第25話 止めるという判断が一番遅かった
止まらない、という言い方は正確ではない。
ユウトはそう思った。
正確に言えば、止めるタイミングを逃しただけだ。
もっと早い段階で手を離していれば、この状態にはならなかった。違和感はあった。流れが抜けないことにも気づいていた。それでも続けたのは、「まだ制御できる範囲だ」と判断したからだ。
つまり――判断ミスだ。
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「一つ確認したいんだけど」
ユウトは誰にともなく口にする。
返事を期待しているわけではない。ただ、言葉にして整理したかった。
「今のこれ、止めるっていう選択肢は、まだ現実的に残ってると思うか?」
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少しだけ間があった。
その“間”で、答えはほぼ決まっている。
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「残っていません」
リゼリアの声は、いつも通り無駄がなかった。
余計な前置きも、曖昧な表現もない。
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「だよな」
ユウトはあっさり頷く。
納得というより、確認が終わっただけだ。
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「じゃあ次」
今度はミラの方を見る。
「このまま続けた場合、結果はどうなると思う?」
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質問の形をしているが、内容はほぼ決まっている。
ただ、自分以外の視点が欲しかった。
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「単純に言えば、拡大するね」
ミラは少しだけ考えてから答える。
「しかも、さっきまでみたいに“外に広がる”んじゃなくて、下に向かって集まってる」
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「集まった先は?」
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「もう見えてるでしょ」
ミラは視線だけで地面を示す。
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ひび割れの奥で、黒いものが動いている。
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「……つまり、起こしてるわけか」
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「かなり効率よくね」
ミラは軽く言う。
皮肉なのか、本気なのか分からない言い方だった。
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「効率の話は今しなくていい」
ユウトは小さく息を吐く。
「問題は、その“起きるもの”に対して、こっちが対応できるかどうかだ」
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「対応する気はあるんだ」
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「原因がこっちだからな」
それ以上でも、それ以下でもない理由だった。
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「なるほどね」
ミラは納得したように頷く。
「じゃあ質問変える」
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「まだあるのか」
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「あるよ。これ重要だから」
軽く言い切る。
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「今の状態って、“制御してる”って言える?」
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少しだけ考える。
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「言えないな」
即答ではなかったが、結論は早かった。
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「でも、暴走してるわけでもない」
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「中途半端だね」
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「一番まずい状態だ」
ユウトは苦笑する。
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「じゃあさ」
ミラが少しだけ声を落とす。
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「その中途半端な状態のまま、本体に触ったらどうなると思う?」
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いい質問だった。
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「……上書きできるか、飲み込まれるかのどっちかだな」
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「確率は?」
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「知らん」
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「正直でいいね」
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「嘘つく意味もないだろ」
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その時。
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ドクン。
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下から、明確な反応。
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地面が持ち上がる。
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もう隠れていない。
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「……時間切れか」
ユウトはそう呟く。
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「どうするの?」
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ミラは聞く。
判断を委ねる形ではない。ただ、確認しているだけだ。
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ユウトは一度だけ考える。
選択肢は整理済みだ。
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逃げる → 問題の先送り
封じる → 再発の可能性
消す → リスク最大
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なら。
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「書き換える」
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答えはそれだった。
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「ずいぶん断定するね」
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「他よりマシだ」
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「成功する保証は?」
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「ない」
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「でもやるんだ」
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「やるしかない」
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短い会話だったが、結論は揺れなかった。
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ユウトは前に出る。
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黒い塊が、ゆっくりと姿を現す。
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圧が強い。
だが、理解はできる。
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これは“未知”じゃない。
自分が引き寄せたものの集合体だ。
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「……じゃあ終わらせるか」
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ユウトは、そのまま手を伸ばした。
「ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回は“止めるタイミングを逃した結果、最悪の形で本体を引き上げてしまう”回になりました。
気づいていても止めない、という選択がどれだけ危険か。
そのツケをここから回収していくことになります。
ここから先は、単純な対処では終わらなくなります。
続きを読んでいただけたら嬉しいです。」




