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勇者の兄は魔王の親友です  作者: アシタビト
冒険者ブルー・アルトリオ
21/42

表に出ろ

「悪いな、こんなところで」


夜明け頃、合わせた手を離し、俺は立ち上がる。ここはエインドから南にいった、海が良く見える崖の先端だ。

本当はちゃんとした場所に埋葬してやりたかったけど、イーシャ大陸(ここ)じゃ無理だろう。そう思ってなるべく良さそうなところ探した結果、ココが一番いいだろうと思った。ココはイーシャ大陸で一番ラーナー大陸に近いからな、徹夜で探したんだ、どうかコレで勘弁してくれよ。

作りは穴を掘って、塞いで、カットした岩を乗せただけの簡単なもの。乗せた墓石は、俺が適当な大きさの岩を持って来て、斬って作った物なんだけど、刻んだ文字はオッサンの名前じゃない。


【義理堅き者、ここに眠る】


仕方なく、そう刻んだ。

本当、義理堅いにも限度があるよ……アンタ。

今の俺に出来ることは、この程度。いつかこの人も、しっかりとラシュフォンドに届けてやりたいと思ってる。

だけどその前に、やる事がある。何せ一生のお願いだからな、しっかりと果たしてやらねぇと合わせる顔がなくなっちまう。


「さて、じゃぁ俺は戻るよ」


立ち上がって来た道を戻り始める。

しっかし、そうなると、問題はあのラギアン・ラギレスか……

あの後俺は、簡単な質問に答えただけで、案外直ぐに解放して貰えた。でも、それは俺から害意が消えたからであって、信用された訳じゃぁない。

あの人は俺を睨んでいるんだ。少なくとも危険人物として認定はされてるだろうな。


「キシャァァアア‼︎」


あ?んだこのデカいヘビ、魔物か?邪魔。


--シュパッ。


「キシュゥゥアァァ……⁉︎」


多分、ラギアン・ラギレスって冒険者は、いい人なんだと思う。

この世界に生まれてから、素で年下に敬語使ってきた人なんて初めて見た。服装だって清潔感のあるものだったし、表情も常に微笑みを崩さない、普段からあらゆる方向に気を使ってる人なんだと思う。だから大通りを殺気全開で突き進む俺を放っては置けなかったんだろう。


「グルゥウアァァア‼︎」


今度は虎かよ。


--シュパッ。


「グギュゥアァァ……」


止めてくれた事には感謝しているし、あの正義感も見上げだものだ。だけど、それに目をつけられちまったのは、運が悪かったとしか言いようがない。最悪だ。


「ギギギギ‼︎」


…蜘蛛もこのサイズになると、流石にキモいな。


--シュパッ。


「ぎ…ギギ……‼︎」


あの人がAランク冒険者なんてわざわざ言ったのはなんでだ?どう考えても変な事したらぶっ飛ばすぞって意味だろ。ずっと微笑んでいたのだって、周りに気を使って険悪な雰囲気を出さないようにしてたからだろ。

いやはや困った…


「ギッ!ゴッ!」


何コイツ?ゴブリンの派生か何かか?


--シュパッ。


「ギェエエッ…エ⁉︎」


亜人を助ける。俺がやろうとしている事は、人間から見たら異常のそれだ。親の仇の無差別殺人鬼を檻から出すくらいトチ狂った行為に映るだろうな。そんな事、あの正義感溢れるイケメンが黙って見てるのか?

絶対なんかしてくるよマジで……

んでもって、周りは全員あのイケメンを応援してすると……本当、勘弁してくれ……あんなの敵に回したくねぇぞ。


「ピェエーーー‼︎」


今度は鷲か〜。


ーーシュパッ。


「キィー…」


少しでも行動間違ったら即アウト。正直どうしていいかサッパリ分からんし、そんな事考える頭も持ち合わせちゃいない。

何から手ぇつければいいんだ?つーか何用意すりゃいいんだろ?う〜ん……とりあえず亜人の暮らしがどんな感じなのか、直接見聞きするしかないな。願わくば、あのオッサンみたいなヤツがいなけりゃいいが……


「ガァア!」


何コレ、小さめの恐竜?


--シュパッ。


「が…がぁ…」


とりあえずエインドに戻ってみてだな。

先ずは町中を巡ってみて、オッサンの言ってた溜まり場は最後にしようと思う。そこに殆どがいる事は分かってる訳だし、お互い助け合ってる筈だ。亜人の能力から考えても、今日明日で死人が出るとは思えない。


「グルル…」


……狼。


--シュパッ。


「ギャンッ⁉︎」


それよりも気になるのは”殆ど”じゃない方だ。終戦した事で亜人奴隷が解放されたとは言え、人間の大半がソレに納得していない。やっぱオッサンみたいに盾にされたり、考えたくはないけど奴隷同然に扱われてるのが居てもおかしくはない。

……どっちも大して変わんねぇか。


「ギチギチ!」


……


--シュパッ。


「キシュルルル⁉︎」


まぁとにかく、個人、もしくは人間と一緒にいる亜人を探してみよう。んでもって様子見か〜、我慢できるかね?するしかないけどさ。


「グババ!」

「ウホッ!ウホッ!」

「キェェエー!」

「ギャアア!」

「ゴァァア!」

「キシャァア!」

「ギュォオオ!」

「ルァア!」

「パウッ!パウッ!」


……さっきから何なんだよマジで、どいつもコイツもアホみてぇに襲い掛かって来やがって。俺なんかした?いい加減キレるよ?

つーか元より虫の居所が悪いんだよ。何?煽ってんの?



ぶっ飛ばすぞ。




そしてエインドに戻ってきた。

え?魔物はどうしたって?

斬った。以上。さて話を戻そうか。

エインドはそんなに広くない、観光しようものなら、1日で事足りる程度で、人口だって1500も居ないと思う。

なら亜人を探すのは簡単なのかと言うと、そうでもない。何せ、俺がこの町に来てから見た亜人はあのオッサン1人だからな。

大半がオッサンの言ってた場所に集中してるとしても、完全に関わりを絶ってる訳じゃぁないはずだ。

生きる為には食わなきゃいけない、でも、ここは人間の国、金も食料も道具も人間が握っているし、仮に自給自足しようにも、農具も苗もない、土地だって人の物だ。必然的に人と接触しなきゃいけなくなる。

でも見当たらない。

って事は数自体そんなに多くないんだろう。元々イーシャにいる亜人は捕虜か奴隷、亜人だって自分を害する人間と仲良くしたい筈がない。そんで数も少ないなら、必要な物一通り多目に買って、なるべく接触しないようにするだろうな。

つまり、そんな中から更に外れてるのを1500の中から見つけないと行けないのか。

辛……


「うっわ、みろよアレ…」

「あぁ?出たよ、またアイツか。本当、皆なんで放っておくんだか……」


いや、そうでもなかった。

通行人の声に視線を変えれば、そこには亜人がいた。

身長約2メートル。頭からは枝の様な灰色のツノが生えており、鱗を携えた丸太の様な腕をもつ恐ろしい形相の巨漢。アレ絶対竜かなんか混ざってるよ、多分竜人とかそんなヤツ。

そんな大男が、明らかに駆け出しと言った具合の、若い冒険者パーティーに混ざってた。



何やってんのぉぉおお⁉︎



いやちょっと待ってくれ流石にコレは予想外だ。え?何アレ?どう言う状況なの⁉︎


「「「……」」」


空気重ッ‼︎

う〜ん……もしかして冒険団に入ってきた新人を教育する為につけたのか?それとも厄介払いよろしく擦りつけられたとか……にしても酷いな、まるで葬式だぞ。


「馬鹿野郎!あの魔族の強さお前も知ってるだろ!しかも目立った事の一つもしねぇし、ひっ捕まえるのも難しいんだと」

「ケンカ売った古参連中が秒殺されたからな……ラギアンさんならどうにか出来ねぇのか?」

「出来るだろうけど、あの人クラスを動かすとなんかマズイらしーぜ?明らかな条約違反の差別行為と危害を加えたなんちゃらかんちゃら〜って」

「は〜。よくわかんねぇけど、あの新人達も不運だなぁ。アレじゃぁ逆らいようがねぇ」

「なんでも『守ってやるから入れろ』って言われたらしいぜ、あの顔で。報酬も山分けだとよ」


解説ご苦労!

成る程、つまりあの人は自分から進んであのパーティーに入った訳か。しかもちゃんとお金稼いでるみたいだし、上手くやったなぁ。

コレなら心配しなくてよさそうだ、次の亜人を探してみよう。




困ったな、粗方探し回ったけどあの後から一人も見当たらない。うん、まぁ、普通に考えたら仲間内で集まってるのに、単独行動するヤツなんぞいないか。

仕方ない、ギルドで情報収集して、それでもいなかったら諦めよう。

腹立つからあんまり喋りたくないんだがな……そう考えてギルドに入る。相変わらず広い室内に、冒険者達がたむろっていた。

左奥には道具屋と大衆食堂兼酒場まであるんだ、人が多いのも頷ける。ここなら情報収集もしやすいだろう。

その時だった。


「ん?」


気がついたのは偶然、誰に話しかけようかと食堂の方に近づいた時、1人の女の子が目についた。

身長160前半くらい、濃い茶色と薄い茶色が入り混じったショートヘアーの、スラリとした体型な女の子。

一見すれば、ただの駆け出し冒険者の少女。でも、俺にはそれがどうしようもなく異質にうつった。

何せ、飲み物を仲間の元へ運ぶ、それだけの動作にもかかわらず、隙がない。

ドーランのジジイと同じだ。気を張った、武人の様な歩み。まるで猫化の動物の様なしなやかな動き……いや猫だなアレ、人間じゃない。アレは、


亜人だ。


確信を持ったと同時に、彼女と目線が重なる。瞬間、今までニコニコと浮かべていた笑みが消え失せ--


「っ⁉︎」


『言ったら殺す』そう言われた気がした。


「ツァイ〜?どうしたの〜?」

「ううん、なんでもないよ〜」


何あの子超怖い……。

仲間に呼ばれて席に着くも、俺への目線は絶やさないし。


「あ、すいません。オレンジジュース下さい」

「はい、かしこまりました」


だから俺も黙ってると伝える為、ウェイトレスさんに注文を言うと、素知らぬ顔して近場の席に着く。

それで分かってくれたらしく、今度は仲間との会話に集中し始めた。

ん〜、やっぱり亜人だよねあの子、正直全然気が付かなかった。亜人的特徴は見当たらないけど、どうしてんだ?まぁ、俺のイヤリングみたいなもんでも持ってるんだろうけど……分かんないだけで案外いるのかね?ああ言うの。

パーティは5人構成の様だ、男2人、女3人で仲良さげに雑談をしてる。そうして見れば本当にただの少女にしか見えない。でも、アレで、いいんだろうか?

隠してるって事は、やっぱあのパーティ連中も亜人が嫌いなんだろうな。そして、あの子が亜人だってことも知らない筈。

じゃぁ、お前が今の見せてるその笑顔は本物なのか?もし、目の前で同族がいたぶられても、演技を続けられるのか?

辛くは、ないのか?


「オイッッ‼︎」


それはまるで、俺の疑問に答える様な出来事だった。

突然放たれた怒号にギルドの入り口を見れば、そこに居たのは絶世の美女。

疲れているのか窶れた顔をしていて、汚れの目立つ質素な服を着て尚その美貌が有り余る、まるで絵に描いたような美人。余りに並外れた容姿に、説明は難しいが、丁度良く彼女を一言で表せる言葉を俺は知っていた。


エルフ


声を張り上げたのは長く尖った耳を持つ亜人だった。


「貴様ら〜〜‼︎」


突然の来訪に、ギルドの全員が唖然とする中、彼女は大股でズカズカとある一角に突き進む。そこでは、テーブルに複数の男達が座り込んで呑んだくれていたが、彼女の鬼気迫る雰囲気にコップを持ち上げたまま固まっていた。

そして目の前まで来ると、猛獣を思わせる勢いで両腕を伸ばし、一人の胸倉を掴んで強制的に立たせる。


「彼を何処へやった⁉︎何をした!言わんかっ‼︎」

「は、はぁ⁉︎な、なんの事だよ⁉︎」

「しらばくれるつもりか〜〜‼︎」

「お、オイっ!誰かっ、誰か助けてくれ‼︎」


掴んでいるのは割と体格のいい成人男性、大して彼女は身長170近くと、女性では高い方だがその差は歴然。にも関わらず、その細腕からは想像も付かない怪力で男を浮かせた。

首も閉まっているのか、男の顔はどんどん青白くなっていく。

この辺りで流石にヤバイとギルド内にいた冒険者達が武器に手をかける。

が、俺にとってはそっちの方がヤバイ。流石の怪力でもこの数相手にするのは無理がある筈、止めに入ろうと足に力を込める。が、そこでふと思う。

あの女の子はどうしてる?

俺は急いで顔を其方にむける。そこには、切迫した仲間に囲まれながら、複雑そうな表情をしたあの娘がいた。

なんだよ、やっぱ無理してんじゃん。


「もういいっ!お前が答えろッ!」

「ひ、ひぃ!」


彼女は締め上げていた男を投げ捨てると、次の標的に狙いを変えて迫った。

男が離された事で、皆の動きが少し和らぐも、このままじゃ乱闘騒ぎになりかねない。何をあんなに熱り立っているんだ? 原因が分かれば諭せるかも知れないけど……


「な、何をだよ…!」

「貴様らの冒険団にいただろう‼︎灰毛狼人の彼だ‼︎」


ん?


「貴様らは帰ってきたと言うのに彼の姿はない!一体どこへやった⁉︎言えッ‼︎」


多分オッサンの事だよな?つまり、あそこの連中は”晴天の空”の団員だったって事か。わざわざ探し回るなんて、もしかするとあのエルフさんは亜人の人数管理でもしているのかも知れないな。

コレは俺が説明しなきゃダメだろう。

そう思って立ち上がると--


「あ、あの魔族の事かッ⁉︎お、俺たちは知らねえ、あ〜!アイツだ!アイツが全部やったんだ!」

「え?」


声に顔を向ければ男が俺の方に指を指しながらそういっていた。

待って、その言い方だと俺が悪い人みたいじゃん!

いや待てよ、連れてったのは俺だ。そして彼等はオッサンが死んだ事を知らないだろうし、連れて行った当の本人は1人でギルドにいる。

うん、どう考えても俺がなんかした様に見えるな、うん。


「貴様か〜〜‼︎」


エルフのお姉さんが物凄い形相で近づいてくる。


まぁ、そうなるわな。


……どうしよう。

とりあえず一回落ち着かせて--


「答えろ‼︎彼を何処へやった‼︎」


あー、間に合わなかったわー、胸倉掴まれたわー、滅茶キレてるわー、絶対俺が悪者と思われてるわー。

なんて説明するよ?つーかここで喋べんのマズくね?周りが段々殺気立ってるし、死にましたなんて言ったら間違いなく殺し合い始まるぞ。早くこっから出ないといやこの雰囲気じゃついてくるヤツ出かねんしそれ以前に町中じゃ目立つし外に連れ出すにしてもどうやって……

あぁ、もうどうにでもなれ!

俺はエルフのお姉さんの腕を掴むと、強制的に離させてこう言った。


「表に出ろ」

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