第12話 助けたはずなのに扱いがちょっとおかしいんだが
「――すごい……」
ぽつりと、誰かが呟いた。
その声は小さかったが、やけに耳に残った。
***
村に戻った瞬間、空気が明らかに変わっていた。
さっきまで漂っていた不安や緊張は消えている。代わりにあるのは――妙な静けさだった。
人はいる。だが誰も近づいてこない。
ただ、遠巻きにこちらを見ている。
「……あれ?」
違和感に思わず足を止める。
視線が集まる。
子どもが母親の後ろに隠れ、大人たちは微妙に距離を取っている。
その目に浮かんでいるのは――
明らかに“尊敬”ではなかった。
***
「……えっと?」
どう声をかけるべきか迷っていると、
――スッ。
村人たちが一歩下がった。
***
「なんでだよ!?」
思わず声が大きくなる。
自分でも分かるくらい動揺していた。
***
「す、すみません……!」
少女が慌てて前に出る。
だがやはり距離は近づかない。微妙な間合いを保ったままだ。
「その……助けていただいて、本当にありがとうございます!」
深く頭を下げる。
その言葉自体は素直に嬉しい。だが、どうにも引っかかる。
「いや、それはいいんだけど」
問題はそこじゃない。
むしろ――
***
「なんで距離取るの?」
なるべく穏やかに聞いたつもりだったが、声は少しだけ硬くなっていた。
***
「え、えっと……」
少女が言葉に詰まる。
周囲の村人たちも視線を逸らし、互いに顔を見合わせている。
明らかに答えづらそうな空気だ。
***
「……怖い?」
恐る恐る聞く。
聞きたくはなかったが、確認せずにはいられなかった。
***
その瞬間。
全員が、ほぼ同時に頷いた。
***
「即答かよ!!」
思わず叫ぶ。
迷いすらなかった。
***
「だ、だって……!」
一人の村人が震える声で言う。
「地面が……消えて……」
「魔物も……跡形もなく……」
「しかも一瞬で……」
断片的な言葉が重なる。
***
「……あー」
納得してしまった。
そりゃそうなる。
***
「いや事故だから」
一応フォローしておく。
しておかないとまずい気がした。
***
だが。
全員がさらに一歩下がった。
***
「悪化してるじゃねーか!!」
***
「ユウト」
横からリゼリアが静かに言う。
「少し落ち着いてください」
「俺が!?」
「はい」
理不尽すぎる。
***
「ですが」
リゼリアは続ける。
「恐怖されるのは当然です」
「そんな当然いらない」
***
「普通の人間ではありませんから」
「やめてその言い方」
完全に線を引かれている。
***
「で、でも!」
少女が必死に声を上げる。
「村は本当に助かりました!」
その言葉に、周囲の人々も小さく頷いた。
恐怖の中にも、感謝はあるらしい。
***
「……まあ、それならいいか」
小さく息を吐く。
完全に拒絶されているわけではない。それだけで少しだけ救われる。
***
「お礼をさせてください!」
少女が再び頭を下げる。
***
「いらない」
反射的に答えた。
***
「え?」
***
「いや絶対重いやつだろそれ」
経験はないが、なんとなく分かる。
こういうのは大体面倒になる。
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「そんなことありません!」
「あります」
即答だった。
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「金とかいらないし」
「出ます」
「出るのかよ」
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一瞬、考える。
「……少し欲しいかも」
本音が漏れた。
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「正直ですね」
リゼリアが呟く。
***
「ですが」
筋肉男が腕を組む。
「報酬以上の価値はある」
「やめろ重くするな」
嫌な予感しかしない。
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「と、とりあえず!」
少女が空気を変えるように言う。
「今日はゆっくり休んでください!」
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「……帰りたいんだけど」
小さく呟く。
***
「ダメです」
全員一致だった。
***
その日の夜、村では宴が開かれた。
助かったことへの感謝と、魔物がいなくなった安堵からだろう。
食事が並び、笑い声も戻ってきている。
――ただし。
***
誰も俺の近くには来なかった。
***
「近づかないんかい!!」
思わずツッコむ。
***
一定の距離を保ったまま、村人たちは盛り上がっている。
こちらを気にしながら、だが近づかない。
なんとも言えない距離感だった。
***
その日、村で新たな認識が生まれた。
この男は――
助けてくれるが、近づいてはいけない。
***
「……なんか複雑だなこれ」
少し離れた席に座りながら、俺は小さく呟いた。
悪いことはしていないはずなのに、なぜか距離ができている。
その違和感が、妙に引っかかった。
「ここまで読んでいただきありがとうございます!
無事に助けたはずなのに、なぜか距離を取られる主人公でした(笑)
この微妙な関係がこの先どう変わっていくのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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