第2話 王国に連行されたら、なぜか最重要危険人物扱いでした
「――連行しろ」
低く、よく通る声だった。
「え?」
間の抜けた声が出る。
気づけば、俺は完全に囲まれていた。鎧に身を包んだ兵士たちが、半円を描くようにこちらを取り囲んでいる。先ほどの兵士とは明らかに雰囲気が違う。隙がない。
その中心に立つのは、黒いマントを羽織った男だった。鋭い目つきと無駄のない立ち姿。いかにも“偉い人”という圧がある。
「抵抗はするな。下手に動けば、その場で討伐対象とする」
「いや待って」
話が早すぎる。
「俺、ただスライム蹴っただけなんだけど」
「……ほう」
男の目が細くなる。
「つまり貴様は、“意図していない”と?」
「そう、それ」
必死に頷く。
「なお悪いな」
「なんで!?」
納得がいかない。俺が一番納得してない。
***
結論から言うと――俺はそのまま王都へ連行された。
縄で縛られてはいない。だが、それ以上に逃げられない空気がある。周囲の兵士たちは妙に距離を取っていて、近づこうとしない。
「……なんでそんな離れてるの?」
「巻き込まれたくないからだ」
「巻き込まないよ!?」
何に巻き込まれる前提なんだ。
***
数時間後、視界に巨大な城が現れた。
「うわ……」
思わず声が漏れる。
白い石壁に高く伸びる塔。堀にかかる橋。そのすべてが、いかにも“王城”という雰囲気を放っていた。
「おい、浮かれるな」
「いや無理でしょこれは」
テンションが上がらない方がおかしい。
だが、周囲の兵士たちは誰一人として表情を崩さない。その緊張感だけが、この状況の異常さを際立たせていた。
***
通されたのは、広い謁見の間だった。
赤い絨毯がまっすぐに伸び、その先には玉座がある。
「……報告は受けている」
威厳のある声が響く。
王様だ。どう見ても王様だ。
「災厄級スライムを消滅させ、古代種ドラゴンを一撃で屠った、と」
「いや、そこまで大げさじゃ――」
「事実だ」
即座に遮られる。
信用されていないのか、されすぎているのか分からない。
「名は?」
「えっと……」
一瞬、言葉に詰まる。
「佐藤悠斗です」
「サトウ……ユウト……異世界の名か」
「まあ、そんな感じです」
完全に否定できないのが辛い。
***
「単刀直入に聞こう」
王の視線が鋭くなる。
「貴様は何者だ」
「だから一般人――」
「嘘をつくな」
間髪入れずに否定された。
「一般人が国を滅ぼす魔獣を蹴り飛ばすか」
「俺もそう思う」
心から同意する。
だが、それが余計に疑いを深めたらしい。空気が一段重くなる。
***
「……鑑定を行う」
王の一言で、場の空気が変わる。
横に控えていたローブの女性が前に出た。整った顔立ちと、静かな威圧感。いかにも魔法使いといった雰囲気だ。
「失礼します」
彼女が手をかざす。淡い光が俺を包み込む。
「――ステータス開示」
少しだけ期待が湧く。
だが、その期待はすぐに崩れた。
「……え?」
女性の表情が固まる。
「どうした」
「い、いえ……その……」
明らかに様子がおかしい。
「……レベル、1です」
「ほう」
「スキルは……ありません」
沈黙。
重い沈黙。
俺が一番困惑している。
「つまり、“何も持たずにあれをやった”と」
「だからそう言ってるじゃん!」
ようやく理解されたと思ったのに。
「ますます危険だな」
「なんでだよ!」
納得いかない。
***
「ちょっと待ってください!」
魔法使いの女性が声を上げた。
「この人、おかしいです!」
「知ってる」
「そういう意味じゃなくて!」
ツッコミが鋭い。
「理論が成立しません……魔力反応がほぼゼロなのに、出力だけが異常……」
「ごめん全然わからない」
「でしょうね!」
即答だった。
***
「……この者は危険人物ではありません」
女性は一歩前に出る。
「ほう」
「“理解不能な存在”です」
「余計悪いわ!!」
思わず叫ぶ。
その瞬間、足が床に触れた。
――ビキィィィィィィィン!!
床が割れた。
謁見の間の床が、蜘蛛の巣のようにひび割れる。
完全な沈黙。
誰も動かない。
「……な?」
俺は恐る恐る言う。
「俺、何もしてないでしょ?」
誰も答えなかった。
***
その日、王国は確信した。
この男は――制御不能の災害である、と。
そしてその中心で、俺はただ一人、
「……いやマジで何これ」
状況を理解できずにいた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!
主人公、何もしていないのに危険人物扱いされ始めました(笑)
この先もどんどんやらかしていくので、楽しんでいただけたら嬉しいです!
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