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第十一話

 外はボロボロでも中は非常に整えられていた。講堂は子どもの遊び場になっているのか、そこかしこに玩具が転がっていた。

 特に驚いたのは、掲げられている女神像の翼の種類だ。一見普通の像に見えるが、見る人が見ればあれは魔族を表していると分かる。


 シスターの案内で通されたのは、談話室だった。窓もなく、逃げられそうにない場所だ。

 思わず殺されるんじゃないかと身構えた。彼女の不安を表すように尻尾が立つ。


「そんなに身構えなくて大丈夫ですよ〜?」


 シスターは頭巾を取る。そんな彼女の側頭部には角があった。


「ま、魔族!?」

「はい、私はサキュバス種のシンディ・クロニヘルです」


 彼女はシスター衣装の前を少しほどけた。豊満な胸を包む衣装は際どく、少しでも動いたら見えてはいけないものが見えてしまいそうだ。さらに確認の追加をするように、シンディの背後から悪魔の尻尾のようなものが揺れた。


 シンディは「お見苦しいものをお見せしました」と小さくいうと、胸元をしっかりと閉じる。


 木葉は信じられないとでもいうように拳を握る。強く力のこもったそれは震えていた。


「なんでゆーしゃと一緒にいるの!?」


 その言葉にシンディは少し考えてから、小さく答えた。


「それ以外、私たちが生き残る術はないからです」

「ゆーしゃは魔王様を殺したんだよ!?」

「えぇ、分かっています。でも、過ぎてしまったことを嘆いたとしても、時間はまってくれないでしょう?」


 牙をむき出しにして怒鳴る木葉の肩を押して、ソファに無理やり座らせた。


「魔族ってそんなにすぐ誇りを捨てるものなの!?」


 その言葉にシンディは小さくため息をつく。


「誇りで生きていけますか?」


 見開かれた目は赤色で暗い光を宿していた。まるで心の底まで見透かされるようなそれに、思わず言葉をなくす。

 シンディは小さく息をついてから、部屋の隅に置いてあったポッドとカップを用意した。


「紅茶です。少しは落ち着くと思いますよ」


 差し出されたそれを、木葉は飲む気になれなかった。


「確かにルディさんは、魔王様を殺しました。しかし、彼は“それが正しい行いだと信じてやった結果です”」

「その正しさのために魔王様は──」

「戦争が止むのなら魔王様も本望でしょう。事実、彼は魔族を無駄に殺してはいません。殺し回っているのは“人間社会”です」


 小さく息を吐いてから、シンディは続ける。


「利用されたものを、額面通りに受け取って、そのまま憎んで殺すなんて、それこそあなたの憎む者と同じじゃないですか?」


 言われ、言い返そうとして、言葉を詰まらせる。そのまま視線を落として、揺れる紅茶を見つめた。


「私、はっきり言ってあなたに怒ってるんですよ?」


 シンディは小さくそれでも圧のある言い方をする。顔を上げると、彼女は睨んでいた。赤色の瞳には侮蔑の色も混じっている。


「役目を終え、安息に暮らしていたルディを、あなたは再び渦中に放り込んだのです」

「私、そんなことしてな──」

「魔物と魔族の関係。彼に話したでしょう?」


 言われ、また顔を俯かせた。


「彼は、魔族を追い払えば世界のためになると正しいと思ったからやった。しかし、実際は魔物被害は拡大している。そんな時にそのことを口にすると彼の行動はどうなると思いますか?」

「……知らない」

「責任を感じるに決まってるでしょう?」

「……知らない知らない!」


 耳をふさぎたかった。駄々をこねたかった。子どものように理想だけを追いかけていたかった。

 しかし、シンディは逃さないとでもいうように、木葉を見下ろしていた。


「……生憎私は教会の仕事があり動けません。あなたが代わりにルディを守ってください」

「なんで私が……!」

「あなたが、火を、再びつけたから、です。責任を取るのは、人間社会では当たり前ですよ?」


 その言葉の重さは、木葉には計り知れない。


 黙って膝の上で手を握る木葉に、シンディは大きくため息をついた。


「ま、脅してしまいましたけど、あなたが行動に出なくてもいずれこうなってた気がしますけど」


 その言葉は呆れたような諦めたようなニュアンスが含まれている。


「それに、ルディがあなたへここに連れてきたのは、完全に思惑があってのことでしょうしね。……たぶん、仲間に引き入れたいんでしょう」

「……なんで私を?」

「そりゃいくら勇者と言っても、個では動けないからでしょ? かつての仲間たちもそれぞれ国に管理されていますし。……彼自身、自分の居場所を隠すのに限界だとわかっているようですし」


 色々言いましたがと一拍置いてから、シンディは短く続けた。


「一番は、国にバレてない人間で事情を知っている仲間が欲しかったのでしょう」


 彼女の顔はどこか悲しげである。

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