第13話 宴のはずなのに距離が縮まらないんだが
夜の村は、昼間とは別の顔を見せていた。
焚き火がいくつも焚かれ、橙色の光が家々の壁を柔らかく照らしている。大きな鍋からは湯気が立ちのぼり、香ばしい匂いが風に乗って流れてきた。
笑い声も戻っている。
――ただし。
その輪の中心に、俺はいない。
***
「……なんでだよ」
少し離れた木箱に腰を下ろし、ぼそりと呟く。
視線を向けると、村人たちは楽しそうに談笑している。酒を酌み交わし、子どもたちは走り回っている。
平和だ。さっきまでの恐怖が嘘みたいに。
だが、そのどれもが――一歩引いた場所からの景色だった。
***
「ユウト様」
後ろから声がした。
振り向くと、リタが立っている。両手に皿を持ち、少し困ったように微笑んでいた。
「お食事、お持ちしました」
「ありがとう」
皿を受け取る。焼いた肉と野菜のスープ。素朴だが、湯気と匂いが食欲を刺激する。
ただし。
リタは、皿を渡したあと一歩下がった。
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「……やっぱ距離取るよな」
苦笑する。
「す、すみません……」
「いやいいって」
責める気はない。むしろ普通の反応だと思う。
――分かってはいる。
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「怖い、ですか」
自分から聞いてしまう。
聞かない方がいいと分かっていたのに。
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リタは一瞬だけ迷い、それから小さく頷いた。
「……少しだけ」
正直すぎる答えだった。
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「……だよな」
視線を落とす。
皿の中のスープが揺れ、焚き火の光が揺らめいて映る。
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「ですが」
リタが続ける。
「助けていただいたのは、本当です」
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その言葉は、まっすぐだった。
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「……難しいな」
思わず漏れる。
怖がられている。でも感謝もされている。
どっちも本音だ。
***
「人間関係って、こんなに面倒だったっけ」
前世の記憶がよぎる。
会社、上司、同僚、距離感。
あの頃も似たようなことを考えていた気がする。
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「……あんまり変わってないな」
苦笑する。
世界が変わっても、面倒なものは面倒らしい。
***
「ユウト」
今度はリゼリアだった。
いつの間にか隣に立っている。
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「少し話があります」
「嫌な予感しかしない」
「的中です」
即答だった。
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リゼリアは周囲を一瞥し、声を落とす。
「今回の件ですが」
「うん」
「まだ終わっていません」
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「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。
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「魔力の流れが不自然に途切れています」
「それ前も聞いた」
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「“消えた”のではなく、“隠れた”可能性があります」
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「……やめて」
本気でやめてほしい。
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「つまり」
筋肉男が横から口を挟む。
「まだ何かいるってことだ」
「帰りたい」
本日五回目である。
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「安心してください」
リゼリアが言う。
「すぐに調査します」
「俺抜きでな?」
「もちろん同行です」
「知ってた」
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逃げ道はない。
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ふと、視線を感じた。
振り向くと、あの少女がこちらを見ていた。
不安そうな、それでいてどこか期待するような目。
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「……分かったよ」
小さく息を吐く。
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「どうせまた俺なんだろ?」
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その言葉に、リゼリアと筋肉男が同時に頷いた。
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「満場一致やめろ」
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その日、村の宴の裏で――
新たな問題が静かに動き始めていた。
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「……飯だけはうまいんだけどな」
俺はスープを一口飲み、ぼそりと呟いた。
温かさが、少しだけ心に沁みた。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!
少しずつ距離は縮まりつつも、まだどこかズレている関係でした。
そして、まだ終わっていない気配も……。
この先どうなっていくのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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