第18話 人型が出てきたんだが完全にヤバいやつで笑えない
“それ”は、ゆっくりと首を傾けた。
人の形をしている。だが、どう見ても人間じゃない。黒い光で構成された身体は輪郭が曖昧で、そこに質量があるのかどうかすら分からない。
なのに――存在感だけは、やけに重い。
視線が合う。
ぞわりと、背筋に冷たいものが走った。
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空気が変わる。
さっきまでの重さとは別の、“圧”がじわじわと周囲を満たしていく。肺に空気が入りにくい。呼吸するだけで、妙な抵抗を感じる。
嫌な予感しかしない。
というか、ここまで来ると“嫌な予感”というより“確信”だ。
――これは、絶対やばい。
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「……なあ」
無理やり声を出す。
「これ、逃げたらダメなやつだよな?」
分かっている。分かっているが、確認しないと精神が持たない。
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「ダメです」
リゼリアが即答した。
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「だよなぁ……」
知ってた、という気持ちと、やっぱりか、という絶望が同時に押し寄せる。
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そのやり取りを、“それ”はじっと見ていた。
まるで、こちらの反応を観察しているように。
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ドクン。
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黒い核が脈打つ。
その瞬間――
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消えた。
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「……は?」
視界から完全に消失する。
音も、気配もない。
だが。
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来る。
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そう理解した直後。
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ドンッ!!
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「ぐっ……!?」
横から衝撃。
身体が弾き飛ばされる。地面を転がり、土埃が舞い上がる。
遅れて痛みが走る。
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「速っ……!」
いや違う。
速いとかじゃない。
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見えてない。
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「……これ、反応ゲーじゃなくて理不尽ゲーじゃない?」
思わず本音が漏れた。
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立ち上がる。
視線を巡らせる。
どこだ。
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――いた。
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目の前。
数歩先に、“それ”が立っている。
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「……近いな!?」
いや、近いとかそういう問題じゃない。
さっき殴られたばかりなのに、もうこの距離にいるのがおかしい。
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反射的に手を上げる。
防御とかじゃない。
ただ、“触る”。
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ドォンッ!!
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衝撃。
だが――
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「……消えない?」
違和感。
さっきまでと違う。
確かに当たっている。だが、“消える”感覚がない。
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黒い身体が歪む。
表面が削れるように崩れ、光が散る。
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「……効いてる」
ミラの声が飛ぶ。
妙にテンションが高い。
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「完全には消えてないけど、“削れてる”!」
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「削れてるって何だよ……新品じゃなくなったみたいに言うな」
思わずツッコむ。
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だが、その意味はすぐ理解した。
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ドクン。
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核が脈打つ。
削れた部分が、何事もなかったかのように戻る。
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「……再生機能付きかよ」
しかも高速。
クソ仕様すぎる。
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「ユウト!」
リゼリアの声が鋭く飛ぶ。
「核を狙ってください!」
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「それ早く言え!!」
ツッコミながらも、視線は奥へ向いていた。
黒い核。
あれが本体。
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だが。
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人型が、前に出る。
道を塞ぐ。
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「……ああ、そういうタイプか」
理解した。
ボスの前に立つ中ボス的なやつだ。
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「いや普通逆だろ。ボスが出てきてから取り巻きじゃないのかよ」
どうでもいいところが気になった。
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だが、そんなことを考えている間にも。
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来る。
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今度は見ようとする。
気配。
空気の歪み。
わずかなズレ。
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「……そこ」
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勘で手を出す。
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ドンッ!!
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当たった。
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人型が弾かれる。
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「……なるほど」
息を整える。
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「消えてるんじゃなくて、“速いだけ”か」
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「気づくの遅い!」
ミラのツッコミ。
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「うるせぇ!」
こっちは今必死だ。
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だが――見えるなら話は別だ。
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「……ちょっとだけな」
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手を握る。
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ドクン。
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自分の中でも、何かが脈打つ。
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空気がざわつく。
周囲の“何か”が、手の中に集まってくる。
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「ユウトさんそれやばいやつ!」
ミラが叫ぶ。
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「分かってる!」
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分かってるが――
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「やらないと終わらねぇだろ!!」
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踏み込む。
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その日、村の地下で――
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“何か”が、確実に噛み合い始めた。
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「……これ、あとで絶対怒られるやつだな」
心の底からそう思った。
だが、今はそれどころじゃなかった。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついに人型との戦闘に入りました。
明らかに今までとは違う相手ですが、主人公もちょっとずつおかしな方向に進み始めています(笑)
この先どうなっていくのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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