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第二話

 木葉は路地裏の階段で座って串焼きを食べる。甘辛いタレと肉の旨味が口の中に混ぜ合わさり、独特なおいしさを出していた。

 屋台で出しているにしてはかなり満足する味だ。


 ケロって食べてしまい、一度尻尾を軽く揺らす。大きく息をついてから、耳をピンと立てた。

 そうだ、今の自分はお金がないのだ。


「仕事……どうしよ?」


 正直な話、人間の街で暮らしたことのない木葉は、人間社会の複雑な構造を知らない。

 宿はお金を払って泊まるもの。

 料理はお金を払って食べるもの。


 それくらいの知識しかない。


 お金に物を言わせて生活していたツケがついに回ってきたのだ。

 

 手に持った串を眺め、寂しそうにくるくる回す。急に心細くなって耳がペタンと寝る。


「お嬢さん、お金を稼ぎたくないかい?」


 そんなとき、誰かに声をかけられた気がした。顔を上げて周囲を見回す。

 小太りの小男がこちらを見つめていた。思わぬことに身を引いてしまう。


 しかし、すぐに彼が言っていたことを思い出して、姿勢を正した。


「稼げるの?」

「あぁ、そりゃあんたみたいな可愛い獣人ならがっぽりよ」

「がっぽり……ってどれくらい?」

「そうだな。一日で金貨一枚は稼げるな」


 言われ、頭の中でハテナを思い浮かべる。彼女の脳内で金貨は銀貨百枚分、銀貨は銅貨百枚分という計算が始まる。

 途中で計算を諦めて、とにかくいっぱいという結論に至った。


「ほ、本当ですか?」


 もし、その言葉が真実ならば、たくさん美味しいものを食べられる。

 腹が減っていては、魔王の仇討ちもできない。


 少し悩んだ末、了承することにした。


 「ヒヒヒ、それじゃあこっちだ」


 彼に案内されるがまま、木葉は路地のさらに奥へと歩いていく。


 しばらくしてたどり着いたのは、寂れた宿屋みたいなところだった。周りは建物に囲まれており、とても陰鬱とした雰囲気を帯びている。


「あ、あのここで何をするの?」


 少し不安になり、彼女の尻尾の毛が膨らみかけている。

 小男は木葉の質問に対して、振り返ることなく答えた。


「お客さんと座って話すだけだよ。そんなに難しいことじゃない」

「座って話すだけ? それだけで、金貨貰えるの?」

「もちろん、“満足させられたら”だけどね」


 なるほど頑張ると小さくガッツポーズをとる木葉には、男の不気味な笑い声は聞こえていない。


 小男が店のドアを開けた。中から甘くて嫌な臭いが漂ってくる。思わず耳と尻尾を立たせて顔をしかめた。

 中では人がいる気配を感じるが、何をやっているのかは分からない。何やら密室みたいなところでゴソゴソとしている。


 男について中に入ろうとした。しかし、木葉は手前で足を止める。なんだか分からないけど、この先に行ったら戻れないそんな予感がした。


「どうしたんだい?」


 小男が振り返り、顔を見てくる。気のせいかと心臓の鼓動を落ち着けるように一歩踏み出そうとする。


「……やはり」


 ふと聞き覚えのある声がした。


「目をつけて正解だった」


 振り返ると、先ほど串焼きを奢ってくれた青年が立っていた。スルリと腰に提げている鞘から剣を抜く。


「誰ですかい?」


 小男が反応する。青年は小さくため息をついて、肩をすくめた。


「治安官だ。それ以上でも以下でもない」


 その言葉とともに突風が巻き起こる。



※※※※※※※※※※



「……なんで正直について行ったんですか?」


 治安官と名乗る青年に保護されて、そのまま格式ある建物に連れてこられた。

 その後は狭い部屋で待機させられ、しばらくして青い制服を着た女性がやってくる。


 赤い髪に赤い瞳を持った彼女は、木葉の向かいに座った。羊皮紙を机に広げ、羽ペンを手にこちらを見やる。


「稼げる仕事を教えてくれると言ってくれたので」


 女性は木葉の言葉に、大きなため息をついた。


「えっと……名前なんだっけ?」

「……木葉」


 獣人の名前に使われている文字は特殊で、普通の人間には読みにくいらしい。ここ一ヶ月で木葉は自分の名前を一生分名乗った気がする。


「ありがと……。コノハちゃん、世の中にはねそんな都合の良い話はないのよ?」

「そ、そうなんですか!?」


 その彼女の言葉で察したのか、女性は頭を抱えていた。

 一方の木葉は首を傾げる。


「……とにかく、今日は宿に泊まりなさい。明日、仕事を紹介してあげるから」


 女性が新しい紙を取り出して、何やら書き込んでいく。それは周辺の地図のようだ。

 手渡された木葉は睨むようにしてその地図を見やる。


「明日、ここに来れば良いの?」

「ええ、ちゃんとした仕事を紹介してあげるから」


 釘を刺されるように言われた言葉に、木葉は頷くしかなかった。

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