第七話
次の日から、木葉はルディの生態を調査することにした。朝ご飯を早めに食べて、彼が勤めてる治安局を張り込む。
出勤の様子を確認して、出てくるのを待つ。そこから彼の現住所を割り出す。
我ながら完璧な作戦過ぎて、恐ろしい。
家の角から覗き見る彼女の尻尾は、期待感からものすごく揺れていた。通行人が彼女のことを奇異の目で見るが、本人は気がついていない。
「あの、コノハさん何してるの?」
「ひゃ、ひゃあ!?」
後ろから声をかけられて、ファイティングポーズを取りながら振り返った。
眼前にいたのはリリヤスである。
「わ、私の背後を取るなんてやるな! さ、さてはリリヤスもゆーしゃの仲間だな?」
「……勇者?」
「ルディだよルディ!」
「……まぁ、仲間だけど?」
牙をむき出しにしてから、ジリジリと離れる。尻尾の毛は大きく逆立ち、まるで威嚇するようだ。
そのまま安全に距離を取ると、木葉はそのまま走り去っていく。
彼女の背中を見つめていたリリヤスは首を傾げていたが、木葉は知るよしがない。
全力で逃げていたら、中央区の治安局からいつの間にか商業区まで来てしまっていた。
膝に手をついて、肩で息をする。彼女の呼吸に合わせて、尻尾は上下していた。
騒がしい声や様々な匂い。人間の生活の中心がここに詰まっている。もしかしてここで大きなことを起こせば、人間側に色々復讐できるのではないか。
一瞬ほどそう考えて、首を横に振った。
それでは魔王の信念を裏切ることになる。弱者を救ってからこその誇りある魔王軍である。
木葉が狙うべき憎き敵はルディただ一人であった。
呼吸と調子を整えた木葉の鼻に漂ってきたのは、どこか懐かしい匂い。その元をたどるように鼻を動かす。
「油揚げ!」
耳がピンと立ち、尻尾も立つ。よだれを垂らしながらどこから匂ってくるのか探る。
目を輝かせる木葉は、新装開店と書かれたお稲荷屋さんを見つけた。
木葉は誘惑に逆らうことができず、ふらふらと店の中に入っていく。
店員は全員木葉と同じ獣人の狐種だった。看板娘と思われる可愛い子が、お客様に商品を運んでいる。
「いらっしゃいませ~!」
元気な声に招かれて、木葉は高く手を上げた。
「あら、狐の獣人。私たち以外にもこの街にいたんですね?」
店員さんが不思議がるのも無理はない。
街に住んでいる獣人は犬や猫種が多い。狐種は縄張り意識が高くて故郷からはあまり出てこない。
木葉が一人で活動してるのも、実はかなり珍しかったりする。
「ふふふ、やっぱりあなたも油揚げ大好きなんですか?」
店員さんに問われ──
「大好き!」
目をキラキラと輝かせて、尻尾が外れるのではないかと言うほど大きく振る。
「でも、稲荷寿司って何?」
「それは、酢飯を油揚げで包んだお寿司ですよ。私たちが開発したんですよ」
「それ、美味しいの……?」
せっかくの油揚げ。台無しになってしまわないのだろうか。
想像して顔を歪ませた。
「食わず嫌いはダメですよ。一度食べてから判断してみてください」
店員に言われ、「むー」と少し考えてから了承する。そわそわしながら列に並ぶことにした。
名前を呼ばれ、思わず尻尾が動いてしまう。待ちきれなくなり、店員の案内を追い越して席に座ってしまうほどだ。
注文を尋ねられると、手を挙げながら稲荷寿司を頼んだ。
ワクワクして待っていると、お皿に五個ほど乗ったご飯を油揚げで包んだものが運ばれてくる。
最初は匂いを嗅いで、突っつくように確かめる。少し酢のきつい匂いが鼻についたが、勇気を出して食べてみることにした。
口の中に広がる油揚げのあまさと酢飯の酸っぱさが独特のハーモニーを奏でていて口の中に幸せがいっぱい広がる。
落ちそうになるほっぺを抑えて、歓喜の声をあげた。
二つ目を取り、そのまま一口で食べてしまう。耳をピコピコと動かし、尻尾は軽くほこりが舞うんじゃないかというくらい忙しなく動いている。
「これ、美味しい!」
ゆっくり味わうように噛み締めて、飲み込んだ。遠くからも店員さんが暖かい目で見てくれている気がする。
三個目を口に入れて、目をつぶり味わいながら食べていた。ゆっくりと口を動かして、体の隅々まで行き渡らせるように飲み込む。
落ち着いたような声を出して、ほっと一息をつく。
「美味しいかい?」
「うん、美味しい」
聞こえた声に、素直に答える。そして、誰の声と首を傾げた。
確認するように目を開ける。向かいには楽しそうな表情でこちらを見つめるルディが座っている。
なんだルディかと四個目に手を伸ばしかける。そして、綺麗な二度見を果たした。
「な、なんでここにいるの!?」
「リリヤスから僕を探してたって聞いたから」
木葉の質問に、彼は肩をすくめながら答える。




