第十四話
隣街は娯楽の街と言われているらしい。様々な人間の娯楽が集まってくる。
食文化、遊園地、賭け事。そのすべてが人々を魅了する。
しかし、娯楽と引き換えに築き上げられた裏の顔も持っている。
木葉は稲荷寿司を口にしながら、視界先に鎖で繋がれた魔族の子どもたちを見つめる。戦闘の鞭を持った男が、怒号を上げていた。
多くの魔族は、奴隷に身を落とすことになった。それが正義だとして是とされている。
木葉は葉の奥を鳴らす。牙をむき出しにして、耳と尻尾を逆立てた。そんな彼女の肩をリリヤスが叩く。
「何をしても無駄よ」
「……でも」
「魔族は悪。それを好きにするのは許される。たとえそれが違法な奴隷商だとしてもね」
リリヤスの視線の先を見ると、この街の治安官がいた。彼は明らかに奴隷商が見える位置にいるのに、見て見ぬふりをしている。
「ここで暴れたら、捕まるのはあなた。コノハさんは損をするだけ」
その言葉に、深呼吸をする。耳と尻尾の逆立ちが収まっていく。葉の奥はまだギリっとなっているが、なんとか理性を保つ。
「ま、鼻息荒いのはギリギリよしとしておくわ……」
「そんなこと……全然……まったく……」
「無理しなくていいわよ。ほら、追加の稲荷寿司」
手渡されて、一気に目を輝かせた。奴隷商を横目で見つつも、稲荷寿司を頬張る。幸せの味に思わず尻尾を揺らした。
客観的に見れば餌付けされているのだが、彼女自身は気づいていない。
そんな木葉をこの街の治安局へと引っ張っていく。
「治安局第四支部職員リリヤスです」
受付の人にリリヤスが自分の所属と名前を言っていた。
やる気のなさそうな男は、あくびまじりに羊皮紙に書き込んでいく。視線を木葉にずらして、羽ペンの先で差してきた。
「で、こっちの獣人は?」
「こちらは研修生のヤリズイコノハです。今日は実地訓練ついでに連れてきました」
「ヤリズイ……ヤリズイ……聞いたことないな。ちょっと確認するね」
リリヤスがゴクリと喉を鳴らしている。
一方の木葉はそんなことは関係ないとでもいうように最後の稲荷寿司を頬張った。満足感からため息を漏らして、尻尾をゆっくりと動かす。
「……あったあった。うん、じゃあそっちの責任者から応援要請として受理してるから。と言っても、こんなところで騒ぎを起こそうとするバカはいないだろうけどね」
「はい、分かりました」
一通りの受付を終えてから、木葉はリリヤスに背中を押された。受付から離れた直後、彼女はベッと彼に気づかれないように出す。
「何が騒ぎよ。そもそも、バカはどっちだって話」
「……どうしたの?」
小首をかしげる木葉に、リリヤスが大きく肩を落とす。
「コノハさん、自分の立ち位置わかってる?」
「……?」
リリヤスは大きくため息をついていた。しかし、木葉は何のことを言われているか一向に見当がつかなかった。
「まぁ良いわ。簡単な概要だけじゃつかめないだろうから、一度宿に行きましょう」
「……分かった」
返事をすると、彼女の後ろをついて無意識に尻尾を揺らしながら歩いていく。
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街中にいると気分が悪くなる。主に人間に対する怒りが神経を削る。
宿の中に入ったことでやっと落ち着くことができた。
部屋を取ってくるといったリリヤスを待って、木葉は席につく。
机に頬杖をついて、小さく息を吐いた。尻尾を不満げに一度揺らすと、街の中の情景が頭の中に浮かんでくる。
真の敵は、勇者だけではなかったのだ。そう認識するのには今日一日で充分だった。
「ちょっと、高すぎない!?」
響いてくるリリヤスの声に、耳をピクリと動かす。
「こんなに高くちゃ経費で落ちないんだけど!?」
「お客様、そう言われましても当街は“富豪向け”でございまして……。この程度で高いと言われましたら、ほかの宿では泊まることなんてできません」
「あーもう、わかったわよ。一拍、一部屋、一金貨! これでいいでしょう!?」
取り敢えずどうしたのかなと、ノソノソと近づいていく。苛ついて足を揺らしていたリリヤスが振り返って目が合った。
「一金貨ってどれくらい?」
「……稲荷寿司一個の銅貨二枚と比べてみて」
銅貨百枚で一銀貨。銀貨百枚で一金貨。指を折りながら数えていたが、途中で分からなくなった。
「とにかくそのくらいえげつない金額よ……ボロ宿のくせに」
リリヤスの言葉に受付の人が咳払いをした。振り返り、彼女は会釈をする。
「ま、この街では金が正義ってことね」
「金が正義なら持たないものは?」
「……まぁ、人間なら追い出される程度で済むんじゃない?」
その人間ならという言葉が意味深に聞こえた。だったら奴隷となった魔族は一体どういった扱いを受けるのだろうか。
木葉は想像しかけて、怖くなりやめた。




