倒したはずなのに空気が微妙に重いままで誰も触れたがらない件
静かだった。
さっきまであれだけ騒がしかった地下が、嘘みたいに落ち着いている。
崩れた地面。えぐれた跡。粉塵の匂い。
そして――
何もいない。
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「……終わった、よな?」
誰にともなく言う。
確認したいだけだ。
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「終わりました」
リゼリアが答える。
即答だった。
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「本当に?」
間を置いて、もう一度聞く。
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「……終わっています」
さっきより少しだけ間があった。
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「今の“……”は何?」
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「余韻です」
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「便利な言葉使うな」
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沈黙。
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誰も動かない。
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「……なあ」
もう一度口を開く。
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「帰っていい?」
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「ダメです」
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食い気味だった。
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「理由くらい聞いてもいい?」
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「不安要素が残っています」
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「それ俺?」
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「はい」
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間がなかった。
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「……なるほど」
納得したくないのに、妙に納得してしまう。
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「安心してください」
リゼリアが続ける。
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「監視しますので」
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「安心できる要素どこ?」
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横から、ミラが一歩出る。
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「でもさ」
妙に軽い声だった。
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「さっきの、すごかったよね」
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「どの辺が?」
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「全部」
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ざっくりしすぎて逆に何も分からない。
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「いや具体的に」
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「うーん」
ミラが少し考える。
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「“普通に触って全部持ってく”感じ?」
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「その説明が一番怖い」
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「でも合ってる」
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「合ってるのが問題なんだよ」
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ミラは満足そうに頷く。
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「あとね」
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「まだあるのか」
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「ユウトさん、さっきちょっとだけ“分かってた”でしょ?」
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「……何を」
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「どこ叩けばいいか」
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少しだけ、間が空く。
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「……まあ、なんとなく」
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「なんとなくであれやるの?」
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「やるしかなかったんだよ」
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「それができる時点で普通じゃない」
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「それは知ってる」
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会話が一周した気がする。
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そこで、筋肉男が口を開いた。
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「結論から言う」
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「急にまとめに入るな」
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「お前は危険だ」
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「知ってる」
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「だが使える」
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「その言い方やめろ」
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「なので」
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ほんの少し、間があった。
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「同行してもらう」
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「拒否権は?」
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「ない」
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「聞く意味あった?」
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ミラが笑う。
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「いいじゃん」
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「何が」
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「面白くなりそうだし」
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「お前の基準で物事決めるな」
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「だってもうなってるよ?」
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少しだけ、言葉に詰まる。
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「……否定できないのが嫌だな」
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「でしょ?」
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ミラは満足そうだった。
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リゼリアが静かに言う。
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「決まりです」
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「いや勝手に決めるな」
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「安全のためです」
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「誰の?」
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「周囲の」
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「やっぱ俺じゃねぇか」
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短い沈黙。
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誰も否定しなかった。
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「……帰りたい」
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「帰れません」
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「だよなぁ」
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ため息をつく。
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その時。
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ミラがぽつりと呟いた。
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「でもさ」
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「何」
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「さっきの、“全部吸うやつ”」
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嫌な予感がする。
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「……あれ」
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「まだ完全に止まってないよね?」
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空気が、少しだけ重くなった。
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「……は?」
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誰もすぐに答えなかった。
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ただ。
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足元の空気が、ほんのわずかに揺れた気がした。
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「……なあ」
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ゆっくり口を開く。
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「これ、終わってないパターン?」
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ミラは少し考えてから、にこっと笑った。
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「終わってたら、もっと安心してると思う」
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「その基準やめろ」
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その日。
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“終わったはずの場所”で、
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誰も完全には安心していなかった。
***
「……寝かせてくれ」
それだけが、本音だった。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は少し落ち着いた…と思いきや、やっぱり落ち着いていませんでした。
会話の温度差やズレも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
そして、まだ何かが終わっていない気配も……。
ここからどうなっていくのか、ぜひ続きも読んでいただけたら嬉しいです!
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