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『異世界転生した俺、スライム蹴ったら国家災害扱いでした〜常識バグ世界で俺だけルール外〜』  作者: 関澤諭


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第26話 実行するしかない理由

 距離は、もう十分に詰まっていた。


 黒い塊は、完全に地表へ姿を現している。形は定まらないが、確実に“こちらを認識している”ことだけは分かる。近づくほどに圧が強くなるのに、不思議と後退しようとは思わなかった。


 理由は単純だ。


 これは、外から来たものではない。


 自分が引き寄せたものだ。


***


「確認するけど」


 ミラが静かに口を開く。


 さっきまでの軽さはない。だが深刻すぎるわけでもなく、ただ純粋に“状況を把握しようとしている声”だった。


「今の状態で触れるっていうのは、“制御したまま処理する”んじゃなくて、“処理しながら制御を成立させる”ってことになるよね?」


***


「そうなるな」


 ユウトは視線を外さずに答える。


 言葉の意味は正確だった。順序が逆になっている以上、安定した結果は期待できない。


***


「つまり、普通にやるより難易度が上がってる」


***


「かなりな」


***


「成功率は?」


***


「考えてない」


***


 ミラは一瞬だけ黙った。


 その沈黙は驚きではなく、確認だった。


***


「考えないっていうのは、“低すぎて意味がない”ってこと?」


***


「違うな。“判断に使えない”ってだけだ」


 ユウトはわずかに息を吐く。


「成功率を出したところで、その数値で動きを変える余地がない。だったら最初から切り捨てた方がいい」


***


「合理的だけど、だいぶ危ない考え方だね」


***


「今さらだろ」


***


 ミラは小さく笑ったが、それ以上は何も言わなかった。


 納得したわけではない。ただ、“それで進む前提”を受け入れただけだ。


***


 リゼリアが一歩前に出る。


 黒い塊との距離を測るように、静かに立ち位置を変える。


***


「一つ確認します」


***


「何だ」


***


「接触した瞬間、こちらが介入する余地はありますか」


***


 いい質問だった。


***


「ほぼない」


 ユウトは即答する。


「始まったら最後まで一人でやるしかない」


***


「では、接触前が最後の調整になりますね」


***


「そういうことになる」


***


 短いやり取りだったが、意味は重い。


***


「つまり」


 ミラが言葉を繋ぐ。


「今この瞬間が、一番安全ってことになる」


***


「相対的にはな」


***


「その“相対的”っていうの、全然安心できないんだけど」


***


「安心するためにやるわけじゃない」


***


 ユウトはそう言って、一歩踏み出す。


***


 黒い塊が、わずかに揺れる。


 反応している。


***


「最後に聞く」


 ミラが言う。


***


「止めるっていう選択、まだ残ってる?」


***


 ユウトは少しだけ考える。


***


「残ってる」


***


「え」


 予想外だったのか、ミラの声がわずかに揺れる。


***


「残ってるけど、選ばないだけだ」


***


「理由は?」


***


「ここで止めたら、“この状態のまま残る”」


 視線を地面へ落とす。


「それを後で処理する方が、今やるより難しい」


***


 ミラはしばらく何も言わなかった。


 考えている。


 否定ではなく、理解のために。


***


「……確かに」


 ようやく、そう呟く。


***


「じゃあ結論は一つだね」


***


「最初からそう言ってる」


***


 ユウトは手を伸ばす。


***


 距離は、もうない。


***


 触れるだけだ。


***


「一応言っておくけど」


 ミラが言う。


***


「成功したら、あとでちゃんと説明してね」


***


「できたらな」


***


「できなかったら?」


***


「その時は、説明いらないだろ」


***


 ミラは少しだけ目を細めた。


 それ以上は何も言わない。


***


 ユウトは、そのまま手を押し込む。


***


 触れる。


***


 瞬間。


***


 流れが、反転する。


***


 引き寄せていたものが、一気に内部へ流れ込む。


 だが今度は、“溜まる”のではなく、“構造が崩れる”。


***


 黒い塊が、揺らぐ。


***


 ただ壊れるのではない。


 意味が変わる。


***


 存在の“定義”が、書き換わる。


***


 ユウトは、その変化を押し切るように力を流し込んだ。


***


 戻れない。


 だが、止める必要もない。


***


 ここで終わらせる。


***


 その意思だけが、最後まで残っていた。

「ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は“実行するしかない状況で、あえて実行を選ぶ”回でした。

止める選択肢は残っているのに、それを選ばない。

その理由が“今やる方がまだマシ”という判断にある以上、この時点で後戻りはできません。

そして接触の瞬間で、すべての条件が揃いました。

ここから先は結果だけが残ります。

最後まで見届けていただけたら嬉しいです。」

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