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第三話

 一日ぐっすり寝て、スッキリと起きた。治安局の紹介ということで、朝ご飯もついてきた。

 温かいスープに温かいパンを味わって食べた。お腹が膨れて満足するしたことを表すように、彼女の尻尾が大きく揺れる。


 ふぅ~とため息をついてから、手を合わせてごちそうさまでしたと呟く。


 食器を店の人に渡してから、木葉は街へと足を踏み出した。

 相変わらず人の波は飲み込まれそうだ。背の小さな彼女は少しでも油断すると危ない。

 しかし、木葉は忍者。山の中で毎日落ちてくる葉っぱを避け続ける修行をしたから、これくらいお茶の子さいさいである。


 人波をうまく躱すように歩き、昨日もらった地図を開く。集中し、建物を見比べ、進んでいく。

 しかし、途中で人の背中にぶつかってしまう。そのまま波に攫われて、あらぬ方向に流されていく木葉だった。



※※※※※※※※※※



「……で、遅れてやってきたわけね?」

「はい、私は悪くないです!」


 ボサボサになった髪を気にせずに鼻息荒く「ふんす」と木葉が胸を張る。その姿を見て、女性は大きくため息をついて頭を抑える。

 横にいた木葉を助けてくれた青年が、苦笑しながら彼女を眺めていた。


 待ち合わせ場所として選ばれたのは、人がたくさん出入りする大きな建物の前。共通言語で『ギルド集会所』という看板が掲げてある。


 何やら剣やら斧やら物騒な武器を持っている人が多い。心なしか男も女も血の気があるように見えた。

 警戒するように尻尾を立てて、周囲を注意深く見る。


「え、今から戦争でもするの?」

「はは、面白い冗談だね」


 青年は笑い、女性は肩を深くすくめる。

 また何か言ってしまいましたと、木葉は首を傾げた。彼女の耳がピクリと動く。


「ここは雑草集めから魔物討伐まで色々な仕事を受けられる場所だよ。いわば、誰でも仕事を斡旋してくれる何でも屋」

「職に困った人はまずここを頼るわ。金回りは初め悪いけど、足がかりくらいにはなるわよ」


 なるほど、人間の社会にはそういったものがあるのかと納得する。

 そんなとき、あるひらめきが彼女の中に降りた。


「もしかして魔王さ……魔王討伐もギルドの仕事にあったりした……?」


 その言葉を聞いた瞬間、二人は一瞬固まった。そして青年は腹を抱えて笑い、女性は呆れたように見つめる。


「そんな仕事あるわけないでしょ……」


 女性の言葉に、木葉は「むむむ」って漏らす。


「だって、魔王は誰かに討伐されたって」

「君、本当に何も知らないんだね?」


 青年が笑いながら続きを話す。


「魔王は勇者によって倒されたよ。世界中誰もが知ってる情報のはずなんだけど、君はどこで過ごしてきたの?」

「……ずっと山奥で修行してたもので」


 この一ヶ月の間、主に人間の生活に慣れるのに精一杯で聞き込みもあまり進んでいなかった。そのゆーしゃとか言う存在を今初めて聞いたレベルだ。


「じゃあ、そのゆーしゃとかいうのに会いたい!」


 その発言にまた二人は目を丸くする。


 青年はもう我慢できないとでもいうように、腹を抱えて笑い出した。女性の方はすでに頭を抑えている。


「いやいや、無理だと思うよ」

「え、なんで?」

「そりゃ英雄だからさ。簡単に会える人間じゃない」


 なんだか納得いかないと、木葉は頬を膨らませる。彼女の尻尾は抗議するようにパタパタとしていた。

 そんな彼女に、「君がもし有名になったら会えるかもね」と、彼はいう。


「それじゃあ、一応遅れたけど自己紹介をしておこうか」


 その一言で青年は背筋を整えた。隣にいる女性もそれに続く。


「僕は治安局治安官のルディ。こちらの女性はリリヤスだ。ま、ここで出会ったのも何かの縁さ」

「取り敢えず、コノハさん。ギルド登録を私と済ませましょう」


 リリヤスに背中を押されるようにして、木葉は建物の中へと入っていく。



※※※※※※※※※※



「本当に面白い子だ」


 ルディ──ルディリック・ローレンバーグは、揺れる黄色い尻尾を見ながら顎に手を当てる。

 彼女から漏れるマナの残滓は、魔王のものが一部混ざっている。冗談で勇者に会いたいと言っていないとそれだけで分かった。


 多分、彼女は勇者を殺す気だ。世間では魔王を倒した絶対戦力として畏怖される彼のことを軽々しく会いたいなどと言うものは、馬鹿か敵視しているものしかいない。

 魔王を倒した実力を分かった上で彼女は言っているのだから、彼女は少なくとも馬鹿ではないだろう。


 笑いを堪えるように髪をかきあげた。黒い髪のすき間から、白い髪が盛れるように見える。それを隠すように、整えた。


 ルディリックは勇者と呼ばれ、尊敬され、用済みとなれば影に追いやられたものだ。そして、その名だけが一人歩きしてしまっている。

 この一ヶ月退屈で仕方なかったけど、これで少しは面白くなるかもしれない。

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