第十六話
赤いカーペットで覆われた大きなフロア。さまざまなスロットマシンが騒音を発生させる。たくさんの人がお金を溶かして狂乱している。
ここでは一体どれほどの魔法が使われているのか想像もしたくない。
ポーカーテーブルではさまざまなゲームが開催されていた。その中で木葉はブラックジャックを行なっている卓を見つめる。尻尾を揺らしながら、ディーラーが回収して捨てていくカードの柄を覚えていく。
「……何してんの?」
リリヤスが近づいてきて、半眼で見つめている。
「一回の遊びで消費したカードはしばらく使わないみたいだから、捨ててるの覚えてる。そしたら、このゲーム簡単じゃないかなって」
「それイカサマだから! やっていいヤツじゃないから!」
「……イカサマ?」
「それをやったら一発で出禁になるやつ!」
ディーラーがこちらをじろりと睨んでくる。まるで、「殺気を見せるなって言ってるようだった」。
リリヤスが咳払いをしながら、木葉の手を引っ張る。
「なんでやったらダメなの?」
「確実に勝てる勝負だったらギャンブルにならないでしょ?」
引っ張られながら、フロアの端による。
木葉はいまだに納得できない顔で小首を傾げていた。その様子を見ていたリリヤスは肩を落とす。
彼女は諦めたように視線を動かし、黒服のボディガードを指差した。
「やはり、人員が増員されてるから、何かあるとみて間違いないわね」
ドア毎に最低二人は張り付いている。通るにも顔確認や口頭確認が徹底されている。
自分たちが警備として許されているのはここまでだ。何か綻びがないかと見て回ったが、さすがに何もない。やはり、見られても困らないということだろう。
いや、木葉からしたら、魔法を無駄遣いしてるだけで黒なのだが。
「やっぱり奥に入るしかないわね……」
リリヤスは腕を組みながら、観察している。木葉も釣られるように見るが、警備を潜り抜ける方法は見当たらない。
「木葉の術で便利なのないの? ほら、姿を見えなくするとか」
「そんな便利なものはないよ」
「だよね」
仕方ないかとでもいうように彼女は嘆息をつく。
「やるしかないわね……非常に不本意だけど」
彼女の顔はどこか覚悟に満ちた顔をしている。木葉が首を傾げると、「少し待ってて」と言って早足で離れていく。
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木葉は再びブラックジャックの卓を見ている。捨てていくカードを覚えるように尻尾を揺らしていた。
基本的に追加導入された治安官は信用されていなく数合わせで連れてこられた程度だ。だからある程度は仕事中でも自由に動けた。
ディーラーがすごくチラチラと見てくるが、何も言ってこない。どうやら彼は、実害が出てないうちは何も言えないらしい。
「コノハさん、また見てたの……?」
声が聞こえたから振り返る。耳と尻尾をピンと立てて、ゾワゾワと微妙に震える。
「な、何よ……?」
バニーガールの衣装を着たリリヤスが立っていた。彼女は顔を赤くして腰に手を当ててる。足を落ち着きなく揺らしている。
彼女の貧相な胸では、布が余ってるのが逆に切ない。
「に、似合ってると……思う」
「そこは素直に言い切ってほしかったわ」
ふんと鼻を鳴らして、腕を組む。逸らす彼女の顔はすごく真っ赤である。
律儀につけてるバニー耳がリリヤスの動きに合わせて揺れた。
「と、とにかくついてきて!」
木葉は手を引っ張られて、連れられていく。
柱の陰に隠れて、リリヤスはボディガードの様子を伺う。木葉はリリヤスの奇抜な姿に目を奪われて集中できない。
「いーい? 私が視線奪うからコノハさんはその隙を伺って侵入してね」
「……わかった」
果たしてうまくいくのだろうか。さすがの木葉も心配になってくる。
リリヤスが先に影から出ていって、ガードたちに近寄っていく。
「お兄さんたち、立ち仕事で疲れてなーい? 私が少しほぐしてあげようか?」
「なんだババアあっちいけ」
瞬間、何かがキレる音が木葉には聞こえた気がした。
「誰がババアじゃ!? こちとらまだピチピチの二十六歳じゃ!?」
髪の毛を逆立てる様子は、いかり狂った猛獣のようだ。ガードたちが、彼女の迫力に圧倒される。木葉も一瞬目を奪われかけて、自分の目的を思い出した。
彼らの視界に映らないように小さな体をさらに小さくしながら、コソコソと扉に入っていく。
背後で閉まるドアの音に、安堵の息をついた。ドア越しにはまだ言い争ってる声が聞こえる。
取り敢えず彼女のことは置いておくとして、木葉は白く無機質な廊下を歩いていく。




