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第十三話

 木葉は数日、宿から出ていなかった。ベッドの中でモソモソと過ごし、たまにご飯を食べに下に降りていく。

 彼女の髪はすっかりボサボサとなり、尻尾も艶が消えていた。


 ベッドに座る彼女は、ポケたんとした表情で窓の外を見つめる。明るい日差しに目を細めてから、そのままベッドに倒れ込んだ。


「稲荷寿司……食べたい」


 そう口にするが、彼女はもう外に出る気は起きない。何かしようとする気力が湧いてこなくなっていたのだ。

 ダメ人間になると心の奥ではわかってはいるのだが……。


 視界の先にあるドアが三回ノックされた。木葉は見つめたまま動こうとはしない。返事もしない。


 無視していると、ドアが開かれた。顔を出したのはリリヤスだ。


「なんだ、いるんじゃ──くっさ!」


 その一言に木葉の尻尾と耳がピクリと立つ。しかしすぐにぺたりと落ちる。


「獣臭い! コノハさん、どれくらいお風呂はいってないの!?」

「……知らない」

「あーもー女の子にこんなこと言いたくなかったわよ!」


 リリヤスは怒りながら近づいてくる。そのまま手を引っ張り、木葉を起こした。力なく倒れ込もうとする木葉に、ちょっとと大きな声を出していた。


「ほら、お風呂入る!」

「……面倒くさい」

「女の子でしょ!?」


 そのままズルズルと公衆浴場まで引きずられていく。



※※※※※※※※※※



 されるがままに洗われて、部屋に戻ってきた。バスタオルで無造作に髪を拭かれる。ボサボサだった尻尾にクシを通されて、ふわふわに手入れされた。


 下着姿の木葉はそのままコテンとベッドに寝転んでしまう。その姿を見て、リリヤスは頭を抱えた。


「はぁ、これは相当重症ね……」


 呆れてため息をつく彼女を見つめるが、木葉は何も言わない。視線が合うと、再び大きなため息をつかれた。


「ルディが忙しいから、コノハさんに仕事が回ってきたわ」

「……なんで私?」


 ルディが忙しくても、木葉が仕事をするいわれはない。その返答が来るとわかっていたのか、彼女は肩をすくめた。


「シンディからの依頼よ。ルディの責任を引き受けろだって」


 その言葉に、耳がピクリと動いた。瞳にわずかな光が宿る。


「で、どうするの?」


 問われ、木葉は膝を抱えた。そのまま尻尾まで丸まり、不貞寝モードに入ってしまう。


「私的には、受けてくれるとありがたいんだけど……? ほら、私は魔族のことあんまり良く分かってないし」


 その言葉を聞いて、顔を上げる。彼女はようやく聞くきになった? と言って依頼書を渡してきた。


「依頼場所は隣街。裏賭博場。魔物との戦いで見せ物になってる魔族を助けて……だそうよ」

「……ルディが了承したの?」

「えぇ。彼は言ってたわよ、“魔族への認識を根本から改めないといけない”って」


 これまでのルディは、まだ心の中で魔族は悪であってほしいと思っていたそうだ。しかし、木葉に会って彼はその考えが逃げだと思い直したらしい。

 リリヤスはそんな彼の考えを了承して、一緒に動くことにしたそうだ。


「とにもかくにも、私は本当に何も知らないの。少しでも事情を知ってるコノハさんが来てくれないと、とても困るのよ」

「……でも、それってルディでもできますよね?」

「……なんかわからないけどその言い方腹立つわね」


 リリヤスが木葉の手を引っ張って、無理矢理体を起こす。へニャリとまた倒れ込みそうになったところを睨まれた。

 やる気なくため息をつくと、そのままベッドの縁に座る。踵同士を考えるように軽く打ち付ける。


「ルディから任せたって完全に投げられたの」


 その言葉を聞いて、肩を落とす。

 木葉はゆっくりと立ち上がると、替えの服に袖を通し始める。


「わかった、行く」


 その答えを聞いて、リリヤスはほっと胸をなで下ろしていた。


「良かった。ほんっと、どうしようかと思ってたわよ。魔族の善悪なんて分からないもの」

「善悪なんてないよ」

「……え?」


 彼女の返しに、真剣な瞳を木葉は落とした。


「魔族に善悪なんてない。人間と一緒。悪い人もいれば良い人もいる。ただ、生活してるだけ」

「……なるほどね」


 その言葉を聞いたリリヤスは納得したように小さく頷く。


「だったら、その賭博場は見過ごせないわね」

「……どうして?」

「だって、人間を商品として扱ってるんだもの。完全に違法よ」


 それだけ言うと彼女は羊皮紙に何かを書き込み始める。それを木葉に押しつけた。


「ルディリック勇者パーティーの剣士──リリヤス・ドーベルガーが宣言する」


 その言葉を彼女が放った直後、羊皮紙が輝き始める。


「ヤリズイコノハを、治安局非常勤捜査官に任命する」


 その羊皮紙は腕に巻き付いて、彼女の服装が青色の治安局の衣装へと変わった。


「ま、これくらいの職権乱用は許されるでしょ。どうせ上は現場なんて見てないし」


 そう言ったリリヤスは手をヒラヒラさせながら苦笑する。

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