第五話
マンドラゴラの有用性はものの数日で広まった。
最初は半信半疑だった。しかし、一人の不治の病を抱えていた患者が治ったことを皮切りに、あっという間に街中に知れ渡った。
ギルドではマンドラゴラ狩りの高額依頼が殺到し、冒険者もこぞって請け負うようになる。マンドラゴラを独占しようとする商人まで現れる始末だ。
その人間の動きを見て、木葉は少し怖いと思った。言いようのないもやもやが胸の中にたまる。
掲示板前に集まる冒険者の群れを、彼女は遠目に眺めていた。
「浮かない顔をしてるね。もう、お金を使ってしまったのか?」
聞こえてきたルディの声に、安堵のため息を漏らす。
「まだ使い切ってはない……けど」
「けど、なんだい?」
「いや……なんでも」
リリヤスの提案で発案料が木葉にかなり入ってきた。しばらくは生きていくのに困らないほどに。それは喜ばしいことなのだが、なんだかスッキリとしない。
マンドラゴラに目の色を変えて探し求める人を見てたら、木葉の発案だと名乗らなくて正解だったとなんとなく思った。
「それで、今日は何するの?」
木葉がギルドにこうやって訪れたのも、泊まっている宿屋に彼が直接手紙をくれたから。
曰く、少し会えないかなってことらしい。
「私、ゆーしゃを見つけるのに忙しいんだけど」
少し唇を尖らせるようにして言うと、彼は笑みを見せる。
「その勇者について分かってることを話してあげようと思って」
その言葉を聞いて、尻尾がピンと立ち上がった。思わず顔を近づける。興奮するように量拳を胸の前で握った。
「何々? 教えて教えて!」
目を一気に輝かせる木葉。一方のルディは困り顔を作っていた。
「ここではちょっとね。一緒にダンジョンに行こう。そこで話してあげるから」
「ダンジョン? ……分かった!」
木葉は何の警戒をすることなく受諾する。その様子を見て、ルディは苦笑を作っているようだった。
※※※※※※※※※※
ダンジョンとは魔物の巣となっている。マナを蓄積した結果作り上げられる自然災害のようなものだ。
人間たちの間では、魔王が作り上げたというあらぬ疑いをかけられている。
ダンジョンは核となるマナコアの強さによって難易度が変わる。弱いコアのものは人間たちの訓練所や冒険者の力試しの場所にされていた。
街の一番近いダンジョン。魔物の中で弱い部類に入るゴブリンしか沸かないゴブリンの巣と言われている洞窟。
木葉はルディに連れられてそこに来ていた。
襲ってくるゴブリンの攻撃を躱し倒しながら奥へと進んでいく。ルディは一歩後ろでこちらを観察するように見てきていた。
「勇者に会いたいって言ってたよね?」
ゴブリンの胸に短刀を突き刺した。そんな時に、彼から質問がとんでくる。
「なんで勇者に会いたいんだい?」
「ころ──」
素直に言いかけて、なんとか喉の奥に言葉を飲み込んだ。
「ほら、ゆーしゃは魔王を倒した英雄だから。憧れ」
「ふーん? 憧れなら、普通は王都に行くんじゃないかな?」
「おーと?」
知らないの? という顔をされて、慌てて取り繕った笑みを見せる。
「おーと、おーとね。うん、おいしいよね」
「……うん、おいしいね」
最後のゴブリンを倒すと、一旦の群れが収まった。
しばらく歩くと、少し大きな空間に出る。ちょうど人間二人が戦えるスペースはある。
続きの通路に向かおうとすると、その場でルディは立ち止まった。
どうしたのかと、木葉は振り返る。
「嘘は良くないね」
その真剣な眼差しは、木葉の心臓の鼓動を高く鳴らした。どこか見透かされたような気がして、慌てて背筋を整える。
「う、嘘じゃないもん」
視線をそらし、手をわたわたと振り回した。尻尾は彼女の理性とは裏腹に不安げに揺れている。
「はは、君ほど嘘が下手くそな人はいないね」
「う、嘘じゃ……」
「じゃあもし僕がその勇者だと言ったらどう──」
彼の言葉を最後まで聞く前に、木葉は動いていた。
短刀の刃を、彼の首に添える。牙をむき出しにして、彼の顔を睨みあげた。
反射的に動いたことに気がついて、木葉は慌てて距離をとって繕った。
「ご、ごめんなさい」
慌てて頭を下げて、尻尾と耳を垂らした。
「じょ、冗談でもゆーしゃを名乗られたら許せなくて……」
「いいよ。僕が意地悪し過ぎたからね」
ルディは首元を撫でくりまわしながら、薄皮が切れた部分を確認している。一拍置いてから、大きくため息をついた。
「でも嘘はよくないね」
木葉を見やる瞳には、真剣な色が混じっている。
「君は最初、勇者という存在を知らなかった。なのに憧れというのはあまりにもわかりやすすぎないかい?」
「……え、えっと?」
「あはは、君──勇者を殺そうと思ってるだろ?」
その言葉に、木葉は喉を鳴らす。




