第34話、上限なしの軍拡(お買い物)。
そして週末。
俺たちは再び秋葉原の電気街にいた。
人混みをかき分け、PCパーツショップの専門店へ。
マイクコーナーには、数万円から十数万円もする高級マイクがずらりと並んでいる。
「うわぁ、いっぱいある……どれがいいんだろ」
七瀬が目を回している。
「碧、詳しいんでしょう? おすすめを教えてくださらない?」
「……予算は?」
「上限なし。……良いやつ」
「お前ら、ブルジョワかよ……」
俺は苦笑しながら、棚の商品を指差した。
「配信……じゃなくて、通話や録音に使うなら、この単一指向性のコンデンサーマイクがいいな。ノイズを拾いにくいし、声の輪郭がはっきりする。ただ、感度が良すぎるから、周りの音も拾っちゃう。だから吸音材とセットで使うのが正解だ」
「へぇー! さすが碧! 詳しい!」
「このマイク……『神志名鈴香』ちゃんも使ってるって噂のやつですね」
椎名が値札のポップを見て言った。
そこには『VTuber神志名鈴香、愛用モデル!』と手書きで書かれている。
「えっ!? あ、そうなんだ! 知らなかったなぁー!」
七瀬がわざとらしく驚き、「これにする!」と即決した。
その後、俺たちは防音材のコーナーへ。
壁に貼るウレタンフォームや、遮音カーテンを物色する。
「これで……夜中に叫んでも大丈夫かな?」
「七瀬、お前夜中に何するつもりなんだよ」
「え? あ、その……歌の練習! ロックな曲を歌いたくて!」
「……ん。……絶叫系」
買い物を終え、両手に大きな紙袋を抱えた俺たちは、カフェで休憩することにした。
冷たいアイスコーヒーが、乾いた喉に染み渡る。
「ぷはー! 生き返るー!」
七瀬がストローをくわえたまま、だらしなく笑う。
椎名は優雅に紅茶を啜り、美波はメロンソーダのアイスを突いている。
カフェのテラス席。
休日の秋葉原は多くの人で賑わっていたが、俺たちのテーブルだけは奇妙な静寂と熱気が同居していた。
話題の中心はもちろん、昨晩の「彼」のことだ。
「でねでね、椎崎さんの何がすごいって、あの状況判断能力よ!」
七瀬が身を乗り出して力説する。
テーブルに置かれた紙袋の中身――数万円もするコンデンサーマイクのことなど、すっかり忘れているようだ。
「昨日の最終局面、あえて敵部隊のど真ん中を突っ切るなんて、普通思いつく? 私、絶対に無理だと思ったもん!」
「ええ、そうですわね。わたくしも最初は耳を疑いましたけれど……結果として、敵同士を同士討ちさせて、漁夫の利を得る完璧な作戦でした」
椎名が頬を紅潮させて同意する。
普段は冷静沈着な生徒会長が、ゲームの話になるとここまで熱くなるとは。
「……ん。……あの声もいい。……落ち着く低音」
美波がポツリと付け加える。
俺はストローを噛み潰さないように必死だった。
自分のことを目の前でベタ褒めされる居心地の悪さ。
しかも、相手は俺の幼馴染たちであり、同時に俺が憧れていたトップVTuberたちなのだ。
正体がバレたらと思うと、心臓が早鐘を打つ。
「そ、そうか? まぐれ当たりじゃないのか?」
俺は平静を装い、意地悪く返してみる。
「むぅー! 碧は分かってない! あの計算された動きは、まぐれなんかじゃないよ!」
「そうですわ! 椎崎様は、きっと数々の戦場を潜り抜けてきた歴戦の勇士に違いありません!」
「……碧には分からない。……ゲーム音痴」
三者三様の非難が飛んでくる。
俺は「はいはい」と降参のポーズをとった。
「でも、不思議だよね」
ふと、七瀬が首を傾げた。
「不思議って?」
「だって、椎崎さん……なんか、他人って感じがしないんだもん」
ドキリ、とした。
「声とか、喋り方とか……なんかこう、安心するというか。初めて話したのに、昔から知ってる人みたいな……」
「……奇遇ですわね。実はわたくしも、同じことを感じておりました」
「……私も。……背中を預けられる感覚。……懐かしい」
三人が顔を見合わせる。
俺の背中を冷や汗が伝う。
勘が鋭すぎる。これが「女の勘」というやつか、それともトッププレイヤーゆえの直感か。
「ま、まぁ、波長が合うってことなんじゃないか? チームとして相性がいい証拠だよ」
俺は必死に誤魔化す。
「そうだね! 運命のチームってやつかも!」
「運命……素敵な響きですわ……」
「……ん。……運命共同体」
単純な彼女たちは、俺の適当なフォローにあっさりと納得し、再び「椎崎談義」に花を咲かせ始めた。
俺は胸を撫で下ろしつつ、冷え切ったコーヒーを飲み干した。
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