第32話、Vの皮を被った幼馴染?。
「――接敵。座標245、倉庫の二階窓!」
「了解です! 射線、通します!」
「……ん。裏、回った。……挟む」
「なら僕は正面でヘイト(敵の注目)を買う。合わせてくれ!」
「「「了解!!」」」
キーボードを叩く乾いた音が、静寂な部屋にリズミカルに響く。 マウスを握る右手に力が籠もる。画面の中、荒廃した都市の廃墟を駆け抜ける俺の愛用しているキャラクター『ブレイズ』は、一瞬の迷いもなく銃口を敵に向けた。
ダダダダッ!
乾いた銃声と共に、敵の前衛がダウンする。 完璧なタイミングだ。俺が飛び出した瞬間に、遠距離から『雲雀川美桜』のスナイパーライフルが火を噴き、敵の頭を撃ち抜いたのだ。
「ナイスカバー、雲雀川さん!」 「……ありがとう……椎崎さんのおかげ。」
ヘッドセットから聞こえるのは、優雅で落ち着いた声。 だが、その声音の裏には、獲物を仕留めた肉食獣のような獰猛な愉悦が滲んでいる気がした。気のせいだろうか。
「右翼、残り一名! 私が行くっ!」
「あ、待って神志名さん! そこはクレイモア(地雷)が――」
俺の制止よりも早く、ピンク髪のアイドルアバター『神志名鈴香』が突撃を敢行した。
ドォォォォン!!
「きゃあああああっ!? い、痛いぃぃっ!」
爆風に巻き込まれ、鈴香の愛用キャラクターの「ルミナス」が宙を舞う。 悲鳴が可愛らしいアイドルボイスから、一瞬だけ素の叫び声に変わったような気がした。どこか聞き覚えのある、ドジを踏んだ時の情けない悲鳴に。
「……バカ。……何回引っかかるの」
「ううぅ……だってぇ、そこに敵がいると思ったんだもん!」
「……待って。スモーク焚く。……蘇生、いける」
冷静な声と共に、影から現れた『神楽坂遥』がスモークグレネードを投げ込む。 白い煙が充満する中、美桜は手際よく鈴香の蘇生に入った。
「す、すみませんっ! 足手まといで……!」
「いや、今の爆発で敵の位置が割れた。結果オーライだ。立て直そう」
俺は苦笑しながらも、冷静に指示を飛ばす。
初めてのチーム練習。ボイスチャットを繋いでの連携。
本来なら、初対面の人間同士、ぎこちなさが残るはずだ。遠慮や、呼吸のズレが生じるのが当たり前だ。
それなのに、なんだ、この感覚は。
(動きやすすぎる……)
まるで、俺の手足が拡張されたかのような錯覚。
俺が「右に行きたい」と思った瞬間には、既に右側のクリアリング(安全確認)が終わっている。
俺が「弾切れだ」と焦った瞬間には、絶妙なタイミングで援護射撃が飛んでくる。
「神楽坂さん、次の安置(安全地帯)予測は?」
「北側の山岳地帯ですわね。今のうちに高所を確保しておきませんこと?」
「同感だ。雲雀川さん、車両の確保を」
「……ん。……もう乗ってる。……早く」
速い。
意思決定の速度が、異常なほど噛み合っている。
「えへへ、私運転するー!」
「神志名さんは助手席で回復しててくれ。運転は雲雀川さんに任せよう」
「えーっ! 私の運転じゃ不満なんですかぁ?」
「……鈴香の運転、酔う。……荒い」
「むぅ……美桜ちゃんのいじわるぅ」
このやり取り。
どこか懐かしい。デジャヴというには鮮明すぎる。
まるで、いつもの放課後、俺の部屋で繰り広げられる七瀬と美波の言い合いを見ているようだ。
(……いやいや、考えすぎだろ)
俺は首を振って思考を追い払う。
相手は天下の「三大女神」だ。登録者数数百万人を誇るトップVTuberたちだ。
俺の幼馴染である、あのガサツで、食いしん坊で、寝坊助な三人と同一人物なわけがない。
それに、彼女たちの声だ。
神志名鈴香の声は、鈴を転がしたようなアイドルボイス。
神楽坂遥の声は、落ち着いた大人の女性の声。
雲雀川美桜の声は、ミステリアスなウィスパーボイス。
七瀬たちの声とは、質が違う。……多少似ている部分はあるが、それは「可愛い声」の系統が似ているだけだろう。
「よし、山頂取れた。最終円、ここで迎え撃つぞ」 「了解です!」 「はいっ!」 「……ん」
画面の中、四人のキャラクターが背中合わせに陣取る。
俺の胸の内で、確かな予感が熱を帯びていく。
このチームなら、勝てる。
今までソロで限界を感じていた壁を、彼女たちとならぶち破れる。
「来るぞ、3パーティ同時だ!」
「蹴散らしますわよ!」
銃声と爆音が交錯する戦場。
俺たちは言葉を交わすよりも速く、阿吽の呼吸で敵を殲滅していく。
その夜、俺たちは初顔合わせにも関わらず、練習試合で三連続チャンピオン(優勝)をもぎ取った。
『#TeamD最強説』
『この連携、初日ってマジ?』
『椎崎のオーダー完璧すぎんか?』
SNSのタイムラインは、俺たちの快進撃に沸き立っていた。
だが、その熱狂の中心にいる俺自身が、一番驚いていたかもしれない。
「ふぅ……今日はここまでにしましょうか。皆さん、お疲れ様でした」
「お疲れ様でしたっ! すっごく楽しかったです!」
「ふふ、良い汗をかきましたわ。椎崎様、また明日もよろしくて?」
「……ん。……おつ」
Discordの通話を切断する。
プツン、という音と共に、部屋に静寂が戻る。
「はぁぁぁ…………」
俺は椅子に深くもたれかかり、天井を仰いだ。
ドッと疲れが出た。だが、それは心地よい疲労感だった。
時計を見ると、深夜二時を回っている。
「やべ、明日も学校だぞ」
慌ててPCをシャットダウンし、ベッドに潜り込む。
目を閉じても、瞼の裏には銃口のフラッシュと、彼女たちの声が焼き付いて離れなかった。
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