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普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。  作者: 水鳥川倫理
第2章

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第28話、ポーカーフェイスの限界点。

学校の正門をくぐり、昇降口で上履きに履き替える。

廊下を歩く生徒の数はまだまばらだ。早朝の校舎特有の、少し冷たくて埃っぽい匂いがする。


階段を上がり、2年B組の教室の前に立つ。


「おはよう」


小さく呟きながら、後ろのドアを引いた。

その瞬間だった。


ガヤガヤガヤ……!


教室の中に足を踏み入れた途端、予想外の熱気が俺の顔を打った。

まだ始業まで30分以上あるというのに、クラスの中は妙な活気に満ちていた。


特に、教室の後方。男子生徒たちが数人で固まり、机を囲んで何やら興奮気味に話し込んでいる。彼らの中心にあるのは、数台のスマートフォンだ。


「マジかよ、これ!」

「ヤバいって、このAIM!」

「神回すぎるだろ……」


飛び交う単語の端々から、彼らが何を見ているのかは容易に想像がついた。

俺は背筋に冷や汗が伝うのを感じながら、極力気配を消し、忍び足で自分の席へと向かった。


窓際の一番後ろ。そこが俺の安息の地だ。

誰とも目を合わせないように、空気のように移動する。

鞄を机の横に掛け、椅子を引き、音を立てずに座る。


よし、セーフだ。このまま予鈴が鳴るまで、静かに寝たふりでもしていれば……。


「おい碧!! お前、生きてるか!?」


ドカッ!


背中に衝撃が走った。誰かが全力で背中を叩いたのだ。


「ぐっ……!?」


肺から空気が押し出される。

痛みに顔をしかめながら振り返ると、そこにはクラスでも一番のゲーム仲間である友人、田中が立っていた。


彼の目は充血し、血走っている。髪は寝癖で爆発しており、興奮のあまり鼻息が荒い。まるで何かの猛獣だ。


「……痛ぇな。なんだよ田中、朝っぱらから。脊髄損傷したらどうすんだよ。生きてるよ」


俺は背中をさすりながら、恨めしげに睨みつけた。

しかし、田中にはそんな抗議は全く届いていないようだった。彼は俺の机に両手をつき、顔をぐいっと近づけてきた。


「のんきなこと言ってる場合か! 碧、お前見たか!? 土曜日の椎崎さんの配信! あれ見たかよ!?」


唾が飛びそうな勢いだ。テンションが高すぎて引くレベルを超えている。

俺は内心で(やっぱりその話か……)と深いため息をついた。


だが、ここで動揺してはいけない。俺はあくまで「一般人の目黒碧」だ。「伝説のプレイヤー椎崎」であってはならない。

俺は冷静さを装い、わざとらしくあくびを噛み殺した。


「……ああ、土曜日のあれか。そういえば、そんなこともあったな」


極めてローテンションに、興味が薄そうに答える。

それが田中の導火線に火をつけた。


「『そんなこと』だとぉー!?」


田中が裏返った声で叫ぶ。


「おい! 冷たい反応するなよ! あれは奇跡のマッチングだよ! 奇跡! Miracle! なんせ、あの『神志名鈴香』と『神楽坂遥』と『雲雀川美桜』だぞ!? 配信界の三大女神、あの美少女Vチューバーたちが、野良で椎崎さんと同じチームとしてマッチしたんだぞ!?」


田中の大声に、周りの男子たちも一斉にこちらを向いた。


「そうそう! あれはマジでヤバかった!」

「俺、リアルタイムで見てて鳥肌立ったわ!」

「アーカイブ、もう5回は見返したぞ!」


クラス中が、昨日の話題で持ちきりだった。どうやら、クラスの男子の半数、いや、ゲームをやっている奴らは全員目撃者らしい。

田中はさらにヒートアップし、スマホの画面を俺に突きつけてきた。


「見ろよこのコメント欄の嵐! トレンド入りもしたんだぞ! しかも、ただマッチしただけじゃない。あの連携! 即席チームとは思えないレベルのシンクロ率だったじゃないか! 鈴香ちゃんのカバーに入った椎崎さんの判断とか、もうプロゲーマー超えてたろ!」


田中の熱弁は止まらない。

俺は苦笑いを浮かべながら、適当に相槌を打つしかなかった。


「へぇ……。まぁ、あれは確かにすごいマッチングだよな。連携も取れてたし、なんかこう……仲良さそうだったし」


つい、ポロリと本音が漏れた。

当事者目線で感じた「仲の良さ」。言葉を交わさなくても通じ合うような、あの温かい空気感。

田中はその言葉を、ファンの妄想として肯定的に受け取ったようだ。


「だろ!? だろだろ!? 画面越しに絆が見えたよな! しかも椎崎さんはその後に、Twitterの返信でしっかりとお礼をしてたし、紳士だよな本当に。前世はどんだけ徳を積んできたのか。くー! 羨ましい! 俺も鈴香ちゃんとマッチして『ナイスカバー!』とか言われたい人生だった!」


田中は頭を抱えて身悶えしている。


「……さあな。案外、ただのゲーム好きの一般人かもしれないぞ」


俺は精一杯のポーカーフェイスで誤魔化した。

国を救った覚えはない。だが、昨日の秋葉原での海鮮丼で、椎名にウニを譲った徳ならあるかもしれない。いや、あれは奪われたんだったか。


キーンコーンカーンコーン……。


救いの予鈴が鳴り響いた。


「ちぇっ、もう時間かよ。もっと語りたかったのに」


田中は名残惜しそうにしながらも、自分の席へと戻っていった。

俺は机に突っ伏し、ふぅと長く息を吐いた。

心臓が早鐘を打っている。


(……バレてない。大丈夫だ、俺はただの目黒碧だ)


窓の外を流れる雲を眺めながら、自分に言い聞める。

午前の授業は、驚くほど長く、そして退屈だった。


数学の教師が黒板に書く複雑な数式も、現代文の朗読も、右の耳から左の耳へと素通りしていく。ノートにペンを走らせてはいるが、頭の中にあるのは昨日の映像だ。


遮蔽物の裏から飛び出すタイミング。

クロスファイアを組んだ瞬間の快感。

背中を預けられる安心感。


(また、あいつらとやりたいな……)


無意識にそんなことを考えている自分がいた。

シャーペンの芯が折れる音で、俺はハッと我に返った。

いけない、集中しなければ。

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