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『異世界転生した俺、スライム蹴ったら国家災害扱いでした〜常識バグ世界で俺だけルール外〜』  作者: 関澤諭


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第27話 終わったあとに残るもの

 最初に戻ってきたのは、音だった。


 それまで完全に消えていたものが、ゆっくりと輪郭を取り戻していく。崩れた土の落ちる音、遠くで何かが軋む音、自分の呼吸の音。


 どれも当たり前のはずなのに、妙に遠く感じられた。


***


 ユウトはしばらく、その場から動かなかった。


 動けなかったわけではない。ただ、“今動くべきかどうか”の判断が、うまくつかなかった。


 さっきまで確かにそこにあった黒い塊は、もう存在していない。


 跡も、気配も、残っていない。


***


 終わった。


***


 頭ではそう理解している。


 だが、それを実感として受け入れるには、少し時間が必要だった。


***


「……一つ聞いていい?」


 背後から、ミラの声がする。


 近づいてくる足音はあるが、距離は保っている。


 不用意に近づかないあたり、状況をきちんと見ている。


***


「何だ」


 ユウトは振り返らずに答える。


***


「今のって、“消した”っていう認識でいいの?」


***


 いい質問だった。


***


「違うな」


 少し考えてから答える。


「消したんじゃない。“ああならない状態にした”」


***


 言いながら、自分でもその表現が一番しっくりきていると感じる。


***


「存在をなくしたわけじゃないけど、同じ形ではもう出てこない、みたいな?」


***


「そんな感じだな」


***


 ミラは少し黙る。


 理解しようとしている。


***


「それってさ」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「かなり危ないことやってない?」


***


「やってる」


 ユウトは即答する。


***


「即答なんだ」


***


「迷う理由がない」


***


 ミラは小さく息を吐いた。


 呆れているわけではない。


 納得している。


***


「じゃあ次」


***


「まだあるのか」


***


「あるよ、これ一番大事」


***


 少しだけ間を置く。


***


「それ、もう一回できる?」


***


 ユウトは答えなかった。


 答えを持っていないわけではない。


 ただ、そのまま口に出すのが少しだけ面倒だった。


***


「できるかどうかで言えば、できる」


 ようやく言う。


***


「でも、やる気はない」


***


「理由は?」


***


「二回目は“同じ結果になる保証がない”」


***


 ミラは頷く。


 すぐに理解した。


***


「一回目が成功だったかどうかも、まだ確定してないってことだね」


***


「そういうことだ」


***


 リゼリアが近づいてくる。


 足音が正確だ。


 状況が落ち着いたと判断したのだろう。


***


「周囲の反応は消失しています」


 淡々と報告する。


「再発の兆候も、現時点では確認できません」


***


「“現時点では”か」


***


「はい」


***


 曖昧ではないが、確定でもない言い方だった。


***


「妥当な表現だな」


 ユウトは小さく頷く。


***


「つまり結論としては」


 ミラがまとめるように言う。


***


「とりあえず終わったけど、完全に終わったとは言い切れない」


***


「そんなところだ」


***


「すごく安心できないまとめ方だね」


***


「安心するためにやったわけじゃない」


***


 ユウトはその場に腰を下ろした。


 ようやく力が抜ける。


***


 身体が重い。


 さっきまでの感覚が、完全には抜けていない。


***


「ねえ」


 ミラが少しだけ声を落とす。


***


「さっきの、どういう感じだった?」


***


 ユウトは少し考える。


 言葉にするのが難しい。


***


「……書き換えた」


***


「それは分かる」


***


「じゃあそれ以上は説明できない」


***


 ミラは笑う。


***


「雑だね」


***


「そういう能力だからな」


***


 少しだけ沈黙が落ちる。


***


 静かだった。


 さっきまでの異常が嘘のように。


***


「……まあでも」


 ミラがぽつりと言う。


***


「終わったなら、それでいいか」


***


「珍しく雑だな」


***


「ユウトさんに言われたくない」


***


 ユウトは小さく息を吐く。


***


 完全に解決したわけではない。


 問題が消えた保証もない。


***


 だが――


***


 ここで一度、区切りはついた。


***


 それで十分だと思った。


***


 ユウトはゆっくりと立ち上がる。


***


「帰るか」


***


「やっと?」


 ミラが言う。


***


「長かったな」


***


「原因、半分くらいユウトさんだけどね」


***


「半分で済むなら安いもんだ」


***


 そう言いながら、歩き出す。


***


 地下は、もう静かだった。


***


 だが――


***


 完全に“元通り”ではないことを、ユウトだけは理解していた。


***


 自分の中に、何かが残っている。


***


 それが何なのかは、まだ分からない。


***


 だが、それもいずれ分かるだろう。


***


 今は――


***


 ただ、終わったという事実だけで十分だった。

「ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

すべてが解決したわけではありません。

残ったものもありますし、変わってしまった部分もあります。

それでも、この選択で一区切りはつきました。

この先がどうなるのかは、また別の話になると思います。

最後まで付き合っていただき、ありがとうございました。」

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