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第十話

 彼との移動中に暗殺を十回以上試したが尽く失敗した。折られた短刀を見ながら、ズーンと落ち込む。

 分かりやすく肩と尻尾を落とす彼女に、ルディは苦笑する。


「そんな殺意分かりやすかったら、誰でも気づくよ」

「さ、殺意を隠すように訓練したもん!」


 頬をぷくっと膨らませて、ルディから視線を外した。


 二人がやってきたのは、街の外周の石壁に近い貧民街。貧しい民たちが、慎ましくも逞しく過ごしているところだ。


「おーう、ルディくん。今日もわざわざ来てくれてありがとう」


 貧民街の入り口で、男が声をかけてくる。ボロボロの衣服を身に着け、体中が汚れていた。髪の毛も手入れがされていないのかかなりボロボロだ。

 それでも彼は、逞しい笑顔を見せている。


「隣の子はだれだい? リリヤスさんじゃないの珍しいね」

「リリヤスは今日は別件だよ。この子は新しく僕の部下になった子」

「……え!?」


 唐突のことを言われ、木葉は驚きの声とともにルディを睨む。彼は唇に人差し指を当ててシーと息を漏らす。

 どうやら話を合わせろということらしい。


 木葉は唇を尖らせて不服そうにする。自分の名を名乗って、頭を下げた。


「獣人か、モフモフそうな尻尾いいね」


 男の軽口に思わず自分の尻尾を押さえた。ルディはその様子を見て笑みを漏らしている。


「それ、セクハラですよ」

「ええ! それだけでセクハラになるのかい!」


 ルディの言葉に男は参ったなぁと頭に手を当てて「ガッハッハ」と笑っている。


「それじゃあ、中に入っていいかい?」

「もちろん、ゆっくりしていってくれ。中は本当に汚いけどな」


 ルディが男に頭を下げる。木葉もそれに続いて頭を下げた。


 ボロボロの木の門を潜ると、雰囲気がガラリと変わった。建物も臭いもすべて普通の街よりもみすぼらしく感じる。それでも暮らしている人々はとても頼もしく感じるのは気のせいだろうか。


「人が住む以上、貧富の差は避けられないんだよね」


 横のルディは苦笑しながら喋る。彼の手には、先ほど木葉が投げたクナイが握られていた。

 

「でも、僕はその差をなくしたいと思ってる」

「……嘘くさい」

「ま、君の視点だとそう思ってしまうよね」


 そう苦笑するルディは、どこか悲しげであった。


「それでも、この街はまだかなりマシな方だと思う」


 その言葉の裏に、ほかの街は酷いと言っているように感じた。世間を知らない木葉は、そのルディの言葉の真意を測ることはできない。


 彼について歩くと、着いたのは少しボロボロの教会のようなところだった。建物の天辺に建つのは、信仰を示す十字架。しかし、その横に並んで掲げられているのに、木葉は息を呑んだ。

 魔族の印である紋章も掲げられていたからだ。あれは、人間には知り得ないはずのものだった。


「ここから先は、内密にしてくれるとありがたい」


 そんな彼の言葉を遮るように、教会から子どもたちが走ってくる。みんな帽子を深く被っている。


「ルディだ!」

「喰らえ! 悪のゆーしゃめ!」


 玩具の剣で斬りかかれて、彼はやられたフリをする。その様子を見て、子どもたちはキャッキャッと笑っていた。


 遅れて出てきたのはシスター衣装に身を包んだ優しげな女性だ。

 青色の長い髪は地面まで届きそうである。糸目に艶やかな唇は不思議な魅力を備えている。出るところは出てしまるところはしまっている体は、女の木葉でも目が奪われるものがあった。


「ルディさん、今日も来てくれたんですか?」


 物腰柔らかい口調と態度が、木葉に違和感を与える。彼女はどこか聖職者の匂いがしないのだ。


「まぁ、これが僕の仕事だからね」


 子どもたちの頭を撫でながら、ルディは苦笑した。


 それでと、女性は木葉に視線を向ける。

 シスターは頬に手をおいたまま、首を傾げた。


「こちらの方は?」

「あぁ、紹介するよ。コノハちゃん、魔王の敵討ちとして僕の命を狙ってる獣人の女の子だ」

「……え!?」


 木葉の言葉に合わせるように、シスターの女性はあらまぁと声を漏らした。


「ルディ殺されるのー?」

「なんでなんでー?」

「ルディ殺すならゆーしゃを殺して!」


 子どもたちがルディを守るように手を広げている。そのルディが勇者なのだがと声に出そうとなった。寸前のところで喉の奥に飲み込む。


「なるほど、あなたも時代に置いていかれたのですね〜?」


 いつの間にかシスターが、木葉の手を握っていた。聖職者とは思えない力の強さに、思わず手を引き抜こうとする。しかし、どれだけ力を込めても抜けることはない。


「ルディさん、少しコノハさんとお話したいのですが大丈夫でしょうか?」

「もちろん、大丈夫だよ。そのために彼女を連れてきたんだから」


 何がなんだか分からないまま、木葉は教会の中に引きずられていく。

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