした。
「け、景さん?」
少しだけ身を強張らせる瑠璃へ、静かに身体を寄せる。
耳元へ、低い声が落ちた。
「——まだ、未開封だ」
瑠璃の思考が、数秒止まる。
「…………え?」
俺は小さく笑った。
そして、手の中の箱を見せる。
以前、瑠璃が薦めた目薬。
確かに、まだ開けられていない。
「あ……」
一気に、瑠璃の顔が赤くなる。
——案の定だ。
瑠璃の反応に口元が緩む。
「だって、景さん今……」
「何だ?」
「言い方が……」
分かっていて、あの言い方をした。
こんな顔をされるなら、悪くない。
あまりにも、可愛い。
理性より先に体が動いた。
気づけば唇が触れていた。
小さくリップ音を鳴らし、ゆっくり離れた。
「開封するか?」
瑠璃は、顔を真っ赤にしたまま視線を逸らす。
「……目薬、注しましょうか?」
「……それも、いいな」
そのまま、瑠璃の膝へ頭を預ける。
「ん……」
冷たい雫が落ちる。
少し溢れた目元を、瑠璃が慌ててティッシュで押さえた。
「はい、おしまい」
覗き込む顔が、近い。
景は、そのまま腕を引いた。
今度は、先程より深く口付ける。
息が混ざる。
離れ際。
耳元へ、囁く。
「——開封するか?」
瑠璃の視線が、無意識に寝室の方へ向く。
腕の中の身体が、びくりと震える。
真っ赤な顔のまま、何も言えない。
俺はそんな顔を見つめて……。
数秒後。
小さくため息を吐いた。
「……駄目だな」
「景さん……?」
「その顔をされると、本当に止まれなくなる」
額へ、軽く口付ける。
「今日はここまでだ」




