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第十九話

 今日の宿代は、木葉が払うことになった。マンドラゴラの利権で入ってきていた金貨が余っていたお金があったため、大事にはいたらなかった。

 リリヤスには謝り倒されて、後ほど返してもらうことになる。別にいいといったのだが、彼女が納得してくれなかったので仕方なく了承した。

 取り敢えず前金として稲荷寿司を貰って食べる。


 夜半、この街は静まり返らない。いつまでもネオンが光、欲望が渦巻いている。どれほどマナの無駄遣いをしているのだと、ここまで来ると呆れすら沸いてこない。


 ドアがノックされた。返事を聞く間もなく、リリヤスが入ってきた。 

 彼女は治安官の制服でもバニーガールでもなく、黒一色の動きやすい服である。木葉の忍者衣装とどこか似ている。


「治安官としてはいけないからね」


 その言葉に、彼女の声は冗談に聞こえなかった。

 見つかれば、リリヤスでさえ社会的に死ぬ可能性があるのだ。


「見つかったらどうなるかわからないわよ。それでも行くの?」


 リリヤスの最終確認に、木葉は頷いた。


「聞くまでもなかったわね」


 肩をすくめる彼女の顔は、ネオンの光に照らされて真剣そのものである。



※※※※※※※※※※



 酒と甘い匂いが混じった空気に、木葉は顔をしかめる。街のいたるところから臭ってくるので逃げ場はない。

 こんな街は二度と訪れたくない。そう、思わされるほどだ。


 昼間に訪れたカジノの裏口。見張りの人間たちが、酒を飲みながら談笑している。ガラは悪く、顔つきも悪い。

 月夜に紛れるように、木葉は息を潜めていた。高いところから見下ろし、隙がないか確認する。


「どうせ騒ぎになるから、黙って侵入しても無駄よ」


 屋根の縁に足をかけて、リリヤスは木葉の隣に並びながら言った。

 腰に提げた剣の柄に手を置いて、見張りたちを見下ろす。


「一、ニ、三……八人か。これならすぐに制圧できるわ」


 指で数え終わったリリヤスは、木葉が何か言う前に飛び降りる。

 剣を振り、一人目にそのまま振り下ろした。


 悲鳴が響く。見張りが一斉に反応する。

 誰だと叫ぶ前に、リリヤスの剣が閃く。


 あっという間だった。彼らが他に危機を知らせる前に、制圧を完了してしまった。


「降りてきていいわよ」


 人差し指で招かれて、木葉も彼女に続くように地面へと降りる。


 倒れる男たちを見ると、全員息をしている。どうやら殺してはないようだ。


「彼らは雇われてるだけだからね」 


 クソなのは変わりないけどと付け加えてからリリヤスは剣を鞘に収めていた。


「裏口、やっぱり鍵がかかっているわね。開けられる?」

「任せて」


 木葉は懐から針金を取り出す。

 鍵開けは師匠に教わった。忍者の基本はどこにでも入れることだから。

 鍵穴をいじり続けると、中から解錠する音が聞こえる。


「できた」


 ひとこと言って、木葉はドアノブを回した。ドアの蝶番からなる擦れる音に、少し鼓動が早くなる。

 中に誰も見えないことを確認してから、木葉たちは侵入した。


 廊下は冷えている。心臓も冷えている。

 木葉は見取り図の構造と昼間に侵入して見た場所を照らし合わせて、目的地を割り出す。


「……多分こっち」


 極力足音を立てずに、廊下を歩く。時折やってくる見張りは、リリヤスがすべて昏倒させた。

 

 奴隷の子たちが連れられていた場所を逆算して、捕まっている場所を大体割り出す。 

 あとは片っ端からドアを開けることにした。

 

 数個目のドアで引き当てる。


 そこは広い空間だった。一面檻だらけで、その中から息づかいが聞こえる。

 全員怪我をしており、息遣いが弱りきっている。無茶な戦いをさせられたということは、一目で分かる。


「ひどいわね」


 リリヤスが代弁するように口を開く。

 木葉は歯の奥がギリっと鳴る。拳を鬱血するほど握りしめる。


 何より酷いのは、怪我している子たちに治療さえ施されていないことだ。


「動ける大人たちを解放して手伝ってもらいましょう。子どもはできる限り怪我してても助けることにするわ」

「……動けない大人は?」

「悔しいけど置いていくしかないわ……運ぶことができないもの」


 その言葉が木葉の胸に刺さる。それに畳みかけるようにリリヤスが言う。


「脱走がバレたら彼らは殺されてしまうでしょうね」

「だったら……!」

「それでも全員助からないよりはマシ」


 その言葉を聞いて割り切れるほど木葉は大人ではない。どうにかならないかという考えが頭を巡る。

 固く目をつぶって、葉を噛み締める。振り払うようにして頭を振り、小さく「わかった」と答えた。


 そう、助かる人がいるだけマシなのだ。全員助けるは理想論でしかない。


 わかっていながらも、やりきれない気持ちが木葉を襲う。

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