第30話、届いた招待状と動き出す運命。
午後の授業をなんとか耐え抜き、放課後のチャイムが鳴り響いた。
ホームルームが終わり、担任の教師が教室を出ていくと同時に、俺は鞄を持って廊下に出た。
すると、待っていたかのように隣の教室から七瀬が、そして別の階から椎名と美波がやってきた。もはや恒例となった集合だ。
「碧ー! 一緒に帰ろー!」
七瀬がまたしても飛びついてくる。
「わかった、わかったから! さぁ、帰るぞ!」
俺は少し恥ずかしそうに身をよじりながらも、その温もりを悪い気はせずに受け入れた。
四人で並んで廊下を歩く。夕日が窓から差し込み、長い影を落としていた。
昇降口を出て、校門をくぐる。
学校から家までの道のりは、緩やかな下り坂だ。
茜色に染まった空の下、街並みが美しく輝いている。
他愛もない話をしながら歩いていると、不意に、昨日の夕食のことが頭をよぎった。
昨日は秋葉原から帰ってきた後、それぞれの家でバラバラに夕食をとった。
今日のこの雰囲気なら、みんなで集まってもいいかもしれない。
「そういえばさ」
俺は立ち止まり、三人を振り返った。
「今日も、一緒に夕飯食べるか?」
俺の提案に、三人の顔がパァっと明るくなる。
「食べていく!」
七瀬が食い気味に即答した。
「じゃあ、今日はピザをデリバリーしよー! チーズたっぷりのやつ!」
「ふふ、いいですね。たまにはジャンクフードも悪くありませんわ」
「……ん。……賛成」
トントン拍子に話が決まり、俺たちは足取り軽く俺の家へと向かった。
家に着くと、早速七瀬が手慣れた様子で注文を済ませる。
30分もしないうちにインターホンが鳴り、熱々のLサイズピザが二枚、リビングのテーブルに広げられた。
「お待たせー! コーラも持ってきたよ!」
「コップの準備もできましたわ」
四人でテーブルを囲み、それぞれがピザを手に取る。
「「「「いただきまーす!」」」」
声を揃えて挨拶をし、かぶりつく。
とろけるチーズとトマトソースの香りが口いっぱいに広がる。学校での疲れが一気に吹き飛ぶような美味さだ。
他愛のない会話と笑い声が、リビングを満たしていく。
「あー! お腹いっぱい!」
最後の一切れを平らげた七瀬が、満足げにソファにダイブした。
「さて、片付けますか」
「俺も手伝うよ」
俺と椎名は立ち上がり、空になったピザの箱やコップを片付け始めた。
椎名の手際は相変わらず鮮やかだ。俺がゴミをまとめている間に、テーブルを拭き、コップを洗い終えていく。
その背後では、既にゲームの起動音が響いていた。
「美波、勝負だ! 今日こそは負けないからね!」
「……ん。……受けて立つ」
七瀬と美波がコントローラーを握り、格闘ゲームを始めている。
画面の中では派手なエフェクトと共に、キャラクターたちが拳を交えていた。
「ああ! ちょ、そこハメ技じゃない!?」
「……甘い」
「ふふ、お二人は本当に仲が良いわね」
洗い物をしながら、椎名が微笑ましそうに二人を見つめる。
「全くだ。……よし、片付け完了っと」
俺たちがソファに戻ると、ちょうど七瀬がKOされたところだった。
「う~! もう一回!」 「次はわたしも混ぜていただけますか?」 「お、じゃあ俺も入るか。四人で乱闘モードなら盛り上がるだろ」
そこからは、時間を忘れてのゲーム大会となった。
悲鳴、歓声、そして連打の音。
幼馴染四人で過ごす時間は、何物にも代えがたい居心地の良さがあった。
気づけば、時計の針は23時を回っていた。
「うわっ、もうこんな時間か」
俺は時計を見上げ、三人に視線を戻した。
「遅くなっちまったな。……今日も、泊まっていくか?」
俺が尋ねると、三人は顔を見合わせ、少し残念そうに、けれど満足そうに首を横に振った。
「今日は帰るね! 明日も学校あるし、着替えも持ってきてないから」 「そうですね。いつもより少し早いですけれど、今日はこれでお暇いたします」 「……ん。……また、明日」
「そっか。わかった、気をつけて帰れよ」
名残惜しさはあったが、家が隣や向かいだとはいえ、夜更かしが過ぎるのも良くない。
俺は三人を見送るために玄関まで出た。
「今日はありがとな。楽しかったよ」 「うん! ごちそうさまでした! おやすみ、碧!」 「おやすみなさい、碧」 「……おやすみ。碧にぃ。」
三人の背中がそれぞれの家へと吸い込まれていくのを見届け、俺は鍵を閉めた。
急に静かになったリビング。
祭りの後のような静寂の中、俺は風呂場へと向かった。
湯船に浸かり、ほう、と息を吐く。
天井を見上げながら、今日の楽しかった時間を反芻する。
幼馴染たちとのゲームは楽しい。それは間違いない。
けれど。
「……また、あいつらともゲームしたいなぁ」
ふと、口をついて出た言葉。
神志名鈴香、神楽坂遥、雲雀川美桜。
土曜日に偶然マッチングした、あの最強の三人組。
あの連携、あの高揚感は、幼馴染たちとの気楽なゲームとはまた違う、魂が震えるような熱さがあった。
「なんてな。高望みしすぎか」
俺は苦笑して風呂から上がった。
髪を乾かし、自室に戻ってスマホを手に取る。
寝る前に仕事用のメールチェックをするのが日課だ。
「……ん?」
受信トレイに見慣れない送信元からのメールがあった。
件名は『Official Tournament Invitation』。
差出人は、人気FPSゲーム『Crisis Sector』の公式運営事務局。
「運営から? なんだ?」
タップして中身を開く。
『Player: 椎崎 様
突然のご連絡失礼いたします。
この度、開催される公式大会におきまして、特別招待枠として参加していただきたく――』
「……マジか」
『参加してみませんか?』という招待状。
俺はゴクリと喉を鳴らした。
これは、俺のソロプレイヤーとしての……「椎崎」としての実力が認められたということか?
心臓が高鳴る。
断る理由なんてない。俺は震える指で返信画面を開き、二つ返事で了承のメールを送った。
――それから、一時間後。
既に自室のベッドに入っていた七瀬、椎名、美波の三人のスマホにも、同時に通知音が鳴った。
それぞれの仕事用メールアドレスに届いた一通のメール。
『Player: 神志名鈴香 様』
『Player: 神楽坂遥 様』
『Player: 雲雀川美桜 様』
内容は、碧に届いたものとほぼ同じだった。
だが、そこには決定的な一文が添えられていた。
『あの奇跡のマッチは忘れられないものになりましたので、ぜひ椎崎さんをお誘いしました。皆様で一緒に出てみませんか!』
それぞれの部屋で、三人は画面に釘付けになった。
(奇跡のマッチ……椎崎さんと、また!?)
(運営様……なんと粋な計らいを!)
(……椎崎と、一緒。……やる)
そのメールを受け取ってから30秒以内。
三人は、まるで示し合わせたかのように、食い気味に『参加します!』という返信ボタンを押していた。
幼馴染たちと過ごした穏やかな夜の裏で、運命の歯車は大きく動き出していたのだ。
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